19-2
「なるほど。お主らも巻き込まれておったのか」
俺たちはガーベラさんの館に移動した。
いや、正確に言うと移動させられた。移された。
あと一歩のところで武器屋で大暴れ・・・ってところだった。
連中がどういう意図で、どういう関係性があってああいうことを仕掛けてきたのかは知らないが、強引にでも動かないと解決しない。
ガーベラさんの立場が悪くなることも考えたが、こうなっては仕方がない。
俺も覚悟したし、マーベルさんたちも覚悟しただろう。
だが、
「あとちょっとで面倒になってましたがね」
鞭を抜こうとした瞬間に、オニキスが現れた。
*
「動くな!!」
オニキスに続いて、別の連中も入ってきた。
見慣れない連中だが、
「店は包囲している。裏口から出られると思うなよ」
オニキスがこんなに堂々と動いてる・・・?
ってことは、
「確かに包囲されているね」
「・・・そうらしいな」
窓から見えるだけでも五人はいるな。
ホークアイで周辺を確認してみると、裏に更に三人。店の前で待ち構えている五人に加えて、離れたところで監視しているように見える連中が最低でも十人はいそうだ。
きっちり包囲している。
「おっと、武器を取っても無駄だぞ」
店内にいる剣士が、店の武器を手に取ろうとしたが、
「この空間でその剣を満足に振り回せると思うのか?」
オニキスはそいつに距離を詰めていた。
ほんの一瞬で、三メートルの距離を・・・
「お前、もう死んでるぞ?」
「なっ、にっ?」
オニキスが手刀で剣士の腹を捉えていた。
「この間合いは俺のもんだ」
さて、とオニキスは笑って、
「まだやるならやってやるぞ?その代わり、全員棺桶行きになるがな」
それからすぐにオニキスたちが武器屋を制圧。
包囲していた連中が職人たちと接近戦職たちを全員どこかに連れ出して、
「さて、お前たちは別のところへご案内だな」
*
という経緯があって、俺たちは武器屋から脱出でき、その流れでガーベラさんのところに連れられてきたってわけだ。
今は前回通された客間で話をしている。
「全く、危ないことをするでないぞ」
「いや、まあ・・・正直、危ないことするつもりはなかったんですけど」
「巻き込まれただけですからね」
俺たちはただ、あの店で仕事を頼もうとしていただけだしな・・・
「あの店は裏でせこい商売をやっていてな。俺たちが内偵している最中だったんだ」
どうやらそうらしい。
オニキスは一種の諜報員、スパイみたいな仕事をしているわけだし、そういうことなんじゃないかと気付きはしたが、あの場で口にすることができなかった。
まあ、しない方が良かったってのもあるか。俺たちと関係があるってのも、今は公にできないし。
「あいつら、作業場に客を引き込んだ後にゴロツキで退路を塞ぐからな・・・俺たちも簡単に踏み込めん」
「ワシの部下を潜入させることもやってみたが、奴らもそれなりに経験値があっての。ちょっとでも探っている雰囲気を感じたら行動に移さなかった」
「どうしたもんかと考えていた時にお前さんたちが引っ掛かってな」
「ってことはアレかい?最初から知ってたってことか?」
「まあ、そういうことだ」
上手いこと使われたもんだ・・・
「キリヤが子供を連れて武器屋に入っていく姿を確認できたからな。このまま話を進めてもらえれば、連中も尻尾を出すだろうと。もちろん、危なくなったら助けに入るわけだし、問題はないだろう」
「ないこたないよ?」
あとちょっとで騒動を起こしていたわけだし、問題ないわけないでしょうよ。
それにまあ、知らなかったとは言っても、泳がされるってのは気分が悪い。まだガーベラさんとオニキスだからマシだが、それでも多少思うところはある。
「悪かったな」
「まあ、助かったからいいけど」
謝るから可愛いほうだな・・・ってことにしておこう。
「半ば利用する形であったとは言え、協力してもらって助かった。感謝するぞ、皆」
ガーベラさんにそう言われると、もう何も言えん・・・ズルいわぁ。
「それはそれとしてお主たち、装備の調整が必要なのか?」
前回と同様、ガーベラさんはシンプルなドレスを着ていて、ソファの上で胡坐を掻いている。
タオルケットでスカートを覆っているのも同様・・・これはメイドさんだな、たぶん。
「今度も大型を狙いますからね。ちょっとでも手を入れられるなら入れておいたほうがいいですし、俺はともかくとして、ジェシカは武器、キースは防具を壊されてます。準備しておかないと戦えません」
だからあの店を頼ったわけだが、まさか大外れだったとは・・・
「ふむ」
ガーベラさんは右手で少し顎を触って、
「ワシお抱えの工房を紹介しよう」
「ほお」
「手広くされてますね」
「まあの。色々やらねばならんことがある以上、整えておかねばならんことも増える」
そりゃまあそうだろうが、政治家が武器屋までケアしているのはレアケースなんじゃないか?
それともこっちでは当たり前・・・?
もし当たり前だったら、政治家連中も見習ってほしいもんだが。どこのとは言わないけどな。
「誰かおるか?」
ガーベラさんが手を叩くと、
「はい」
すぐさまメイドさんがやって来た。
ガーベラさんに注意してた人だ。
「ウォルターじいさんのところへ行って手配してきてくれ」
「数人分の装備の調達、ですね?」
「防具が必要な・・・ジェシカとキースか?二人を連れて先に行ってくれ」
「あたしらは先か?」
「じいさんはこだわりが強くての。ちょいと時間が掛かる。先に行ってくれ」
時間が掛かる・・・そんなに?
そりゃまあそういうもんかもしれないけど、ボルドウィンで装備を作ってもらった時はそんなに掛からなかったような・・・
「こちらです」
「あ、おう・・・」
「先に行ってるぞ」
メイドさんに連れて行かれる二人を見送った。
「さて・・・」
ガーベラさんが膝を叩く。
「ちょいと気になることがあって三人には残ってもらった」
気になること・・・?
・・・今、三人って言ったか?
まさかとは思うけど・・・
「その赤子・・・何者じゃ?」
・・・やっぱそっち!?