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「えらい立派な宿だなこりゃ」

「確かに」


 ガーベラさんが手配した宿屋に移動した。


 手配すると退室していってから小一時間くらい経った後、メイドさんが代わりにやって来て、馬車で案内してくれた。

 宿はこの世界に来て過去一でかくて立派なところだった。

 豪華な外観、館内に庭園と池があって、一般人が泊まるにはオーバースペックなスイートルーム。

 一種の高級ホテルみたいな場所で、こんなところを当日に手配できると、あの人がとんでもないお偉いさんだってことが分かる。


 ガーベラさんはそのまま執務に向かったらしい。

 仮にもナンバー2だから、俺たちみたいな一般人相手に割ける時間なんか高が知れてる。内容が内容だったから割いていただけだ。


「とりあえず荷物は下ろして、後はどうします?」

 それぞれに用意された部屋に入って、荷物を下ろした。

 メイドさんが装備を回収してきてくれていて、それも戻してくれた。まあ、何をするわけでもないだろうが、やっぱり愛用の道具を回収されるのは嫌だし、安心もする。

「一旦、外に出るかい?」

 っていうか、こういう状況になるのは仕方がないんだが、マーベルさんと一緒の部屋にされるのは困るなぁ。

 夫婦っていう設定でやってるわけだから、こうなるのは仕方がない。気を利かせてくれた結果だし、大体はそうするだろう。

 そろそろこの設定やめようかなぁ・・・

 ジェシカたちが離脱したらやめるか?

 でもなぁ。情報収集は割と困らずにできるんだよなぁ。

「まあ・・・考えても仕方がない」

 こんな状況も初めてじゃないし、幸いベッドもダブルじゃなくてツインだし、一緒に部屋になっているだけのこと。

 健全な男子ならこの先のシチュエーションの一つや二つくらい考えるもんだろうが、残念ながら俺はそれどころじゃない。

「出かけるか」

 悩みがマジで重すぎる・・・

 その辺にいる高校生が何で国の未来を左右するような出来事に直面するんだよ・・・

 まあ、一旦置いておこう。考えるだけで気が重くなる。

「協会にでも行こう」

 しばらく分の精算でもしておこう。


 ここに来るまでの間に結構なモンスターを討伐している。


 ガノダウラスとデントオーガ、それと道中に見かけた小型、中型モンスターが何頭か。

 ガノダウラスだけでも相当な経験値になるだろうし、その解体素材にも旨味はあるだろう。ポイントも増えるだろうからスキルも習得しておきたいし、武器も手を入れられるなら入れておきたい。

 リグーン村の報酬でマナタイト鉱石が二つも手に入ったから、更に合成もできるかもしれないし、武器屋に向かうのも悪くない。

 ボルドウィン以来の大型都市で、エルフ主体の国。装備の種類や内容も大きく違うだろうから、準備に時間を掛けておいて損はない。


 準備はするが、決してガーベラさんの依頼を検討しているってわけではない。

 ヴェロニカの親探しと頭がおかしい老人探し・・・シルフィで終わればそれでいいんだが、そうならない場合、次の場所に向かわないといけない。

 当然、道中でモンスターと遭遇するし、それに対して対策をしておかなきゃ生きられない。

 最終的にヴェロニカに頼るとしても、どこでも通用するわけじゃあないだろう。俺だけでどうにかしなきゃいけない場面も出てくる。そうなった時、できるようにしておかないといけない。


「リオーネはどうするんだろうね?」

 一旦戻ると言って、宿屋で分かれた。

 実家に顔を出すってレベルで済むならすぐ出てくるだろうが、長期間空けていただろうし、それなりに時間は掛かるだろうな。

「俺たちは俺たちで動くか」

 いなきゃ動けないってこともないし、合流するならするでもいいが、こっちはこっちでやれることはやっておこう。

 時間が掛かることは先にやっておきたいし、

「まずは協会だな」

 モンスターの解体を依頼しておかないとな・・・

 デントオーガくらいなら三日も掛からずに解体してくれそうだが、問題はガノダウラスなんだよなぁ。

 あれは時間掛かるだろうなぁ。現場の人間を総動員して一週間掛かるか、もっと掛かるか・・・?

 どっちにしても、ここで長期滞在は確定だな。その分、調査に時間を掛けられるからいいけども。

 いや、調査じゃないほうに巻き込まれる可能性も捨てきれないか・・・

「おう」

 表でジェシカとキースが揃って待っていた。

「どこか行くんだろ?」

 特に打ち合わせをしていたわけじゃないが、

「協会に行こうと思ってな」

 付き合いもそれなりに長いし、外に出るかどうかくらいは分かるらしい。

 結構長旅だったし、俺は部屋で休むって可能性も踏まえていたんだけどな、一応。

 それはそれでまあ、いいだろう。

「首都の協会は中央区にあるはずだ」

 そういえば、リオーネの実家は西区にあるとか言ってたか?

 シルフィ首都はそういった分け方をしているみたいだな。

「宿屋からそう遠くないぞ」

 アクセスの都合からか、手配してもらった宿屋も中央区らしい。

 まあ、協会から近いのもありがたいし、ダメな理由も特にないし、それはそれで良いとしよう。

「報酬もそうだけど、ポイントはどれくらい稼げるんだろうな」

 キースがそんな話を切り出して、

「結構手に入るんじゃねぇか?ガノダウラスだぜ?」

 ジェシカも乗っている。

 まあ、そりゃあそうなるわな。俺だって大概そうだ。


 それに、ポイント次第で次のスキル取得の優先順位が決まってくる。


 キースの場合、恐らく更にガードを固めるか、カウンターを更に重ねて発生確率を上げるか、攻撃オプションの追加を考えるだろう。

 ジェシカならキースと同じように、更にガードを強化するか、反骨心を覚えて立ち上げを早くするか、更に攻撃オプションを追加するかか?

 二人とも共通して接近戦に挑むわけだし、体力強化も捨てがたい。

 今後は自分で組み立てていくかもしれない・・・いや、組み立てていってもらわないといけないわけだが、何かしら自分の考えはあるはず。

 どういうスキルを取るか、どういう立ち回りをするか、楽しみにしておこう。


 それよりも問題は俺のほう。


 他人のことを考えるのもいいが、二人はいずれ俺たちから離れる。

 最終的に自分のことを気にしなきゃいけない。俺自身が動けるようにならないと話にならないわけだし。

 となりゃあ、どんなスキルを取るのか。俺も俺なりに向き合わないといけない。


 生活に関わることに集中してきたが、今後はそれも難しくなるだろう。

 モンスターに立ち向かわないとポイントを取得できないこともそうなんだが、あの頭のおかしいジジイともまた戦うことになるだろう。嫌だけど。

 そうなった時に今のままだとどうしようもない。次はエアニードルを受けてはくれないだろうし、そもそも撃たせてくれないだろう。

 次の手段・・・というより、こっちが上手く立ち回れるようにしないとヤバい。


 そもそも、上手く立ち回れるようにって言っても、どこまでできるのかって問題もあるが、それよりも問題なのは、能力差があり過ぎることか・・・


 あっちはバカみたいな火力を出せるし、浮遊していてこっちの自信がある攻撃が届かない。

 それに加えて黒沼ワープが厄介だ。

 チート能力持ちに対して、一般的なスキルだけで太刀打ちができるのか・・・?

 やれないことはないだろうが、如何せん得られるポイントが足りていないし、組み立てのビジョンも見えてない。

 どういう組み方をすれば対処できるんだ・・・?


『少年』


 ・・・アポロか。

 また急だな。

『その件で話がある』

 周りの話に合わせられるように、アポロの話だけに集中しないようにしないとな・・・

『本日の夜、精神世界に誘う。そこで話そう』

 ってことは、またアルテミナも?

『いや、アルテミナ様は本日は不在である。話があるのは我とアイオロスである』


 ・・・アイオロス?

 ・・・なるほど。あの狼か。


『そうだ。アイオロスと話をしてもらう』

 あの狼と?急展開じゃないか。

『どうも、少年を試したいと言っていてな』

 ・・・嫌だなぁ。そういう展開は。

『だが、ヤツの能力を得られれば、随分と狩猟も楽になる。乗っておいて損はない。いや、寧ろ乗って乗り越えるべきである』

 ・・・ってことは、神力か。

『そういうことだ』

 バードアイと威嚇の他に神力を手に入れられる・・・?

 どういう内容かにもよるが、それはうまい話ではあるな。

 そう、内容次第。バードアイみたいなタイプだったらいいが、威嚇と同じタイプなら今は使えない。

 まあ、それに関しちゃ手に入れてからの都合か・・・試すって言ってたし、タダで渡してくれるんじゃないみたいだしな。

『そういうことだ。では、今夜にまた来るのである』

 ・・・アポロとの接触が切れたか。意識が目の前の現実に集約していく。

 アイオロスか・・・アポロとはそれなりに話してるが、ほぼ初対面みたいなもんだよな。

 向こうは俺のことを良くは思ってないはずだし、どうなるか分からんが、それもやってみなきゃ分からんか。

 クリアすべき問題がまた増えた・・・


 と思った矢先、


「いってぇな」

 ジェシカが誰かとぶつかった。

「あ?いてぇのはあたしもなんだが?」


 ・・・ああ、また揉めるんですか。そうですか・・・

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