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「アクアショット!」
空中の水分を瞬間的に集めて凝縮する。
そしてそれを相手にぶつける。
アクアショット。それが水魔法初級の攻撃魔法である。
そう、初級。
始めに習得し、使えるようになる攻撃魔法。
重要なことだからもう一度言っておくが、最初の攻撃魔法である。
「うぼあぁぁっ!?」
真正面から直撃を受けて、壁に弾き飛ばされた。
「うおぉー・・・スゲェスゲェ」
「アレは痛いだろ・・・絶対」
いってぇよ!?
火の玉とか雷とか氷のつぶてとか、そういうのは練習に向かない。
威力もそうだが、火傷や麻痺といった追加効果が地味に効くし、動きを妨げるから回避性能の練習にならない。
だから水魔法で・・・と依頼した。
結論。その認識は間違っていた。
アクアショット・・・シンプルな水の弾による攻撃。
何かに連鎖反応が起こることはあっても、攻撃自体は水の質量攻撃。だから、受けても単純に痛いだけだと思っていた。
だが、その単純な質量がかなり痛い。
そりゃそうだよ。バケツに入った水を思いっきりぶっ掛けられるだけでも痛い時は痛いし、モンスターに攻撃するために撃つ水なんか痛いに決まってる。
これがまだ加減されてるから吹っ飛ばされるだけで済んでるが、モンスターをブッ叩くために撃ったやつを受けたら骨折どころで済まない。
「ほらほらキリさん、まだまだいくよぉー」
そんで大砲は元気いっぱいときたもんだ・・・
最低限の縛りは入れてあるとは言えど、思う存分撃てるからか、かなり楽しんでいる。
今もそうだし、昨日も大概そうだったが、頬も赤くなって程よく汗を掻いていて、健康的に体を動かした後みたいになって、肌もツヤツヤになっていた。
ストレスを解消できているって証拠・・・なんだよなぁ?
魔法を撃つことでストレス解消って、相当ヤバい気がするのは俺だけか?
魔法で攻撃することでスッキリしてるってことだろ・・・単純に考えりゃあ戦闘狂みたいなものなんじゃないのか?
いや、ちょっと待てよ。そもそも、魔法を使うことが全て攻撃になるわけじゃない。使ったら攻撃って思うことのほうがおかしいのか?
いやいや、一旦置いておこう。頭がバカになる。
「キリさーん、まだやるかーい?」
「うっ・・・」
叩きつけられたダメージが結構デカい・・・
「うっし・・・やるかぁ」
動けるこた動ける・・・骨が折れるとか、内臓が破裂とかはなさそうだ。
何度でもやって、何度でも受ける覚悟を何度でも持て・・・!
発動条件を紐解け!
「行きますよ」
「っしゃあ!」
「アクアショット!」
マーベルさんが抱えているヴェロニカが、再び水の弾を発射!
結構な速度で飛んでくるそいつをギリギリまで引き付けて、
「・・・こうか!?」
右側に跳んで避けようとしたが、
「どわっ!?」
上手く避けられたと思ったが、左足が射線に残っていたからか、攻撃をもらってしまった・・・!
「いってぇ・・・!」
「大丈夫ですか?」
「だいじょばないけど!?」
どんだけ強がっても、痛いものは痛い!
残念ながら、髭が生えた赤い帽子のおじさんみたいに、どんな攻撃を食らってもピンピンしてるみたいなこたぁない!
「くそっ・・・どうなってんだこりゃあ・・・」
一旦落ち着こう。ちょっと片膝ついて息を整えよう。
結構トライしてきたが、マジで条件が見えない・・・
こんな難しい内容なのか?
あまりにも難しいと万人受けしない気がするが・・・いや、ウケるとかウケないとかじゃないのか。
ダメだ。本当に分からなくなってきた。
「いや、いやいやいや」
こういう時こそ冷静になれ。もうちょい考えろ。
仮に神力はどうでもいいにしても、これを身に着けておかないと死ぬ可能性は減らない。どっちにしてもやらにゃあならん現実。
一旦、今までやってきたことをまとめてみよう。
まず、ある程度距離を開けた状態で回避。これは普通にできる。
できるというより、できて当たり前。当たるギリギリとかじゃなく、もっと早くから動いて避けるわけだから、無敵時間も何も活かしていないわけだし。
これはスキルを使っていないことになるし、論外の結果になる。
次に棒立ちでわざわざ受けに行き、発動するかどうか確認してみた。これはダメだった。
どうやらスキルを習得したからってだけで自動で発動するわけでもないらしい。
しばらくやっているのは、ある程度引き付けたらどうなるのか?
これもイマイチ手応えがない。
さっきの状態だと、射線に残っていた左足は攻撃を受けていた。無敵状態になれていたなら、これを回避できていないとおかしい。
ってことは他に発動条件があるようにも思えるんだが、なんかそういう風に感じない。
いや、頭で考えすぎているだけかもしれないが、今まで試してきたことを踏まえるとこれ以上の発動条件があるように思えない。
「うぅん・・・」
こういうのは体で覚えるってのは俺自身の経験でも分かってることなんだが、こうも難しいと折れそうになるなぁ・・・
「キリさーん、やめるのー?」
「思いの外、体にきているのでは?」
きてるこたきてる。
今思ってることを整理していかないと、次の行動に移れない。
重要なことだからあまり言いたくないところもあるが、たかが一つのスキルの試運転で時間を割くわけにゃあいかない。
他にも習得しないといけないスキルもあるし、その試運転もある。回避性能だけの紐解きに時間を割き続けるわけにはいかんのよ。
「こういうのはねぇ」
「は?」
ヴェロニカはまた水の玉を作って、
「本能的にできるようになるものだよ!」
発射してきた!?
「ちょっ」
「ちょまァ!!」
勝手に動き出すからマーベルさんも演技が遅れたし、俺も受けるこころの準備ができてない!
これは受けっ・・・避けたい!!
スパァン!!!
アクアショットが壁に激突した。
俺も壁にげき・・・げきと・・・
あれっ・・・?
「・・・どうなってる?」
攻撃を受けてぶっ飛ばされたと思った。
だが、どういうわけか攻撃が当たっていない。
俺も片膝をついた状態で特に変化はない。
・・・確実に直撃している攻撃だった。なのに当たっていない。
まるで時空を捻じ曲げて避けたかのうような・・・
「おおっ、できるようになったのか!」
客観的に見れば、キースが言うように回避成功なんだろう。
だが、何の実感もない。
手応えもない。
ただただ、攻撃をスルーできている現実が起きただけ。
何がキッカケで回避成功したんだ・・・?
俺は動く準備すらしていなかった。できていなかった。
気持ちは避けようとしていた。いや、正確に言えばいつも避けようと思っていた。
そんな状態でも避けられた。
この状態で条件をクリアしたってのか・・・?
「・・・もう一発頼む」
「お安い御用だよ」
すぐに追加のアクアショットが飛んできた。
動けない状態でも、気持ちの問題で避けられるならこれも避けられるはずだが、
「ごばっ!?」
ダメだった・・・ぶっ飛ばされてしまった・・・
地味にいてぇ・・・
「おいおい、さっきのはまぐれだったのか?」
再現しない・・・まぐれだったら困るんだが・・・
まさか、発動条件は確率なんてことはないよなぁ・・・?
ダメだ。心が折れそう。いや、体のほうが先に折れそう。
折れる前に状況の整理をしろ。
せっかく掴んだキッカケを離したら、もう二度と分からないかもしれない。
自分なりに状況の整理をしていた。
ヴェロニカが突然撃ってきた。
避けたいと思った。
そこからどうした・・・?
当たると思って思わず身構えた、か・・・?
「・・・そういう?」
何となく見えたかもしれん!
「もう一発・・・!」
「大丈夫ですか?ダメージはかなり入ってますが・・・?」
「次で決着をつける!」
じゃないと俺の体がもたん!!マジで!!
「じゃあいくよ」
「アクアショット!」
水の弾が飛んでくる・・・!
これを!
「こう!!」
当たるかもしれないと思ったが、
「おお!」
「できてますね!」
回避成功!!
「なるほど、そういうことか」
条件は分かった!
「っしゃあ!!じゃんじゃん来いやァ!!」
あとはこれを体に叩き込んで精度を上げて、完璧にできるようにしていくだけ!
まあ・・・それが難しいんですけどね。