19-4
「なるほどの・・・」
ヴェロニカ自身がガーベラさんとオニキスに事情を伝えた。
「そんなことが起こるものなのでしょうか?」
「分からん」
そりゃまあ、そういうリアクションにもなるだろう。
赤子のまま成長が止まっているものの、知識や知恵は大人になっているなんて、一般的に有り得ることじゃない。
中でも戦闘能力・・・魔法の威力、扱える種類、テレパシーや転送などを用いた特殊な運用を行える技術など、一流魔術師顔負けの力をお持ちになっている。
「分からんものは分からんが、目の前でそれができる子がおることは事実。ちゃんと受け止めねばなるまいよ」
理解を超えた存在ではあるが、目の前にいるわけだから、そういうものだと理解しなきゃしょうがない。
分かるよー。分かりますよー。
俺も大概そうですからねぇ。
「うむ。全てを理解したわけではないが、お主のことは分かったぞ」
「わたし自身も何でこういうことになっているのか、分かっていないからねぇ。困るのも仕方がないとわたしも分かっているよ」
「じゃが、なかなか面白い子よな」
ガーベラさんは笑っていて、
「その辺にいる連中よりも肝が据わっておる。魔法の威力がどれほどのものかは分からぬが、ガノダウラスを屠れるのであれば相当なもんじゃろう。同年代の魔術師たちとは比べ物にならん」
「まあ、簡単に負けるつもりはないねぇ」
「いや、負けるつもりがどうこうじゃないんだよ。負けねぇんだよ」
勝ち負けの話になるとどうしてもこうなるんだが、どうやっても負けないだろう。この人は。
ガーベラさんが言うくらいだから、二十歳前後の魔術師たちの中でも群を抜いた存在なんだろう。
いや、下手をするとそんじょそこらのベテランなんかも敵わんぞ・・・
「強いかどうかは一旦置いておくとして、お主らの目的は親の捜索じゃろ?」
どういう方向性であっても、強いことは確定だからなぁ。
この話は切り上げたほうがいいだろう。
「まあ、そういうことです」
「そこまで強力な魔法を使えるということは、恐らくヒト族ではないじゃろう?」
「・・・ヒト族じゃないの?」
「・・・俺が聞きたいんだけど」
ヒト族じゃない種族・・・?
そりゃ確かにいることはいるな。実際、ガーベラさんたちみたいなエルフ族がいる。
この世界に種族が二つしかない・・・ってこともあるかもしれないが、他にもいるってこともあるかもしれない。
今までヒト族とエルフ族以外に出会ったことがない。
ボルドウィンでエルフ族に出会ったことがないし、エルフ族だってジェシカが初めての遭遇だった。
いないって思っても仕方がない。
「確かに分かり辛いかもしれないな。身体的な特徴が見て分かる種族ばかりではないし」
「というと?」
「ワシらのようなエルフみたく、身体的特徴を持つ種族もそれなりにおるが、見た目はヒト族と同様という種族もおる。例えば巨人族じゃな」
巨人族・・・?
え、そんなのもいるの?
それもファンタジーあるある種族だけども・・・
「ヒト族のような丸い耳で、見た目は一緒じゃ。じゃが、比較するとヒト族よりも大柄で体格が良い。それが巨人族じゃ」
「そんなにデカいんですか?」
「いや、そんなに大きいわけではない。平均的に大きく・・・そうじゃな、キリヤの投身を更に三つか四つくらい足したくらいかの?」
ってことは、大体3メートル弱くらい・・・?
いや、十分でけぇよ・・・服なんか普通の店のヤツじゃ入らないって。
そんで更に体格がいいんだろ?デカいプロレスラーみたいなもんか?
いやいやいや、とんでもねぇよ・・・
「中には小柄な巨人族もおるから、一概に共通しているとは言えんがな。あくまでも平均的に、という話じゃ」
「例外はあるってことですね」
「まあ、共通して言えることは、接近戦に長け、魔力が少ないことだろう」
「ほう」
更なる共通点があるのか・・・
「体格がいい分、格闘戦が得意だ。特に力が必要な武器・・・斧やメイスなんかを使う連中が多い」
「一方で潜在魔力量が少ない傾向がある。故に魔力を多く必要とする魔術師になる者が少ない。無論、おらんわけではないが、少数であることは間違いないじゃろう」
結構明確な長所と短所があるらしいな・・・
だけど、分からん話でもないか。
小説でもゲームでも、キャラの個性をそういう形で振っているケースがある。
ケースがあるっていうより、そういう風にしていることが大半だ。
中には真逆だったり、ちょっと趣向を変えて設定している場合もあるんだが、何にせよ設定は分けられている。
そうしないとキャラの個性を活かせない・・・いや、違うな。話が単調になるし、凝ったストーリーの展開ができないからだろう。もちろん、キャラの個性としての設定もあるんだろうが。
この世界の巨人族はそういうもの・・・ってことが妥当だな。
「ヴェロニカもヒト族じゃない可能性は高いじゃろうの」
「強い魔法を扱えるなら、そうかもしれませんね」
別にヒト族でも強い魔法使いはいると思うが、そういうもんじゃないのか?
実際、リオーネみたいな子もいるわけだし・・・
「そういうのってどうやって分かるんです?」
まあ、それは一旦置いておくとして、
「え?パスポートで分かるじゃろ?」
は・・・?パスポートで?
「パスポートの能力確認シートで分かるだろう?」
「・・・え?」
「知らないのか?」
すんません・・・そういうのがあるって知りませんでした。
ヴェロニカのパスポートを取り出して確認してみる。
能力確認の項目は知ってる。一応、それなりに見ていた時期もある。
ただ、ゲームみたく体力がいくつで、攻撃力がいくつで、みたいな、自分のスペックが数値化されていないと思って以降、開くことがなかった。
そういうのが分かればスキル選びもしやすくなるだろうし、自分の得意が数値化されているわけだから、自分がどういうスタイルで動くかの指標になる。
それを期待していたのに、そういう表示が全くなかった。
あるのは名前と習得しているスキルくらい・・・だと思っていた。
完全に見えてなかったんだな・・・
「えーっと、どれどれ」
パッと見、そんな項目はないんだが・・・
「下にずらせばあるじゃろ?」
下にずらす・・・ああ、スワイプすればいいのか。
やってみると、
「ああ、こういう・・・」
次のページがあったのか・・・
えーっと、結局ヴェロニカの種族は何だ・・・?
「・・・魔族?」
「おお、そうか。魔族か。なるほどの・・・えっ!?」
「魔族だと!?」
「なんとまあ・・・」
何?この三者三様のリアクション・・・
魔族って・・・そんなヤバいの???