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 魔法ってのはすごいもんだ。


 手から火炎放射を出せる。

 何もない空中に水を作って飲むことができる。


 他にもやれることは多いんだろうが、日常生活的に火と水を作り出すことができば相当楽ができると思う。

 サバイバル中だと特に。


 だけどまあ、それは常識の範囲内ってやつであってだな・・・


 団地の一階の一区画を吹っ飛ばす威力なんか、あってどうするんだ・・・


 本当に吹っ飛んだのは驚いた。シンプルに驚いた。

 それはそれでいいこともある。

 どうも、ラヴィリアにはモンスターってのがいるらしいし、それを吹っ飛ばせるのならあったことに越したことはない。

 でも、それはモンスターであるとか、命に危険が及んだ時の話であって。

 公共の施設を吹っ飛ばして特になることなんかほとんどない。あっても、解体する時くらいじゃないか?


 あの男爵イモとメークインを吹っ飛ばしかけた一件がどう響いてくるのか。

 最早恐怖でしかない。


「さて・・・どうしたモンかなぁ・・・」

「うう、はい・・・」

 ―――結局、団地を吹っ飛ばしてから逃げるように居住区を飛び出した俺たち。

 周辺をうろうろしていると危ないかもしれないってことで、とりあえず宿屋に戻った。

 ここで一服・・・といきたいところだが、湯を沸かすわけでもなく、俺たちは向かい合うようにベッドに座っている。

「やりすぎですよ、ヴェロニカさん・・・」

「まさか、あそこまで強い威力が出るとは思わなくて・・・」

 フレアバレット。団地を吹っ飛ばしたのは炎系攻撃魔法の初歩スキルだ。

 初歩のスキルであるため、本来なら団地の一区画を吹っ飛ばす威力は無いらしい。

 無いらしいんだが・・・


 実際はあった、と。


 ヴェロニカは森でたまに撃っていたらしい。

 まあ、地球でもよくあるストレス発散の一環だというのだが。

 ただ、あまり使う理由もない上、生存のためにエアシェードやテレパシーに力を割かなければいけない制約もあって、威力をコントロールする練習はそんなにしていなかったらしい。

 芋親子二組に向けて撃ったのは、ぶっつけ本番とそう変わらなかった・・・そう説明してくれた。


 威力がどうとか、ぶっつけ本番だったとか、そういうことは一旦置いておこう。

 本当は置いておかずに解決したいところだが。

 今本当に考えなければいけないのは、自分たちが置かれた状況の把握と、これから起こることを想定しておくことだ。

「で、いくつか確認したいことがある。知っていたらでいいから、教えてくれ」

「うん」

「ラヴィリアで・・・というより、ボルドウィンに治安を守る組織とか人員があるかどうか?」

 真っ先に考えなければいけないのは、警察的な組織があるかどうか。

 常識のある人間なら、団地の一部を吹っ飛ばして何とも思わないわけがない。

 あの芋二人がどうするかは定かじゃないにしても、最低限の行動はするだろう。警察や自警団のような存在に連絡をするに違いない。

 ただ、無いのなら無いで結構。こっちとしてはこれからも気にせず動けるので大助かりだ。

「あるよ」

「・・・ふぅぅぅぅぅ」

 やっぱ、あるよなぁ・・・

「基本的には剣士や黒魔術師を中心とした組織で、治安を守っているんだ。何人くらいで構成されているかはさすがに分からないけれど、事件が起これば彼らが中心になって解決に動くんだ」

「となれば、今回のことでも動くよなぁ・・・」

「・・・そう、ですね」

 正式な名称は分からないものの、治安部隊があるのなら、今回の件も大なり小なり動くだろう。

 となれば、別の心配が発生する。


 動いている彼、もしくは彼らと接触したとして、俺たちだけで切り抜けられるか?


 仮にも剣士や黒魔術師などなどで構成した部隊だ。

 治安維持を基本とした部隊なわけだから、それなりに戦闘経験もあるはずだ。しっかりと訓練もしているだろうし、それなりにスキルも習得しているに違いない。

 それを相手にするとして、今の俺でも対応できるのか?

 いや、普通にボコられるほうが早いだろうよ。

 となれば、シンプルに逃げるが勝ちだ。

「ただまあ、簡単に逃げられるのかも分からんよなぁ・・・」

 いくら多少スキルは覚えているとしても、俺なんかその辺にいる小僧と変わらんわけだし、大勢から逃げるのにも限界はある。

 というか、自信がない。

「でもね、キリはさ」

「あん?」

「わたしとは違う世界で生きていたわけだし、そういう点では切り抜けられる知識とかがあるんじゃない?」

 目の前でちょこんと座っている赤ん坊・・・この状況で切り抜けられると思ってる?

「わたしはラヴィリアの常識しかないけれど、キリはキリの世界の常識があるでしょ?それを踏まえて見てみれば、抜けが見えないかなと思ってね」

 もしかして、まだ滞在しようとしてる?

「あの、ヴェロニカさん・・・こんなことを言うとアレなんですけど」

「どれ?」

「普通、あんだけ騒ぎを起こせば、さっさとボルドウィンを出ようってなるもんだよ」

 治安部隊に捕まればどういう目に遭うか分からない。叱られるだけならまだいいが、少なくとも器物破損はしているわけだから、多少の刑罰や罰金は覚悟すべきだろう。

 だから、俺はすぐにでも宿を引き払って首都から脱出したいわけだ。

 そのために一服することもせず、すぐに飛び出せるように荷物もまとめているんだから。

「だって、ほとんど調査なんてしてないし、何かしら手がかりを掴まないと何も進展しないじゃない」

 言いたいことは分かる。

 ボルドウィンでしたことと言えば、旅支度を整えたくらいで、調べられたことも接触のあった数名の生活レベルが分かったくらい。本命の情報など何一つ無い。

 ほんの少しでも手がかりを得たい。となれば、滞在を続けて調査をするしかないというわけだが。

「リスクが高すぎる・・・」

 滞在し続けるってことは、治安部隊と接触する可能性を引き上げることだ。

 そりゃあ、ほんの数パーセントだとしても、人の集団の中で活動していれば、俺たちの姿を見られる可能性も上がる。居続ければ、それだけリスクを高める。

 そうすれば、最終的に辿り着く未来なんか分かり切っている。

「少しでもいいんだ。ほんの少しでいい。何か情報を手に入れたい」

 気持ちは分かるんだが・・・

 って、泣きそうな顔をやめろ。ズルい。

「・・・ううん」

 ヴェロニカの思いを酌んでやりたいところだが、リスクが高くなる。

 この宿屋だって、いつ特定されるか分からないわけだし。

 ただ、この旅はヴェロニカのための旅。

 スポンサーの意向は絶対・・・という一面も悩ませる要因の一つか。

「・・・ふむ」

 さっき、ヴェロニカは俺の常識と言った。

 俺は単純に無理だと思い込んでいた。

 いくら共通点が多いって言っても、全部が共通しているわけじゃない。

 

 日本で見たり聞いたり遭遇したりして得た知識を使えば、ワンチャンいける可能性もあるかもしれない?


「・・・なるほど」

 そう考えれば、ちょっと見えてくる。

 滞在を伸ばせる可能性。

「ヴェロニカさんや」

「なんだい?キリさんや」

「今から言うことをよぉくお聞き」

 まず、と軽く握った右手をヴェロニカの前に出して、人差し指を立てる。

「一つ目。滞在し続けるほど、危険はたくさんついてくる。これを頭の片隅に置いておいてくれ」

 続けて中指を立てて、

「二つ目。どれだけ頑張っても、情報が得られないことは当然ある。これも理解しとくれ」

「う~・・・わかったよ・・・」

 そもそも、団地を爆破しなければ、もっと余裕をもって情報収集できたんだよ。それも理解して欲しい。っていうか、まずそこだわ。

「あんまり言いたくないけどさ・・・こうなったのはあなたのせいだということを忘れないでもらっていいですか?」

「う~・・・ごめんよぉ・・・」

 反省しているようだし、泣かれても困るし、怒るのはここまでにして前を見よう。

 説教していても、状況は解決しないしな。

「基本的に俺が動くことは変わらないけど、ヴェロニカの協力もより必要になる。危険を避けるため・・・もとい、危険な状況に陥った時に助けてもらう」

「危険な状況?」

「今から説明する。よぉぉぉぉぉぉぉぉくお聞き」

「すごい伸ばしたね」

「本当に聞いとけよ?俺もヴェロニカも無事でいるために必要なんだからな?」

「うん」

 

 俺たちの危険と隣り合わせ生活が始まった。

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