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「さて、説明を始めようかの」
早朝、ガーベラさんの使者がやって来て、屋敷に案内された。
客間に通されてすぐ、いつものドレス姿のガーベラさんが現れる。
オニキスの姿が見えないから尋ねてみたところ、本日は別件で現場に出ているとのこと。
廊下にはメイドさんがいるんだろうが、この部屋にはガーベラさんと俺たちだけ。
初めて屋敷に来た時の状況とほぼ一緒になった。
「お主たちに協力してもらうのは大狩猟・・・通称、狩猟祭と呼ばれる行事じゃ」
―――狩猟祭。
シルフィでは政府と生活者協会が協力し、定期に大掛かりなモンスター討伐を行っている。
政府や協会は大狩猟と呼んでいるが、民間は狩猟祭と呼称しているとのこと。
大狩猟の前後は武具や資材の流通が活発になり、狩猟が始まれば怪我人も増えて医者も儲かる。更には参加した戦闘職は討伐に応じた報酬を協会だけじゃなく政府からも得られ、協会に報告することで素材も手に入る。
商売だけでなく、戦闘職も儲かる唯一の行事。
民間にとっては一種のイベントと捉えられたことで、いつしか狩猟祭と呼ばれるようになったそうだ。
ただ、これは楽しいイベントじゃない。
「狩猟祭の期間中はお祭り騒ぎになるが、本来の目的はモンスターの個体数を減らすことじゃ」
シルフィはボルドウィンと比べて、生息する大型種の種類が多い。
中には繁殖能力が高い種類もいるらしく、定期的に個体数を減らしておかなければ大きい被害を出してしまうかもしれない。
「そしてこの国の命運を左右する選挙にも繋がる」
モンスターの個体数調整も大きい仕事だが、政府側・・・特に次期国王選挙に出る者にとっては外せない行事の一つになる・・・らしい。
「何で選挙に影響するんです?」
「狩猟祭に出るのは、ワシらのような次期国王の座を狙っておる者がおるからじゃ」
ガーベラさんのような政務官。
地元の有権者。
そして、現国王のマーガレットなんかが該当する。
だが、実際に参加するのは、戦闘に参加する現場の人間だ。
今回は俺たちも参加することになるが、狩猟に出る連中はそれぞれの陣営のために戦う。
俺たちの場合はガーベラさんのために戦うし、他の連中はそれぞれの候補者のために戦う。
大きな成果を挙げることができれば、その候補者が大きな戦力を持っていることになり、国民は信頼する要素にできる。
一頭でも多く、強い一頭を狩ることができれば、一票に繋がる。
勝たなくてはこの国を変えることができない。
ガーベラさんにとっては大きいイベントになる。
それでもまあ、覆せないこともある。
美しい者が王。
この法律がガーベラさんにとって最大の壁になる。
どれだけ狩猟祭で能力を示したとしても、その法律がある限り、マーガレット優位は覆らない。
前も思ったことだが、俺にとっては大差なくても、エルフ族の中ではそれなりに違いはあるらしいし、ガーベラさんよりマーガレットが美しいってのは変わらんようだ。
何にせよ、俺個人・・・いや、梟とオオカミの都合もあるし、やらにゃならんってことには変わりない。
俺たちが参加することでどれだけ影響があるか・・・たぶん、そこまで大きく影響は出ないだろうが、それでも差を埋めなきゃならんわけだし、プレッシャーを感じるなぁ・・・
「ってか、最早選挙する意味もねぇけどなぁ」
・・・そういう見方も出てくるよなぁ。
「何でそうなるんだよ?」
「最も美しい者がって縛りがデカいんだよ。結局、何やったって、今だとマーガレット以上の美人が出てこなきゃ覆らねぇ」
それだけこの国にとって美しいってことは重要視されているってことになる。
それはそれで悪いことじゃないんだが、法律にまでして影響度を上げる必要はないと思うんだよなぁ。
「まあまあ、そう言いなさんな」
ガーベラさんは苦笑いで、
「あくまでも狩猟祭は個体数を減らすことを目的としておる。選挙に影響があることは事実じゃが、それはおまけじゃ。お主らは目の前の狩猟に全力で挑んでもらえればそれで良い」
「そういうわけにもいかんでしょう」
「ジェシカは影響があるかもしれんが、キリヤたち国外の人間には、誰が王になろうと影響はさほど無かろう」
まあ、定住するなら問題は出てくるんだろうが、ヴェロニカの親の調査もビューラ大陸を目指すって方向性で本決まりみたいなもんだし、しばらくしたら出て行く。
本気で向き合っても・・・ってなるわけだ。
だが、
「乗りかかった船だ。やるなら最後までやりますよ」
だからと言って適当はしない。
目的があってそうしているとしても、ガーベラさんはよくしてくれている。一宿一飯ってレベルじゃないが、返せる恩は返しておきたい。
・・・貸し借り無しにしておきたいってのが本音だが。
「狩猟祭のルールについて説明する。よく聞いてくれ」