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 ―――俺たちは今、危険と隣り合わせの状況にある。


 居住区でのトラブル。

 団地の一階を吹っ飛ばす威力の炎魔法の一撃は、俺の常識で考えれば十分に警察沙汰。


 ボルドウィンの治安部隊も存在していて、それなりに経験値の高い剣士、黒魔術師を揃えているだろうと予想される。

 仮にも国直轄の人員なわけだし、ケンカ素人の俺が勝てるようなモンじゃないに決まってる。


 きっちり環境や法整備を整えている国の治安部隊なら、今回の一件を無視するわけがない。きっと調査をするはずだ。

 しなければしないでありがたいが、それはそれで国として問題がある。


 そんな中でも調査をする方向へ舵を切ったのは、ある程度の勝算・・・と言うのはちょいと違うが、それなりに切り抜けられる可能性を見出したからだ。


「あれが治安部隊の連中か・・・」

 話し合って少しして、俺単独で街に出た。

 大通りや市場の辺りを流すように歩いていくと、剣士と黒魔術師らしい集団が見えた。

 簡単にイメージできる例えがあるとするなら、イギリスの式典で着用するような正装のような感じ。もっと身近な例えなら、ブラスバンド部の衣装のような感じ、と言ったところか。

 剣士は金属っぽいヘルメットをかぶっていて、腰にはそこそこ長そうな剣を携えている。

 一方の黒魔術師は丈の短いローブのような衣装で、杖を持っている。

 俺の目に映っているのは、男女混合の四人組。男の剣士が三人と、黒魔術師の女性が一人。

 四人一組で行動するのが常なのかは分からないが、一人ではなく集団で行動するように規則を定めている可能性はある。

 まあ、俺が指揮する立場なら、何かあった時の保険として、最低二人以上で行動するようにさせる。パーティ構成も剣士に寄せ気味な気はするが、妥当な組み方だろう。

「これを俺一人でどうこうするのはキッツイな」

 仮に俺も武器を整えていて、それなりにスキルを覚えたとしても、四対一ってのは無理ゲーだ。

 他にもあっちこっちに同じような構成で人員を構えているはず。

 それを攻略する・・・もとい、切り抜けるための案。


 ヴェロニカの魔法を頼る。


 吹っ飛ばすほどの威力の攻撃をするつもりはない。

 人に当てるのではなく、威嚇に使う。

 芋二人だけじゃなく、撃った本人も驚くほどの威力の魔法だ。一般的な黒魔術師の魔法とは比べ物にならないレベルであることは確定と言ってもいいだろう。

 魔法の種類や使う場所、狙う物を的確に判断する必要はあるだろうが、上手くいけば撒くことはできるかもしれない。

 ・・・まあ、やればやるだけ十字架の重みが増すわけだが、状況によっては言ってもいられない。

 そうならないように祈るけども。


 まあ、魔法を使うのは最終手段。

 可能性を高める案は他にもある。


「ここが工業地区か・・・」

 次に出向いたのは工業地区。

 大人が忙しそうにそれぞれの仕事をこなしている。

 そんな中を、突っ切って潜入する。


 工業地区に見出したのは、使っていない廃工場やビルの存在だ。


 ドラマだと、犯人はよくそういう場所を拠点にしている。

 そういう場所に用事がある人間なんてほとんどいない。管理している持ち主とか、不動産関係だろう。

 工業地区に人がいるのは、日本の常識的な時間で考えると、遅くても十八時とか二十一時とかそれくらいだろう。そこを過ぎればほとんどの人間が居住区に帰っていく。

 タイミングを見計らって潜入して、上手く部屋を見つけることができれば、治安部隊の目を気にしなくてもいい空間をゲットできるって算段だ。

 今回、俺が一人で出たのはそういう場所を探すためだ。

 ヴェロニカを抱えて工業地区をうろうろするのは、人目についてしまう。子供であっても、成人に近い人間一人の方が自然だろう。

 宿屋もいつ特定されるか分からない。滞在するのなら、少しでも安全な場所を確保する必要がある。

「結構奥まで来たかな・・・」

 そこそこ歩いたが、まだ奥がある。

 そりゃあまあ、首都は相当広いし、工業地区の端から端まで行くのに歩きはしんどいくらいだ。

 でもまあ、これくらいでないと、安全な場所は見つからないはずだ。

 ―――潰れるような施設や工場ってのは、辺境だったり、寂れていたりするのが定番だ。

 無論、そこを拠点としていた職人や企業の営業能力の問題はある。基本的にそこだ。

 ただ、場所が悪いと、インフラが整っていなかったりする。現代日本ならどうとでもなる問題だが、ここは中世ヨーロッパの文明レベルの世界。

 インフラを整備するのは結構ハードルが高い。重機も設備もない環境では、人力が全て。かのピラミッドも同じだ。

 インフラが整っていない施設では、作業性や生産性は悪くなる。それが原因で潰れることもあるだろう。端っこはそこそこ荒れているんじゃないか、と予想したわけだ。まあ、マンガとドラマどおりであれば、の話ではあるんだが・・・

「・・・ここは」

 下町の工場っぽい施設があった。

 人の気配はない。バリケードを仕掛けられているわけでもないし、入ることはできそうだ。

 周りに機能している工場もないし、いい場所かもしれない。

 もう一点気にしていたのは治安の問題。

 大体、こういうところはイメージの良くない連中の拠点になっている場合もある。ボルドウィンでそういうならず者みたいな連中を見かけたことがないから、こういう場所にもいないだろうって思ってはいたんだが、この辺りにはいないみたいで助かった。

 治安部隊は当然として、ならず者にも負けるぞ、俺は。

「ここにするとして、次の問題を片付けよう」

 工業地区を出て、再び市場へ。

 今度は服を買いに行く。

 今のところ、初期装備レベルの服で行動しているが、栄えている街では目立つ。

 気を隠すなら森の中って言うし、そこそこ整えた身なりなら、治安部隊の目をすり抜けられるっていう寸法だ。

 もちろん、大きな効果は期待できないだろうが、少しでもすり抜けられればそれでいい。

「サイズもちょうどいいし、これでいくか」

 今度はしっかりしたデザインの服を選んだ。

 綿っぽい質感の素材でできたワイシャツと、デニムっぽいデザインのパンツに、ブラウンのハイカットブーツ。

 ちょっとしたオシャレ着に近いデザインで、動きやすい。この二点で選んだ。実際、ストレッチの利いたパンツで、動きの邪魔になることはないだろう。

 素材さえ除けば、日本でも見るデザインだったから、結構安心して着られる。不思議と周りに同じようなセレクトをしている人間は多いし、こういうところも共通しているのか・・・?

 まあ、それはいい。

 とりあえず、小手先の対策も済んだし、いよいよ宿から飛び出す時が来たか。

 短い快適生活だったなぁ・・・

 ただまあ、遅かれ早かれ出なければいけなかった。

 底を尽きるまではいかないにしても、ヴェロニカの資金を当てにし過ぎると、本当に必要な時に金欠っていう最悪パターンも有り得る。


 残りは運の話になるが、治安部隊の捜索能力が低いことに賭ける。


 この世界には監視カメラのような文明の利器がない。

 地球の都会だと、これが抑止力になって犯罪を防ぐことができるが、今はこれが無いことで、俺たちの追跡をしにくくさせる。

 逆に言えば、俺たちが追われる側に立っているってことなんだが、そこはもう諦めることにする。

 治安部隊は目撃者を探すことで、俺たちを特定するしかできない。

 首都の人口も相当多いだろうし、父親と赤ん坊という関係性の人間もそれなりにいるだろう。俺たちだと特定するのにも時間は掛かると想定した。


 本当に最後の最後の手段は、今は考えない。

 後々のことを考えて、最後の最後の手段は取っておく。

 ・・・なんでこんなことになってんだよ・・・


 ヴェロニカのせいだけど・・・

 あの子、俺のスポンサー・・・いや、生活基盤だからなぁ・・・

 あんまり悪いことを言えん。


 今の能力では一人で生活ができない。

 ヴェロニカを頼るとトラブルに直面する可能性も高い。


 どっちもどっちだよなぁ・・・この生活。

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