19-5
「魔族か・・・なるほどのぅ」
何だ?
すごい嫌な感じがするのは俺だけか?
ヒト族、エルフ族、巨人族の話の時は特に変な雰囲気はなかったはず。
魔族って分かった途端にこれだ。
嫌悪とか厄介とか、そういう感じはしないからまだいいように思えるが・・・
魔族に一体何があるってんだ・・・?
「あの、正直に伝えるんですが」
「おう、どうした?」
この件はかなり闇が深いのか・・・?
どっちにしても、おかしい空気の原因を突き止めないと。
「俺は転移者でして」
「お前さん、別の世界の人間だったのか」
「・・・なるほどの。ならば知らなくても仕方あるまいな」
「キリヤさん、その話は伏せておいても良いのでは?」
「いや、いつかは気付くだろ」
後ろにいる隠密さんに、な。
「ですから、その魔族ってのがどういう存在なのか分かりません」
問題は存在そのもののような気がする。
そこを紐解かないと始まらない。
「魔族であればマズいことでもあるんですか?」
「ふむ・・・」
ガーベラさんは小さく息をついた。
そして、
「いや、別に問題はないぞ?」
「・・・は?」
問題ないの?
え?じゃあ何でそんな空気になんの?
「誤解をしているようじゃが、別に何の問題もない。他がどう思うておるかは知らぬが、ワシ個人は何もない」
「なら、どうして微妙な雰囲気を出すんです?」
「いや、これはなかなかレアケースでの」
「・・・レアケース?」
「魔族という種族の話からせねばなるまいな」
そんな面倒な存在なのか・・・?
「魔族は我々エルフやお主たちのようなヒト族と比較して、全てにおいて高い能力を有する種族じゃ」
「全てにおいて・・・?」
「物理攻撃や防御、魔法攻撃と防御、更に魔力量、体力、知力・・・全てにおいてじゃよ」
今挙がった内容って、ゲームにおけるパラメータの大半のような気がする・・・
ってことはアレか!?
魔族ってのはこの世界における最上位種なんじゃないのか!?
「お前スゲェな!?」
「すごいらしいねぇ。フフッ」
何・・・?最後の笑い・・・
何か企んでるのか?それとも別の何か?
怖い。シンプルに怖い。
「ただまあ、問題はそこじゃなくての」
内容にもよるが、確かに最上位種ってことは問題にはならない。
なら他に何かがあるってことになるが・・・
「魔族は基本的に一定の場所にしか住まない種族での」
「・・・ほう?」
一定の場所にしか住まない・・・?
「魔族はシルフィとは真逆のビューラ大陸に住んでおる」
「・・・ビューラってことは」
胸のポーチを開いて地図を出した。
今がU字の左側にいるわけだが・・・
「・・・遠いなぁ」
ビューラってのはU字の底に当たる大陸だな・・・
「そこのファンネリア王国が彼らの首都じゃよ」
大陸の大体中央の位置に、ファンネリア首都と書かれている。
「大陸全体がファンネリア王国ですし、相当な規模ですよ」
・・・よくよく見れば、他の国の名前がない。
大陸全体がファンネリアって、どんな規模なんだよ・・・
もうスケール感覚が分からん・・・
「魔族はビューラ大陸から出ることはないと聞く。故にヴェロニカがここにおることがおかしいのじゃ」
・・・そうか。一定の場所にしか住まないわけだし、ファンネリア王国の外れとかに住むならまだしも、別の大陸に住むなんてことはないよな。
しかも、
「赤子の状態なら尚更ですね」
そういうことだ。
「ノーラにいるのなら、例の森にヴェロニカを置いて去ったというのが妥当な話じゃろうが、そもそもノーラに移動するかどうかも怪しい話じゃろうな」
「そもそも、何で別の大陸に移動したりしないんです?」
「分からん。そういう習性なのかもしれぬな」
種族によって習性があるのか?
それなら分からなくもないけど、極端すぎるように思える。旅行とか行かないのか?
「そういう意味で言えば我々エルフ族も、大陸間移動はなかなかありませんね」
「・・・そうなのか?」
「まあ、例がないわけじゃないが」
魔族だけじゃなくて、エルフも出不精なのか?
「移動しないわけではないぞ?ボルドウィンとは隣同士じゃし、国家間の友好関係構築のために、ワシもたまに出向いたりしている。他の国から呼ばれることがあれば出向くが、それ以外に向かうことはないかのう・・・」
まあ、ガーベラさんは仕事が仕事だし、プライベートの時間もそう多くないだろうし、旅行に行くのも難しいってのは分からなくもない。
「中でも魔族はそういう傾向が強いと聞く。もちろん、例外はあるじゃろうが」
種族によってそういう習性があるのか、それとも別の何かがあるのか・・・?
エルフ族がシルフィ以外であまり見かけないっていうのは、そうさせる何かがあるのかもしれないな。
その何かが分からないが・・・
「交流がないというのも分からん理由になるがの」
「交流がないんですか」
「うむ・・・」
そりゃあ、日本だって国交があるところとそうでないところはあるだろうが、
「大陸丸ごと一つの国家なわけだし、相当な規模でしょ?他国との国交がないわけないと思うんですが」
「ないことはないんじゃろうが、ワシは経験がないし、ここ数十年は国交の記録がなくての」
「だから国交がない、と」
記録がない以上、国交がないと同じだな。
だいぶ前にはあったのかもしれないが、ガーベラさんが知らないってことは相当昔にあったかどうかってところか。
「そういった理由での、魔族がよく分からん・・・という話になるわけじゃ」
地元から出ないから、こっちが出向かない限り出会うことがない。
国交もほとんどないから国の情報もない。
だから魔族という種族がよく分からない。
よく分からんが、なんかそういう方程式にハマってますなぁ・・・
「まあ、魔族とて常識はあろう。ヴェロニカも普通じゃしな」
多少破壊衝動に駆られるような節はあるものの、理性はしっかりしているし、常識も相応にある。
このテのファンタジーだと、中には敵対種族って設定もあるこたあるが、そんな連中が自分から協力関係を持ちかけることもないだろうし、この世界の魔族が危険ってこともなさそうだ。
「親を探しているんだろう?」
「そうだよ」
「なら自然と目指す場所は決まるな」
「そうじゃな。親も魔族なわけじゃし、おる場所もそこしかあるまい」
ビューラ大陸のファンネリア王国・・・
魔族の国だな。