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「あー、いたたたた」


 翌日。

 ヴェロニカとマーベルさんと一緒に街へ出た。


「大丈夫かい?威力はかなり抑えたつもりだったけれど」

「まあ・・・大丈夫とはよう言わん」

 条件が分かった後、コツを掴むために更に特訓を積んだ。

 ただ、これが結構難しく、結構ギリギリな条件で、ちょっとでもタイミングを間違うと回避できない。

 あれからも攻撃を食らってしまって、肉体的にしんどくなった。いくら加減してるとは言っても、攻撃は攻撃。痛いものは痛い。

 表面的なダメージはなくても、質量ダメージはバカにならん・・・ってわけだ。


 ってことで、今日は買い出しを兼ねて休養日にした。

 一日くらいで取れる痛みじゃないと思うが、生きてる実感を得ている・・・ってことにした。そういうことにしないとやっていけない。

 回避性能の成功率はまだそこまで高くないし、協会が素材を準備できる日までは練習が続くが、息抜きもたまには必要・・・

 狩猟に必要な道具や資材の調達に出るついでに息抜き。それなりに考えて動かないとな。


 ちなみに、ジェシカとキースは訓練場で練習を続けている。

 スキルは何を習得したんだろうか?

 内容によっちゃあ立ち回りも変わるだろうし、無駄習得してる場合もある。後で確認しておいてもいいかもな・・・


「ところで何が必要なんです?物によっては私が用意しますが?」

「一応、この辺りで何が手に入るのか見ておくのもいいと思って」


 基本的にマーベルさんが商品として持っている物を使う、という手法を崩すつもりはない。

 いや、正確に言うなら必要がない、だな。

 商売だからお金を取るとは言っても、ロープや消耗品は揃っているし、わざわざ現地調達する必要はない。マーベルさんが補充のために購入するのは話は別だが。

 それでも、マーベルさんが知らない物がある可能性だってある。それが使えるとしたら、買っておいて損はない。

「それにまあ、販路も広がるかもしれませんし」

 ・・・という一面もある。ホントたくましいな、この人・・・

「必要な物があるとしたら、どういう物です?」

「そうだなぁ・・・傷薬とかはもちろんそうだけど、ちょっとした補助ができるような物があればありがたいかな、と」

「補助?」


 狩猟に必要になる物・・・ってなると、割とすぐ思いつくのは傷薬みたいな薬品だ。


 漫画とかゲームの場合、傷薬は体力回復アイテムになる。体力ゲージが回復するわけだが、残念ながら現実はそんな簡単じゃない。

 ジェシカの回復魔法だって傷を癒すことはできても、体力が回復するものじゃない。血を失っても戻るわけでもない。

 攻撃を受けて傷ついた場合の出血止め。それがこの世界での傷薬。

 この手の消耗品はあるに越したことはない。俺も大概だが、ジェシカとキースはガード主体の戦い方をする以上、被弾は避けられない。傷薬はあるに越したことはない。


 あとは狩猟に使える道具か。


 炎魔法の威力を増強させる木の実がある。

 すり潰して粉にした物を相手にぶつけて、そこにフレアバレットなんかを撃ち込むと、誘爆する効果がある。風呂に入れると発汗作用を強める効果もあって、狩猟だけじゃなく日用品としても使える物だ。

 他にも同じようなアイテムはある。

 だが、そういうタイプは属性攻撃を扱うのが前提の物・・・今の俺には無用な長物。

 他にも同じようなアイテムがあって、俺にも使えるなら助かる。

 ただでさえ俺は・・・いや、俺たちは火力が足りないからなぁ・・・補助、手数として使える物は用意しておきたいってのが本音か。


「家族で買い物か?」


 背後から突然信号・・・!?

 振り向くと、

「よう」


 オニキス・ウィンチェスター・・・!


「そう身構えるなって。驚かせるようなことをしたのは悪かった」

 気配を全く感じなかった・・・?

「何を買うつもりだったんだ?」

「いえ、特にこれと言った物はないのですが、使える道具があればと思っておりまして」

 危険感知に全く引っ掛からなかった。

 そりゃあ、あれは敵意がある者に反応するスキルだから、敵意がない者には反応しない。

 となりゃあ、この人は敵意がないってことになるわけだが、それにしても気持ちが悪い。

 神出鬼没ってのも問題なんだが、いつも背後を取られている。


 敵意がある相手だったら・・・


「ふぅん。よし、分かった。俺の馴染みの店を紹介しよう」

「それは心強い。お願いします」

 ガーベラさんの関係者だって話だし、悪いことにはならないだろうが・・・

「一応言っておくが、敵対するつもりはないぞ?」

 ・・・ここまで考えが読まれてる・・・?

「・・・まさか」


 こいつ、テレパシー持ちか!?


「まあ、そういうことだ」

「なるほど・・・どおりで」

 的確に考えが読まれている。そりゃあ、天然でそういうことができる人もいるだろうが、こんなのはスキルじゃなきゃ無理だ。

 それよりも気になるのは、

「何でここまで気配が消せる?」

 動けば最低限、誰でも気配を出すもんだ。

 人や機械の騒音なんかでかき消される場合はあるだろうが、ここまで完璧に消されると何かあると思わざるを得ない。

 ・・・というより、悔しい。

「まあ・・・仕掛けがないわけじゃあないが」

「・・・が?」

「こういうことを安易に教えるのは主義じゃなくてね」

 企業秘密ってやつか・・・

 そりゃまあ、そうだろうな。持った能力、組み上げたスキル、戦術は秘密にしておかないと、優位を保てない。事、俺たちみたいなモンスターを倒して生計を立てるような生活をしているなら尚更だ。

 まあ、弟子に教えるとかならまだあり得ると思うが、この人とはそういう関係じゃないし・・・

「ただまあ、知ろうとする意欲は買う。そういう探求心が強いヤツは好きだ」

「男に好きと言われましてもなぁ」

「そういうことではないのでは?」

「ははっ!冗談を言えるのも面白い!」

 オニキスは細い路地に入って行った。

 俺たちも後を追うと、

「気に入った。少しだけヒントをやろう」

 オニキスは壁にもたれていた。

「今ので気に入ってもらえるのか?」

「まあ、俺は好みだって話だ。冗談を言わないヤツも嫌いじゃないが、いつも張りつめているのも疲れる。多少でも冗談を言えるほうが楽しいだろう?」

「言いたいことは分かる」

 お堅いより、ノリがいいほうが付き合いやすいのはあるよな。

 偉いさんなんだろうが、割と話が分かるほうで助かる。

「君らは地元じゃないし、事情も詳しくないだろう。そういう点でも気を付けて欲しいが、他言無用で頼む」

「あ、おう」

 えらく念を押すじゃないか・・・?

「俺は隠密をしている」

「隠密・・・?」

「盗賊の上のジョブです」


 盗賊の上・・・?

 ってことはアレか?上位職ってやつか!?

 おいおい、そんなのもあるのかよ・・・またこのテの情報が増えたじゃねぇか!


「普段はガーベラ様の護衛と、個人的に気になる件の調査を担当している」

「ってことはアレか。ガーベラさんのお抱え部隊にいて、より近い場所にいる存在ってことか」

「そういうことだ。そういう都合があってな、あまり身分が割れるわけにはいかないんだ」

 そういうヤツは相当信用されてないとなれないだろう。

 所謂、懐刀ってやつなのか?

 だったら、余計な情報漏洩は避けたいよな。そういう都合があるなら、俺だったらこんな風にバラしたりしないけども・・・

「その割に、先日の柄の悪い方々はご存じだったようですが?」

「まあ・・・隠しきることは難しい。最低限の露出に抑えても人目につく。ある程度噂になることは承知している」

「逆にそれが抑止力になるのかもな」

「それもあるだろう」

 ヤバいヤツが相手にいると分かっていれば、動きは制限される。ちょっと強いくらいならまだしも、頭一つ、二つ抜けているようなヤツなら特に。

 ってことはオニキスもソレになってくるんだが・・・

 あ、急に怖くなってきた。仲良くなっとこ。

「話を元に戻すが、隠密故に得意になるスキルもあるだろう?」

「・・・かくれんぼと危険感知か」


 盗賊になることで効果が高まるスキルが二つ。

 それがかくれんぼと危険感知だ。


「レベルを上げることでより効果が高まり、上位職になることで更に高まる。それを上手く使っていけば、気配を漏らさず行動することもできるようになる」

 レベル上げだけじゃなく、ジョブの補正をも重ねて効果を上げる。

 それはかくれんぼと危険感知だけじゃなく、他のスキルやジョブも言えることだ。

 だが、

「行動することもできるようになる・・・?」

 その言い回しが気になった。

 することもできる・・・ってことは、

「その逆もまた然りだ」


 レベル上げても、ジョブの補正を加えても、できないこともある・・・?

 ってことは、ただただ使えるようにしただけじゃダメってことか・・・


 って、そりゃそうだよな。回避性能なんかがいい例だ。

 使えるようになったって、条件の紐解きが必要なスキル・・・あんなものが一つでもあるってことは他にもあるってことだ。

 レベルを上げるだけで使えるとか、そんな温い話はない。これが現実である。


「まあ、レベル1程度や武器レベルの2までは習得すれば発揮する。これは基本動作だし、効果も高くないからおまけ程度と考えるのが妥当だろう」

 だから俺のかくれんぼと危険感知の効果は薄いのか・・・?

 レベルが低いのも効いているにしても、使いこなしてない、と。

「俺はただ、使えるようにしただけじゃなく、使えるようにしていっただけ。個人差は当然あるだろうが、誰でもできる」

「・・・それが難しいんじゃないの?」

「はははっ、まあ、そういうことだ」

 簡単に言うよなぁ、この男・・・

 回避性能の件で嫌になるほど分かった。そんな簡単にできることじゃないんだよなぁ・・・

「言ってた店はこの通りをちょっと行ったところだ。小さい看板が出ている」

 オニキスは壁から離れて、

「もう行くのかい?」

「まあ、これでも忙しいんでな。近々また会おう」

 そう言いながら、オニキスは通りの奥へ進んでいった。

 そりゃあまあ、忙しいよなぁ。ガーベラさんの案件をこなさなきゃいけないわけだし。

「いい話を聞けたねぇ」

 ヴェロニカが急に喋りだした。

「どうした急に?随分静かだったじゃないか」

「そりゃああの人、テレパシー持ちだもん。変に話しかけたら勘付かれるでしょ?」

「・・・そういう一面もあるか」

 っていうか、この場合は赤ん坊が赤ん坊らしいことを考えていたなら気にする必要はなかったのでは?

 いや、それができないのか。この人、実は十八歳だし。

「まあ、勘付かれないように対策もしているのだけれど・・・一応ね」

「そんなのがあるのか」

「生活の工夫だよ。誰がテレパシー持ちか分からないしね」

 それもまあ、有り得ることではあるか・・・

「さあ、そろそろお買い物に行きましょう。こんなところで長話することもありませんし、時間は待ってくれません」

「そりゃそうだ」

 話も一段落したし、オニキスも帰ったし、スキルの件は追々考えるとして、俺たちは俺たちの用事を片付けよう。

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