13-2
目を開けると、森の中に立っていた。
この雰囲気は知っている。アルテミナたちと接触できる場所だ。
どうやら俺の精神世界だって話だが、俺ってそんな森のイメージが強いのか?
確かに俺はキャンプ好きだし、海より山派ではあるんだが、こういう心象世界もそっち方面になるようなもんなのか?
まあ、逆に海よりはしっくりくる・・・ってことにしておこう。
「アイオロスは気難しいが、悪いヤツではない。じっくり話をしてみるが良い」
「お前の気難しさも大概だぞ」
「む・・・」
アポロが頭に乗っかっている。
地味に掴まれている感覚があるから困る。爪が若干痛い。
「この先にいる」
前にここに来た時よりも深いところにいるらしい。
ここが俺の精神世界なら、俺の精神の深いところっていう認識なのか?
どういう構造になっているのか知りたいところだな。
「そういえば、あんだけ関わらないみたいに言ってたくせに、急だな。何かあったのか?」
「何かあったわけではない。我が話をつけたのだ」
「・・・ほう」
こいつが動いていたとはなぁ。
「どういう風の吹き回しだ?」
「この先、アイオロスの力が必要になってくるからだ」
「そんなにあいつってすごいのか?」
ふむ、とアポロは一呼吸置いて、
「基本的な話ではあるが、我々神獣はアルテミナ様の遣いである。アルテミナ様ほどの能力は持ち合わせておらぬが、力を分け与えられた、アルテミナ様に次ぐ存在だ。我とアイオロスの差はない」
こいつ・・・若干張り合ってるのか?
実はこいつら、仲が悪かったりする?
「それぞれが持っている能力の種類が違うのだ。我は威嚇やバードアイと言った補助、そして察知能力に長けている」
「その補助が使えりゃあガノダウラスも苦労しなかったんだがなぁ」
「・・・話を続ける」
あ、機嫌を損ねたか?
「アイオロスは戦闘向けの能力に長けている」
「ってことは、直接相手に影響があるスキルってことか?だったら話が変わるぞ。俺は相手に強く干渉するようなスキルはまだ使えん」
「話は最後まで聞くものだ。ヤツの能力は自身の戦闘能力を引き上げるタイプのものだ」
自身の戦闘能力を引き上げる・・・?
「ヤツの神力を手に入れ、使いこなすことができるようになれば、その辺りにいるモンスターなど相手にならぬ。上手くやればガノダウラスとも容易に渡り合えるようになる」
おいおい、それがマジなら相当強い神力なんじゃないの?
そんな強力なスキル、いきなりあげちゃってもいいわけか?
「強力故、使いこなすには相当時間が掛かる。それに少年の場合、合う合わぬが付きまとう故、せっかくの能力も使えず仕舞い・・・ということもある」
アポロがこれだけ言うってことは、その神力も相当なものらしい。
威嚇は一旦置いておくとして、バードアイは個人的にかなり強いスキルだ。あれが使えるだけでも、狩猟の効率が変わってくる。
アイオロスの神力・・・興味が出てくるじゃないか。
「いたぞ」
森を抜けた先に、大きい岩があった。
結構大きい岩だ。場所によっちゃあパワースポットになりそうなくらいの存在感と、何かしらのエネルギーを感じる。
そんな岩の上に、
「待ちくたびれたぞ」
ゆったりと座っている狼が一頭。
アイオロスだ。
ゆっくりと立ち上がって、岩から飛び降りてきた。
音も立たせずに着地して、
「随分、楽しそうだな」
「そう見えるか?」
こいつ、いきなり感じが悪い。
アポロも大概そうだったが、こいつの場合はなお悪い。
「我と一緒にするな、少年」
「お前もテレパシー持ちか?」
「短期間で随分と馴れたものだな」
「妬くな妬くな」
「調子に乗るな、小僧」
冗談が通じないくらい嫌われるのはキツイな・・・
唯一の救いは、こいつが人間じゃなくて神獣だってことだ。
人じゃなく神様だって思えば、多少しんどくても誤魔化せる。まあ、誤魔化すのも限度はあるだろうが、補正が掛かる分だいぶマシ。
「アイオロス、話を始めるのである」
「言われなくても進める」
ホント、こいつらアルテミナの神獣なんだよなぁ?
ああいうのって結構仲が良いイメージがあるんだが、ここが特例なのか?それとも他のそういう連中は仲が悪かったりする?
「キリヤと言ったな」
「おう」
まあ、仲が良かろうと悪かろうと知ったこっちゃない。
今は目の前の問題に向き合う。
「俺の神力が欲しいか?」
この問いかけはアレか?力が欲しけりゃくれてやる的なアレか?
それはそれでもいいんだが、いきなり過ぎる。
「・・・そりゃあ欲しいが」
「・・・が?」
「内容による」
「・・・あ?」
動物の表情なんて大して分からないが、そんな俺が見ても分かるくらい、狼の表情が歪んでいた。
明らかに怒ってる・・・
「・・・少年」
俺の頭皮を掴んでいるアポロの足に力が入った。
分かってるよ、怒らせるなってことだろ!?
ってかいてぇよ!
「あのな、一応勘違いしないで欲しいんだが、説明する時間をちょいともらっても?」
「誰がやるか。貴様のようなグズと関わろうとしたのがそもそもの間違いだった」
「アイオロス」
アポロが強く、狼の名を呼んだ。
「・・・納得のいかない説明だったら、この話は終わりだ」
なんとかギリギリ耐えたな・・・
アポロに借りでもあるのか、それともアルテミナに対する忠義か?
どっちしてもいいが、説明は免れんな・・・
「神力が強力だって話は分かる。それを使えば強くなれるってことも分かる。だけど、自分にとって使えるかどうかってのが前提条件になってくるだろ」
「誰にとっても使えるものだ。それが神力なのだぞ」
「誰にだって使えるなんてモンはない。実際、威嚇は俺は使えん」
誰にとっても、誰だって使える能力。
そんな都合のいいものがありゃあそれに越したことはない。
だが、残念ながらこの世界は不平等。
せっかく貰った強力スキルも、俺の肌には合わなかった。
まあ、馴染めば威嚇も使えるようになるかも・・・って話だったが、芽が出てないスキルに期待し続けるのも無理がある。
近距離が得意なヤツに遠距離を与えても、魔法が得意なヤツに剣のスキルを与えても仕方がない。
そこから芽が出る可能性は無きにしもあらずだが、得意を伸ばすほうが合理的な一面がある。
だから俺はそういう風に言ったわけだが。
「・・・ふん」
狼の雰囲気が少し和らいだ・・・?
「グズのくせして、多少は考えているようだな」
「・・・あのなぁ、さっきから人のことグズ呼ばわりすんのやめてくれない?」
「グズにグズと言って何が悪い?」
こいつ・・・
「すまないな、少年。こいつはこういうヤツなのだ」
「こいつ、友達いないだろ」
「我々に友という概念は基本的にないが」
「悲しいこと言うなよ・・・」
「それは紛れもない事実である」
神様の遣いにだって友達の一人や二人・・・いや、こいつらの場合は一羽とか一頭か?
何でもいいが、それくらいいるだろうに。
「いいだろう。アポロが行動を共にし始めた頃より多少は見られる」
「・・・ってことは?」
「お前に試練を与える」
「・・・試練?」
何?その物語みたいな展開・・・
「今から言う下界のスキルを覚え、大型モンスターを狩猟してみろ。見事狩れたらお前に神力を与えよう」
地上のスキルを覚えて狩猟・・・?
アポロみたいにバードアイと威嚇をいきなり与えてはくれないのか。
「俺は甘くないぞ、小僧」
マジで甘くねぇ・・・
「伝えるぞ。まずは―――」
この展開はアレだなぁ。辛いヤツだよなぁ、絶対。