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「あ?何だ、お前?」
ジェシカがぶつかったのは兵士か・・・
良い装備は身に着けてるっぽいな。甲冑もキースの物よりしっかりしてそうだし。
「誰だか知らねぇけど、お前呼ばわりされる覚えはねぇな」
「なんだ、このエルフ?随分好戦的だな」
「お、何だ?歯向かってくるのか?」
相手は三人か。
それぞれ剣を持ってる。甲冑も着用してるし、剣士で間違いないだろう。
「エルフのくせして、剣士に逆らうのか?」
「くせしてって何だ?コラ」
共通して言えることは、一つは装備がバラバラだってことだ。
正規軍なら共通した装備を配給するだろう。そりゃあ、中には自分で準備した装備を着用するヤツもいるだろうし、装備を統一するルールがない国もあるだろうが、一般的に正規軍は共通した装備の可能性は高い。
仮に目の前のこいつらを末端だとした場合、余計にそうだ。
だが、こいつらはそうじゃないし、装備のグレードもまちまちに見える。
もう一つは剣士であることでマウントを取ろうとしていること。
剣士であることが偉い。加えて言うと、エルフを下に見ている。
エルフは接近戦が不得意だって話だから、特殊な例を除いて接近戦ジョブになる者は少ないって話だ。
こいつらはヒト族で剣士・・・お前らよりも強い、偉いという思考が目で見て分かる。
「おい、よせよ、ジェシカ」
キースがジェシカと連中の間に割って入っていくと、
「お。お前も雇われたのか?」
「・・・何の話だ?」
「何だ?違うのか?」
「雇われた・・・?」
なるほどな。
こいつらが例の傭兵連中か。
「なんだ、お前も稼ぎに来たのかと思ったぜ」
「稼ぐのもまあ目的ではあるけど、本来の目的は別にあるし・・・」
「は?何だそれ」
何だろうな、こいつら・・・
「うーん、態度が悪いのも問題だけれど、一番の問題は頭が悪いことかな?」
相変わらず鋭い指摘だな、ヴェロニカさん・・・
「お前ら、何のためにこの国に来たんだ?」
「あ?お前らに関係ねぇだろ」
「この女・・・ナメてんのか?」
うん・・・まあ、こうなるよなぁ。
適当に受け流す・・・ってのはジェシカにはできん芸当か。どういうわけかこいつは真っ直ぐにしか進めないからなぁ・・・
ハンドルが取れた車か?いや、あれは曲がる可能性はあるか。
だったら闘牛・・・まあ、妥当な線か?攻撃する時は真っ直ぐだし。あれくらい攻撃力が最初から出れば文句なしなんだが。
まあ、それはいいとして、
「俺らは政府直轄の傭兵部隊にいるんだ。逆らったらどうなるか分かってんだろうな?」
それは初めて聞いた。
傭兵部隊は政府直轄になってるのか。
もっと突き詰めれば、マーガレット直轄ってところか。ガーベラさんは自分の部隊があるとか言ってたし、同じ政府直轄でも種類が違う。
「どうなるんだ?あ?言ってみろよ」
「この国でデカい顔ができなくなるだろうよ。エルフのお前なら特にな」
「おーおー、面白れぇ。やってみろよ」
これはいよいよケンカになりそうだな・・・
「おいよせ、ジェシカ。落ち着けって」
キースは一線を越えそうにないな。大人だわ、この人。
「ま、やめといたほうがいいだろ」
キースに乗っからせてもらうか・・・面倒だけど。
「悪かった悪かった」
「あ?何だお前?」
「俺らはただの通りすがりでね。この国のモンじゃない」
ジェシカが飛び出していかないように、キースと一緒に壁になるような立ち位置で割って入る。
「おいキリヤ、こいつら殴らせろよ」
「良くないよぉ、そういうの。ホント良くない」
結構騒ぎが大きくなってきた。
野次馬もかなり集まってきているし、それに応じてざわめきも大きくなってきている。
こんなところでケンカになりゃあ、俺たちだけが怪我するならまだしも、周りに飛び火する可能性もある。
こいつらとケンカをして勝てないってこともないかもしれないが、実力も分からない。最終的にヴェロニカに魔法を使ってもらえば勝てるだろうが、無駄な怪我をしたくないってのが正直なところ。
何より、今はガーベラさんと関わっている状態だ。宿まで手配してもらっているし、マーガレットから庇ってくれている。ここで騒ぎを起こしたら選挙に影響を出してしまうかもしれない。
どっちにしてもうまい状況じゃないし、ここは逃げるが勝ちだ。
「ぶつかったのは謝る。悪かった。だからまあ、もうこの辺りでやめにしないか。お互い、面倒事は嫌いだろ?」
こいつらはこいつらで雇われの身だし、こういう騒ぎがダメージになることもあるだろう。今後の活動にも影響を出しかねない。解雇されるとかも有り得るし。
だが、
「面倒になんかなるわけないだろ」
「は?」
何でこんな強気?
「俺たちは政府に守られてる。どんなことしたって守られるんだよ」
「お前らと揉めたところで屁でもねぇわ」
これもマーガレット・・・いや、もしくは先代からの影響か?
トラブルも目を瞑ってくれるのか。どんだけ面倒な事になろうが、誰を傷つけようが、傭兵ってだけで守ってくれるとか?
仕事をしないこととか税金も大概だが、これはこれでまた別の問題だな・・・
まあ、問題は問題だが、こいつらの相手をするのもごめんだ。
「俺は面倒事は嫌いなんだ。びた一文得にならないしな」
「びた・・・?何?」
「とにかく、悪かったな。んじゃ」
無理矢理切り上げようとしたが、
「待てよ。まだ話は終わってねぇぞ」
連中はまだまだやる気だ。
「・・・めんどくせぇなぁ」
バックが事後処理をしてくれるからか、自分たちに自信があるのか・・・こいつらの場合は両方か?
どっちにしても面倒なのは変わりないってところが辛いな。
「いい加減、邪魔だねぇ」
おい、やめろよ・・・?
「さっさと焼き払おうか。跡形も残らず焼き払えば大丈夫でしょ」
怖いことしか言ってないよ、この大砲・・・
こいつの火力ならできそうってのが怖いなぁ。証拠隠滅・・・
「これ以上はやめておけ」
・・・誰だ?
どこで喋った?
「近くで悪いな」
「―――!!」
俺の隣か!!