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「確かにありますね。次期女王を決める選挙が」

「うむ」


 こっちの世界にも選挙ってあるのか・・・


 そりゃあまあ、あるよな。政治の形態だって色んな形があるもんだし、今までそういう政治的な場面に出くわしてこなかっただけだ。

 一応王政だって認識はあったし、てっきり一族が引き継いでいくスタイルだと勝手に思い込んでいたみたいだ。


 で、その選挙ってのにガーベラさんが関わっている?

 となりゃあ・・・


「ガーベラさん、次の選挙に出られるんですか?」

「まあ、そういうことになるの」

「なるほど・・・俺たちはガーベラさんの点数稼ぎってことですか」


 やっぱり選挙に出るのか。


 そうなりゃあ、選挙に勝つためには相応の実績が必要だ。

 もちろん、実績がなくても、そのカリスマ性と言葉で国民の信頼を得れば通る場合はある。

 地球の場合でも、大抵の場合は何かしら実績を挙げたヤツが通っているはずだし、こっちの世界でもそれは同じか。


「素直に表現するとそういうことじゃな」

 あっさり認めてくれるあたり気分は楽だが、

「あんまり関係ない俺たちにそういうこと頼みます・・・?」

 俺はそう簡単に納得できない。


 国のトップを決める選挙。

 一世一代の大勝負ってやつになるだろう。国の未来も大概だが、自分の将来もベットした状況に、いくら報告をもらっているとは言っても、見ず知らずの小僧に協力を仰ぐってのはあり得ない。

 例えば世界を救うために現れた勇者とかなら話は別だ。そういう使命を与えられているわけだから、国家の命運を左右する出来事に直面したり関わったりすることはあり得る。

 ただ、それさえ胡散臭いけどな。ガーベラさんの立場からすりゃあ、物語でよく出てくる勇者でさえ見知らぬ人間の一人だってことは変わりないわけだし・・・


「そりゃあまあ、ワシとて不安がないことはないぞ?」

「それでも尚、俺たちに協力を依頼するんですか?」

「やれることをやっておきたいというのが本音じゃな」

 それくらい不利な状況なのか?

「仮に私どもが協力したとしても、お力になれるとは思えませんが・・・」

 状況にもよるだろうが、よっぽどの差があるなら焼け石に水ってやつのような気はする。

「今の世論がどうなっているかにもよりますね・・・」

「世論もクソもねぇだろ。今の法律じゃあ、マーガレット有利はなかなか覆せねぇ」

「ちょっとジェシカ、言い方!」

 ジェシカをリオーネがたしなめるが、

「構わぬよ。現実の話じゃしな」

 この人・・・器がデカいなぁ。

「よく分からんけど、いくつか確認させてもらえると?」

「構わんよ」

 俺が関与するかどうかの本質が解決してないからすっきりはしないが、別に気になることもある。

「まず、マーガレット・・・今の女王も次の選挙に出るんですね?」

「そうじゃな。あやつは居座り続けるじゃろう」

 となれば、ガーベラさんの最大の障害になるわけだな。

 それを引きずり下ろすための武器が欲しいわけだが、

「今の法律じゃ現女王が有利っていうのはどういうことですか?」

 それが問題のような気がする。

 選挙ってくらいだから、国民に受けるマニュフェストを掲げれば、現女王が相手だろうと勝てる可能性はあるはず。もちろん、今の女王が完璧だから入り込む隙間がないって場合は話は別だが。

「それはの、最も美しい者が王になる・・・という法律があるからじゃ」


 ・・・は?

 え?なにそれ?


「あの・・・詳しくないんで聞きますけど」

「おう」

「その、最も美しい者が王っていう法律って・・・何ですか?」

 少なくとも聞いたことがない法律だ・・・

「まあ・・・文字通りですよね?」

「うむ。この国の最も美しい者が王座に座る。そういう法律じゃよ」

 そりゃまあ、文字通りそうなんだろうが・・・

「そんなんアリ・・・?」

「ボルドウィンじゃ聞かない話だな・・・」

 ボルドウィン出身のキースでさえ知らない法律だ。普通、馴染みない内容なのは間違いないな。

「まあ・・・そうじゃろうなぁ。普通はあり得ない法律じゃ」

 エルフたちでも自覚有り、と。

「この法律が制定されたのが先代女王の時代での」

 この世界のエルフは長命種じゃない。

 ってことはそんな昔の話じゃないな、これは・・・

「以前は貴族や商家の有力者たちが名乗りを上げ、選挙にて国王を選んでおったのじゃが、先代の女王が最も美しい者が王になるという法律を制定しての」

 選挙制であることは変更されてないが、この法律の意味は・・・?

「当時の女王も相当美しいお方での。自身の美貌に自信を持っておった。そこで自らの優位を維持するために何か手を打たなければならぬと考えたのがこの法律だったわけじゃ」

「いや、まあ・・・言わんとすることは分かるんですが」

 如何せん、内容が酷すぎる。

 国を守るためじゃなく、自分自身を守るための法律・・・そんなんアリか?

「当時の女王も相当わがままなお方であったようでの・・・胃にそぐわぬ者は即座に首を切っておった。そうして意見を言えなくし続けて自身を守ったのよ」

 そりゃあ、そうしていきゃあ文句を垂れるヤツは出てこないわなぁ。

 いくらダメだとしても、食い扶持が無くなるのは困るわけだし。だったら多少文句があっても黙って従っておこうって思うのも仕方がない。

 それはそれとしても酷いとは思うが・・・

「そうしていくうちに誤算が起きた」

「・・・マーガレットが現れたってわけですか」

 ガーベラさんは小さく頷いて、

「自らの美貌に自信を持っておったが故に成立させた法律じゃったが、マーガレットが現れ、選挙に選ばれた。美しき者がというルール上、若く美しいマーガレットが選ばれても仕方がなかった」

 若いってのもあるこたあるが、全国民からの支持を得られるくらい、マーガレットの美貌は抜きん出ていたってことか・・・


 まあ、言いたいことは分からんでもない。

 確かにマーガレットも美人は美人だと思う。

 地球にいたらの場合だが、行くところまで行けるだろうな。モデルとか女優とか・・・いや、それこそどこかの国の妃にでも選ばれるかもしれない。


「そうしてマーガレットが選ばれて今に至るわけじゃ」

 それはそれで納得できる話ではある。

 それでも問題はそこじゃなく、

「いくら美しくても政治手腕が無きゃどうしようもないと思うんですが」

 美しくても、国をまとめる力が無きゃ意味がない。

 こう言っちゃあ何だが、美貌では大したことはできない。自分や身の回りを満足させられても、起こり得るトラブルを解決する力が無きゃ意味がない。

「一時、荒れてましたよね?」

「厳密に言うと今も荒れておるがの」

「やっぱりそうなんですか?」

 リオーネは地元だし、それなりに思い当たる節はあるようだな。

「リオーネはその荒れる原因は何だと思うんだ?」

「私が知っているのは、接近戦を得意としているジョブの人を国外から呼び寄せて、高い報酬を支払って防衛についてもらってることだけど」

「・・・ほう」


 つまり、傭兵か?


「それが問題なのか?」

 それならまあ、別に珍しい話じゃない。

 実際、俺たちも同じようなもんだろう。協会を嚙ましているか国を噛ましているかの差かな?

 日本はそういう話を聞かないが、中には外国の傭兵部隊に所属する人もいるし、地球側でもそう聞かない話じゃない。

 戦闘機一機買うより、ベテラン兵士を雇ってくるほうが安上がり・・・とも言うしな。

「問題はそこじゃない。問題なのはその報酬じゃ」

「報酬ですか・・・」

「国外から防衛についてくれている人員には相当な額の報酬が支払われておっての。それ自体に問題があるわけではないが、正式に採用されておる人員よりも多く支払われておるところが問題なんじゃ」

「・・・詳しく分かっていないもんで的外れなことを言うかもしれませんが、何か問題が?」


 わざわざ他国から雇い入れるくらいだ。それなりの額がなきゃ動かんだろう。

 増してや遠距離攻撃を仕掛けるんじゃなく、接近して攻撃するわけだし、相応に危険度は高い。その分、割り増しを取られても文句は言えない。

 危険を冒してまで危険に飛び込んでいく連中だ。中には大義を持って動く人もいるだろうが、目先のお金に飛びつく人もいるはず。


「詳しい支払額を教えてやろう」

 そこまで把握しておられるか。まあ、ナンバー2だし、その辺りは当たり前かもしれないが。

「今の報酬額は月に二百万フォドル」

「二百万!?」

 おいおい、有名企業のサラリーでもそうはならんぞ・・・

 どこかの技術開発系ならあり得る額かもしれんが・・・

「そこから歩合で追加が入る。小型だろうが中型だろうが、協会の評価に参考に計算した額が支払われる」

「・・・結構稼げるな」

 基本給と歩合制のセットか。やろうと思えば三百万も五百万も、それどころか大台まで狙えそうだな。

 危険を冒すことを考えれば、それくらいしてくれるとありがたい気もするが。

「何もせずに二百万をもらう輩が大半だとすれば?」

「・・・はい?」

「雇い入れた連中の大半が職務を全うせず、現場に行けば実績も上げずに戻って来るだけだとすればどうじゃろうな?」

「・・・ええ?」


 何?仕事してない奴がいるの?


「全ての者がそうではない。そこは分かっておるが、ワシの部隊の者たちから戦列に加わらずに遠巻きに見ておるだけの連中が多いことも報告は受けておる」

 そうなってくると話は変わってくるな・・・

「報酬は当然、税金から支払われる。傭兵たちの報酬だけじゃなく、正規軍や内勤の者たちの報酬も当然そこからじゃが、大して働きもせん連中の報酬で財政を圧迫しておるわけじゃ」

「最近、税金上げてなかったか・・・?それももしかして」

「また雇い入れたからじゃな」

「マジかよ・・・」


 こりゃあ思いの外深刻だな・・・


 国防のために近接専門を雇いたい。

 雇えば報酬を払う必要があるから税金が必要になる。

 税金を払う国民の負担も増える。

 負担が増えれば消費も減る。

 得られる報酬がなければ傭兵たちは出て行くから、防衛力は落ちる。

 落ちた防衛力をまた人員増加で補うから税金を上げて財源を確保する。


 見事な負のスパイラル。

 遠からず近からず、同じようなことが起こっているような気もするが・・・


「他にも色々問題はあるが、国民を圧迫しておるのはこの件で間違いはない。この状況を打破するためには、まずマーガレットを引きずり降ろさねばならぬ」

 税金を上げる判断をするのはやっぱり女王か。

 止める大臣がいればいいが、下手に反抗すればクビが飛ぶ。それにビビッて動けんのがリアルなところらしい。

「今のところ、選挙に勝てそうな・・・いや、出られるのはワシくらいしかおらん」

「貴族や商家であれば出ることはできるんですよね?他に出ようとする人は?」

「皆、マーガレットのご機嫌取りで首が回らん」

 自分の立場のことで精いっぱいか・・・これがこの国の現実ってところか。

 まあ、どこも一緒みたいなもんかもしれないが・・・

「エルフ二人はともかく、この国の者でもないお主たちにこんなことを頼むのはどうかと思うが、ワシも国を守らねばならぬ身。どうか、協力してはもらえんか?」

 ガーベラさんは両手を膝について、深く頭を下げた。

「・・・キリさん」

「あなた」


 ・・・分かってるよ。

 こりゃあ本気だ。

 いくら報告は受けているとは言っても、見ず知らずの小僧に頭を下げるのはなかなかできることじゃない。


「・・・話は分かりましたが、ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」

「・・・すぐには頷けんか」

「まあ、ちょっとくらい考える時間があってもいいかと」

 思うところはあるし、ちょっと時間は欲しいってのも事実。

 シンプルにめんどくせぇと思うのも・・・まあ、否定はしない。

「分かった。では、こうしよう」

 ガーベラは膝を軽く叩いて、

「しばらくの宿はワシが手配しよう。お主らはしばらく街を見てこの国を体感すれば良い」

 目で見て耳で聞いて感じろ、か。

 そうなってくるとますます断り切れなくなるな・・・さっきバッサリ断ったらよかったか?

 まあ、この国を知るいい機会と思おう。最終的に断っても、この人なら恨みはしないだろう。元々、余所者に頼んでいるってことは自分でも言ってたことだし。

「ベネットの子は実家に帰るほうが良いか?」

「手間も経費も掛けますので、私は実家で構いません」

 リオーネだけは別行動らしい。

 止める必要性を感じないし、実家があるならそれが一番いいだろう。

「では、手配してくる。しばし待っておれ」

 ガーベラさんはタオルケットを適当に払って立ち上がり、客間から出て行った。

 さっきのメイドさんに手配してもらうんだろうか?


「・・・おいキリヤ。お前はどう思う?」

 明らかに機嫌は良くないジェシカに問われても、

「どう・・・だろうなぁ」


 としか答えようがないのが現実だわ・・・

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