13-1
「よし」
宿屋に戻って、ベッドに座る。
目の前にパスポートを置いて。
オニキスさんと別れた俺たちは、そのまま協会に入って解体と精算処理を依頼した。
ガノダウラスを工場に出した瞬間のざわつき。
マジでこのガキが倒したのか?
よく似たモンスターじゃなくてか?
どんな戦い方すりゃこうなるんだ?
色んな声が聞こえたが、ざっくりこんな感じ。
そりゃまあ、そうなるわな。
だが、そんな風になるのは初めてのことじゃないし、折り込み済みなんだよ。
問題はそこじゃない。
「結構できることが増える」
問題はポイントの量。
この世界にいる限り、モンスターとの遭遇は避けられない。ってことは当然戦わなきゃ死ぬ。
これまでは最終的にヴェロニカがどうにかしてくれたから良かったものの、いなくなる、もしくは動けない状況になることもあるだろう。
そうなった時、生活に関わるスキルだけではどうしようもない。自分一人でもどうにかできる力を身につける必要がある。
今回の精算で得たポイントは、全て戦闘系に回す。
手に入ったポイントは140ポイント。
正直、想定以上に手に入った。
今までの経験値は何だったんだってくらいの量だ。ランドリザードとか雑魚だったんだな、あとちょっとで殺されかけたのに、とか思うところがないわけじゃない。心折れそう、久しぶりに。
今までのことは勉強と思って、これからのことに向き合う。
戦うために必要な要素。
攻撃。とにかく相手にダメージを与えなきゃ話にならん。
防御。即死級の攻撃を繰り出してくるヤツ相手に、薄っぺらい防御力じゃあどうすることもできん。
機動力。どんな攻撃も当たらなきゃ意味がない・・・ってアレ。
技術。狩猟する技術や知識。
どれが欠けても成り立たない。最低限備えないとどうしようもない。
技術はこれから学ぶ機会はあるだろうし、我流でどうにかやっていくしかないとして、知識は何かしらで得られるだろう。例えば図書館とか。
そこは一旦置いておくとして、他に優先すべきスキルは何だ?
今の俺のスタイルを重視するとして、有利に事を進めることができるスキルが必要だ。
「となれば、まずはこれか」
スキル名:状態異常攻撃強化
毒や麻痺などの状態異常を引き起こす効果を強化する。
これなんかは今の俺のぴったりだ。
ランドウィップの毒と麻痺の効果を強化できる。より簡単にモンスターを状態異常に陥れられるし、その効果も強力になるわけだから、毒や麻痺もきつくなる。
レベル1から3まであるから、上げることでより効果が強化される仕様のはず。一気にレベル3まで上げれば相当有利になる。
デメリットがあるとするなら、これから武器を変えるとなれば、同じような状態異常系を選ばないともったいなくなるとか、対人で使えば即死する可能性が高いこと。
人に使うのはもうやめるにしても、武器の選択を絞られるのは痛いかもしれない。
基本的に状態異常攻撃は特定の条件を除いて有利にできることは変わりない。これを使い続けることは悪いことじゃない。
あとはリオーネと同様、回避性能強化。これは重要スキルだ。
幸いなことってのは少し違うんだが、俺はキースよりも動けるし、ジェシカみたいにわざわざ受ける意味を見出せない。っていうか、わざわざ受けるってどういうこと?あいつバカなの?
まあ、それは一旦置いておくとして。
俺はキースみたいに防御力が高いわけじゃないからな。一発のヒットが致命傷になる。
それをかわすことが重要になってくる。となりゃあ、このスキルは必須とも言える。
ただ、これもそれなりに謎な一面もある。
回避を成功させるとは言っても、その発動条件がよく分からない。
回避運動・・・攻撃から避けるような動きをしたらその瞬間から発動するのか、それとも避けたいっていう意識によって発動するのか・・・?
どっちかなのか、それとも別のキッカケがあるのか・・・?
あれ以降、リオーネが攻撃を受けるようなことがなかったし、かと言って受けろとは言えない。だから発動条件が分からない。
この謎の発動条件を解明しないことには、かくれんぼと同様、無駄なポイントを使うことになる。
かくれんぼの全てが無駄とは言わないにしても、あれもよく分からんスキルなんだよな・・・
他にも覚えることはたくさんある。
とにかく、今は自分の立ち回りを有利にしたい。
良い手本があるとするなら、リグーン村で戦った真田だろう。
ベースとなる投げナイフを一本持っておいて複製で増やし、敵に投げる。
これはある意味、理想的なコンボだろう。
可能な限り中距離を維持しつつ攻撃をし続けることで、安全に敵を攻撃できる。相手との位置取りを常に意識しないとできないだろうし、投げナイフを相手に刺せることが前提条件になってくるが、上手くハマれば一方的に攻撃できる。
ああいうコンボを俺も組まないといけない。
今は武器の性能に頼っているし、真田みたいな組み合わせを検討しないとな。
『少年』
アポロだ。
「程良い時間に来たな」
寝てもいいし、寝なくてもまだ動ける時間帯だ。
まあ、スキルのことを考えているうちは集中するだろうから、そう簡単に眠くはならないだろうが。
『今から誘う。よいか?』
「ああ、いつでもいいぞ」
スキル選びは終わっちゃいないが、今日中に決めないといけないわけじゃない。
それに、アイオロスとかいうあの狼が、何かしら神力を与えてくれるんだろう。それを見てからでも悪くない。
『そう簡単に事は運ばないと思うがな』
「お前の時も大概そうだったけどな。ってか、今もか?」
『嫌味であるな。今は少しは協力しているつもりなのだが?』
「最初はメチャクチャ嫌ってたろ。忘れてないぞ」
『・・・今も多少は疑問に残っているがな』
「その一言が余計なんだよ」
最早、関わりが深くなり過ぎた。今更忘れろと言われても困るし、バードアイも消されたら痛すぎる。
これはお互いに言えた話だが、思うところがあったとしても、それはそれ、これはこれと割り切りも必要だ。
『では、いくぞ』
「おう」
フラッ。
意識が遠のいた。
体がたぶん、そのままベッドに倒れ込んだだろう。
アイオロスとか言ったな・・・面倒にならなきゃいいが、まあ・・・無理だろうなぁ。