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「今日は何をするのかな?」
俺とヴェロニカは中心街に出た。
大型モンスターを狩る。
俺の旅の大筋からは外れてしまっているわけだが、これを達成したほうがいいということは分かっている。
いや、達成せざるを得ない・・・が正しい。
達成しないとアイオロスから神力をもらえないし、あいつからどんな応対がなされるか分からない。
あいつを説得したであろうアポロの面子も努力も潰すことにもなり、こっちの関係も悪化する。
アイオロスはもうああいうものと割り切ってもいいんだが、今のところそこそこ良好な関係になったであろうアポロから助力を得られないのは結構デカい。
となりゃあ、否が応でもこなさなきゃいけないわけだ。
アイオロスからもらえるかもしれない神力がどんな内容なのか・・・?
どんな神力がもらえるのかは何となく雰囲気で分かった。
仮にそれが正しいとしたなら、俺にとってかなりデカいスキルになり得る。
ここは調査を後回しにしてでも、達成することを優先する!!
「とりあえず武器と道具だな・・・」
大型モンスターを狩るなら、やっぱりそれなりの装備が必要不可欠。
やっぱり鞭は攻撃力が低い気がする。
そりゃあジェシカのパンチ一発よりは強いんだが、それでもグローパンチで攻撃力バフを積み上げた一発には劣る。
それを超える一発を繰り出さなきゃいけないわけじゃあないにしても、欲を言えば繰り出せたほうがいいに決まっている。
ランドウィップは現時点でかなり強いし、製造と合成を対応してくれた武器屋の兄ちゃんの口ぶりからしてもそこそこ良い武器だってことは間違いないが、強くできる、もしくはもっと強い武器があるならそっちを検討するのは自然の流れだ。
「キリが考えてることは分かるのだけれど、鞭は強い攻撃を繰り出す武器じゃあないからねぇ」
「・・・やっぱり?」
「うん」
だっこしている赤子に迷いはない。
「あれは手数と付加効果で戦う武器だからね」
つまり、一発ではなくて複数、そして付随する効果ってことだな。
だったら、俺のランドウィップは理に適っている。
一撃必殺ではどうしようもないから複数回攻撃する必要がある。一発の火力が低くても、手数を打てばそれを補える。そして、
その火力の低さを付随する効果で補っていく。
毒や麻痺はその最たる効果だ。効果を蓄積させていって、毒か麻痺、もしくは両方の状態異常に陥れる。体力を蝕むか、動きを制限してその間にボコボコにするか・・・これだけでも有利に働く。
火属性に弱い相手に火属性の武器を使うってのも有効だろう。弱点属性で攻撃をすれば、足りない火力を補うどころか、寧ろそっちのほうが火力が出るかもしれない。まあ、マンガとかゲームの常識がこっちの世界でも通用するならって話ではあるが・・・
そういったところは理解できるし、俺もそれは考慮している。
ただ、ベースの火力を上げるってのもある程度までいくと必要になるのもまた事実。
レッドゴブリンならまだしも、ガノダウラス相手に低い火力の武器じゃあより手数が必要になる。
残念ながら、俺たちの体力は有限。ゲームみたいに昼夜問わず動き回れる体力なんか無い。ランドリザードの時からずっとそうだが、長期戦ができないんだ。
ベースの火力アップも視野に入れておかないと、いずれ回らなくなる。ここも考えておかないとな。
「道具っていうのは?」
「何か使えそうな道具があれば手に入れておくに越したこたないだろ」
武器で立ち回るだけじゃあどうしようもなくなるかもしれない。いずれ、そういう場面に直面するだろう。
そういう時に使える道具があれば楽になる。
例えばロープ。生活の道具としても十分だが、パラライズバイパーの時みたく罠を張ることもできる。
確か、火に反応して炸裂するっていう木の実があったはず。
俺は炎魔法を使う予定がないから今はいいが、ああいう火力の補助ができるアイテムがあって、今の俺の能力に適した物であれば尚良い。
幸い、ここはシルフィの首都だ。探せばそれなりに何かあるだろう。
「まずは武器だな」
「表通りにあればいいね」
今日はジェシカがいない。
いつもなら同じ頃合いに起きてくるんだが、今日は自然と合流しなかった。
今日もリオーネがいないし、ジェシカに案内してもらおうと思っていたが、それができない。連日の疲れも残ってるだろうし、案内もマストじゃないから俺たちだけで出ているわけだ。
ついでに言うなら、マーベルさんとキースとも別行動。
マーベルさんにはガーベラさんにコンタクトを取ってもらっている。
今回、俺の目的は大型モンスターを狩ることだ。
その点だけに関しちゃ別にガーベラさんにコンタクトを取る必要はない。いつも通り、自分たちだけで挑めばいいだけのこと。
ただ、地元じゃない上、大型相手となると何かしら支援してもらったほうがいいのは明白。
ガーベラさんは自分の兵隊を持っているって話だったし、選挙の関係で協力も欲しがっていた。ここにマーベルさんが目を付けて、選挙の実績づくりに協力する代わりに、俺たちのサポートをしろ、と交渉に出たわけだ。
どういうサポートをしてくれるかは交渉次第だろうが、それなりの報奨金とか、経費を負担してくれるとか、そういうのは最低限してくれると予想している。
マーベルさんのことだから、エグイ内容で進めている可能性もある。俺にとって吉と出るか凶と出るかは蓋を開けてみないことには分からないが、交渉のイロハが分かってない俺より、マーベルさんが適任であることは変わりないし、ここまで来て死ぬ可能性が高いようなことを推し進めないだろう。
心配なのはガーベラさん側に付くってことだが、これはまあ別の問題か・・・
あと、キースはよく分からない。
疲れて眠っているのか、それとも単独で動いているのか?
キースも良い大人だから、自分から騒ぎになるようなことはしないと思うし、一人で動きたい時もあるだろうから、今日はそっとしている。
「あ、武器屋があったよ」
「おう」
考えながら歩いていたら、表に武器や防具を並べている店を発見した。
店の規模は結構大きいほうだ。表通りに面しているし、ここが首都だってこともあって繁盛もしているんだろう。
とりあえず入ってみるか。
「いらっしゃい」
エルフの店主だ。
シルフィだし当然と言えば当然だが、この人も若そうに見えるな。美形で若く見えるからマジでよく分からない。
「ちょいと見せてもらいますね」
「ああ、どうぞ」
とりあえず物色してみるか。
中は思いの外広いようだが、物をたくさん並べているからそう感じない。
気になるのは金属製の武器が少ないことか?
無いことはないんだが、骨や革で作られた武器と防具が大半だ。
それが悪いわけじゃないし、キースの剣が十分使えているように、骨の武器でも十分強い。強度もあるから防具でも使えるだろう。革製は防御力が低い代わりに軽いメリットもある。
それでも、中には金属製が好みだったり、事実上防御力は高いわけだから、中にはこっちを使いたい人もいるだろう。
あえてそっちはターゲットから外しているのか・・・?
それにヒト族の客が多い。
エルフ族の客がいないわけじゃないが、思いの外多い印象。パッと見、エルフ七割、ヒト三割って感じか。
たまたまそういうタイミングで入ったのかもしれないが・・・
「何かお探しで?」
店主が話しかけてきた。
もう少しじっくり物色したかったところだが、素人が見てもどう強いとかどういう効果があるとかは分からない。
「鞭を探してるんですけど」
「鞭ですね。うちは革製品が得意ですから、任せてください」
・・・なるほど。革製品が得意なのか。
だから金属製が少ないのか?
「今はどんな鞭をお使いで?」
「今はこいつです」
片手でベルトから鞭を外して渡すと、
「なるほど。ランドウィップですか」
「こいつよりも威力が出る鞭があればと思っててね」
「これよりも威力が出る物ですか・・・ふーむ」
店主はじっくりと俺の鞭を眺めて、
「これ、何か合成されてます?」
「・・・分かります?」
「ええ。全て分かるわけではないのですが・・・これは毒かな?」
すげぇな。俺は全く分からん。
「ポイズンスパイダーとパラライズバイパーの素材を合成してるんですが」
「なるほど・・・状態異常特化ですね。これの場合は難しいなぁ」
「難しい?」
「これの場合、元々それなりの攻撃力があるんですよね。その上で合成している。一般流通している武器よりも十分に強いので、これ以上というのはなかなか難しいんですよ」
「ってことは、一般流通している武器よりも、モンスターの素材を使った武器のほうが強いってことですか?」
「そういうことになりますね」
てっきり強い武器とか防具があるもんだと思っていた。
「あ、もちろん物によりますよ?レベルの低いゴブリンではどうしようもないので」
レッドゴブリンのことだな?
一応はモンスターだからそれなりの価値はあるんだろうと思ったが、そういうわけでもない、と。
まあ、あれが束になったところで、ランドリザードにゃあ勝てんわけだし、納得できるところが悲しいところだ・・・
「これの場合だと、更に強化を行ったほうが良いでしょうね」
「できるんですか?」
「はい。素材を集めることさえできれば、強化できますよ」
この辺りはゲームなんかと同じシステムか?
「当然、鞭は革製ですから、強力なモンスターの皮があれば強化できます。骨なんかもあればいいですね」
「どんなモンスターでもいいんです?」
「いや、ある程度の強度も必要です。中型以上のモンスターであれば十分かと」
・・・ってことは、
「集められますか?」
「・・・なんとか」
協会に預けているアレならぴったりだろう。
「今すぐに持っては来れませんから、持って来たらすぐ加工・・・ってことでどうです?」
「他のお客さんの注文もありますから、可能であればすぐに対応しましょう」
「どれくらい必要ですかね?」
「そうですね・・・大人十人分くらいあれば十分かと」
それなら問題ないだろう。寧ろ有り余る。
「よし、交渉成立」
武器はどうにかなりそうだな。
あとはガーベラさんとの都合次第か・・・