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「ふむ・・・特訓を始めたか」
少年は例の少女と特訓を始めた。
新しいスキルを習得し、事前にどういった条件で発動するか、そして使い勝手を確認しておく。
これは普段の生活だけでなく、こと命を懸けた狩猟では重要である。
必要な時に効果を発揮させられないのでは話にならない。せっかくのスキルも腐らせることとなる。
「ふん。当たり前のことだ」
少年と引き合わせた岩場にアイオロスがやって来た。
「相変わらず機嫌が悪いな」
「放っておけ」
アイオロスは岩の頂点まで一息で上り、
「まずは回避性能か」
そのまま下界を見守るようだ。
「今回課した内容において、回避性能は重要である」
大型モンスターを狩る。人において非常に難易度が高い行為である。
無論、小型であろうが中型であろうが、危険を伴う。モンスターも狩られまいと抵抗する。寧ろ自らの腹を満たそうと躍起になる。
モンスターと比べ、人は劣っている面は多い。
基本的な戦闘能力もそうだが、体格や体力は基本的に劣っている上、ブレスを吐くなど、特殊な攻撃手段を持たない。体力が多いだけでも厄介である。
それを補うために人は集団で、かつスキルを習得して挑む。
人がモンスターを倒せるように、神が下界をそういう風に創った。
それを人が知るかどうかはどうでもいい話である。知ったとて神に対して何もできないためだ。
人は知恵と言葉を持ち、コミュニケーションを取れる数少ない生物である。
道具を作り、言葉を使って話をする。これができるのは人の特権であり、一つの能力と言える。
それを上手く使って立ち回ることで、モンスターを狩ることができる。
だが、それができないのもまた人である。
欲をかく。他者を出し抜こうとする。他者を恨み、妬む。知恵を持ち、上下関係が構築され、金という存在が生まれてしまったが故に、人は力を発揮できない。
まあ、少年の場合、金に目が眩むということはないようだが。
「そういう点において、ヤツはまだマシと言ったところか」
アイオロスもその点は評価しているようだ。
「回避性能を使いこなせば、攻撃を受けることなく狩猟を終えられる」
そういう風に作られたわけだが、
「寧ろ、できなければ死ぬ可能性が高くなる」
そういう風になってしまうのも道理である。
表があれば裏がある。世の中、上手くできているものである。
「まあ、習得しなければいけないスキルはまだあるが」
「猶予はまだある」
狩猟するまでに十日以上ある。
それまでに習得し、使いこなせるようになれば良いだけのこと。
しばらくは修行期間だな・・・