12
いつの間にか、俺の隣にとある男のエルフが立っていた。
長めの黒髪を低い位置で束ねたイケメンだ。
割と背が高い。パッと見、百八十センチ前後か?
かと言ってゴリゴリの体型なわけじゃなく、割と細身。
ホストの世界なら帝王とか・・・いや、行くとこまで行きゃあ超が付くほどのセレブとか映画スターとかにもいそうなイメージ。
マジで誰だ?
「おいジェシカ、お前の知り合いか?」
謎のエルフから離れて、
「あたしだって知らねぇよ」
・・・だそうだ。
だったら誰だよ?
ってか全然気づかなかった。
実戦だったら一刺しでやられてたわ。いつの間にかやられてた・・・ってやつだ。
この人、ヤバい人なんじゃないの?
「おい、こいつって・・・」
「・・・ああ」
こいつらは知ってるらしいな・・・
「騒ぎを起こせば大なり小なり面倒になるぞ?いくら雇われの剣士でもな」
見たところ丸腰か・・・?
一触即発に近い状況で、丸腰で入ってくるか?
「こっちの若い連中も謝ってたろ。この辺りでやめときな」
それに、割と小綺麗な格好をしてる。荒事はやってそうに見えないが・・・
ただ、この男が出てきて、傭兵たちの様子が変わった。
ビビった?そりゃあまあ、いきなり出てきたしな。
もしくは動揺した・・・?
「やるならやるで、こっちも手札を切らなきゃいけなくなるぞ?」
警告・・・いや、脅しか?
こういうやり方をするってことは、多少腕に覚えはあるってことか・・・?
「・・・行こうぜ」
「あ、おう・・・」
さっきまでやる気だった連中が退散していく・・・?
「危なかったな、君たち」
あれだけイケイケだった連中があっさり引き下がっていく。
そんなの簡単にできない。
この男が相当ヤバいってことか・・・?
「まあまあ、そう警戒するなって」
結構顔に出してたか?
それともスキルか?
「パーティで散歩でもしてたのか?まあ、悪いこたないが」
「そういうあんたは?」
「歩きながら話そう。野次馬が多すぎる」
助け舟を出してくれたのは分かる。
ただ、登場の仕方から今の今まで、怪しいことが多すぎる。
こいつを信用していいもんなのか・・・?
「キリさん、この人は大丈夫だよ」
ヴェロニカ・・・また読んだな?
「まあ、近づいてきたことに思惑はあるみたいだけれど、そう悪い人じゃないよ」
見ず知らずの俺たちを助けたって、大した得はない。そりゃあ中には見返りも求めない、所謂正義感で助けに入る人もいるだろう。
この男の場合、思惑はあるらしいから、完全な善意だけってわけじゃない。
まあ、逆に安心する一面あるか。こんな状況だし、ある意味納得できる。
「・・・ああ、行くか」
野次馬連中の視線もいい加減鬱陶しいし、状況に乗っかって脱出するとしよう。
「どこに向かう途中だったんだ?」
「・・・それより、あんた何者だい?」
「ああ、そういえば名乗ってなかったな。すまん」
くっくっくと笑いながら、
「俺はオニキス。オニキス・ウィンチェスターだ」
オニキス・ウィンチェスター・・・
アレか?古式銃か何かかな?
「俺は―――」
「君たちのことは知ってる」
「・・・へぇ?」
ってことは、
「ガーベラ様から話を伺ったからな」
そういうことになるわな。
なるほど。この人、ガーベラさん側の人だったか。
そりゃそうだよな。じゃなきゃ、俺たちを助ける必要なんかない。
俺たちがフリーだった場合、どこの連中と揉めてもどうでもいいだろうが、今は薄くても関わっているわけだし、それが揉めたら多少なりとも影響は出るだろう。
「ってことはウィンチェスターさんは監視かい?」
「オニキスでいい」
意外とフランクだな。それはそれで楽でありがたいが。
「そういう一面も否定はできないが、それよりも俺個人の興味のほうが強いな」
「・・・興味?」
「まあな」
オニキスさんは前を歩きながら、
「もちろん、ガーベラ様から見守るように命令を受けている。君たちが自分から問題を起こすようであれば制さなければならないが、その辺りは及第点。多少注意が必要、とだけ伝えるくらいでいい」
それはジェシカだな、たぶん。
こいつ、何でそんなに血の気が多いんだ?
いつも思うけど、マジでどうしてそうなったのか知りたいわ。
「興味があるとおっしゃいましたが、どこに興味がおありなのでしょう?私どもは一般的なパーティと遜色はありませんが?」
そう、見た目は普通の、そこら辺にいる連中と差はない。
俺が日本で得た知識で装備を整えたってところくらいは違うだろうが、大半は現地人なわけだし、浮くとしても俺くらいだろう。
それに、オニキスさんと接触したことはない。ガーベラさんとの話だってその場に居なかったわけだし、興味を持つキッカケがないはずなんだが。
「その辺りの連中よりデキるほうだろう、君たちは」
一般的な、という認識はないらしい。
「もちろん、拙いところは見受けられる。だが、ガノダウラスをこの人数で倒すというのは相当レベルが高くなければ不可能だ」
この様子だと、アイシャの報告書を見てる可能性があるな。
だとしたらキッカケはそこか。
「しかも、剣士と格闘家と白魔術師に、探検家と商人・・・到底倒せる組み合わせじゃないが、それでもやれている。それができる何かが無ければできん。それを知りたいと思うのは当然だろ?」
「・・・オニキスさん、荒事をする仕事ですか」
戦うことばかりを尋ねているってことは、少なくとも関係はあるだろうが、
「悪いがコメントは控える」
「おいおい、それはねぇだろ」
ジェシカの反応ももっともだ。
こっちばっかり情報を晒されてしまっている。そっち側のことを知りたいとかじゃないにしても、知られ過ぎているのも気持ち悪い。
まあ、それよりも身分を明かせない・・・っていう意味合いのほうが強そうだ。
「君がキリヤか」
「・・・そうだけど」
「そう勘ぐるな。俺はそう悪い人間じゃないぞ」
「そういうのは自分で言うことじゃないぞ」
「それはまあ、確かにな」
オニキスさんは軽快に笑いながら、
「パーティを引っ張る男だ。何かがなければそうにはならん」
「・・・そりゃ買いかぶり過ぎだな」
俺は自分を過大評価しない。
自分を信じるとか信じないとか、そういうことじゃない。
実際、人間一人ができることなんか、高が知れているんだ。
「おい、ここだぞ」
話している間に協会に着いたらしい。
「ここに用があったのか」
「まあ、しばらく寄れてなかったからな」
「じゃあ、一旦お別れだな」
オニキスはそのまま俺たちから離れていく。
「そのうちまた接触させてもらう。じゃあな」
人混みの中に消えていった・・・
「・・・なんだったんだ?あいつ」
「・・・知らん」
話した感覚でしか分からないが、まあ悪い人じゃなさそうだな。
真意が分からないにしても、それなりに丁寧な感じだったし。
一方で自分のことを明かしていない。ガーベラさんの命令もあるんだろうが、俺らを引き込みたければもう少し信用してもらいたいもんだ。
まあ、協力するって言ってないし、その辺は無理な話か。
「とりあえず行くか」
俺たちは俺たちの目的を果たそう。
あの男のことを考えても今は分からないし。