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「その・・・何でそうなるんです?」


 大型モンスターの討伐・・・?


 そういうのは国の守備隊なり機動隊がやることだ。

 仮に俺がこの国の住人で、かつそういった戦闘専門の仕事をしているなら話は分からんでもない。

 だが、俺たちはただ立ち寄っただけの一般人。わざわざ危険を冒してまですることじゃあないんだが。


 ましてや、依頼してくる人が女王からガーベラさんに変わっただけ。

 言い方がマイルドになっただけで、内容は全く同じときた。


「まあ、言いたいことは分かっておるよ。言うておることはマーガレットと同じことじゃからの」

「ですよねぇ」

「じゃが、待遇の差はあると思うて欲しい」

 待遇の差、か・・・

「包み隠さずに言うが、マーガレットは単純に戦列に加えて放り込むだけじゃ。そりゃあ報酬の一つや二つくらいは出すじゃろうが、怪我をしたとて保証もないじゃろう」

 それで了承するやつがいるのか?

 他にも何らかの報酬はあるとしても、あまり旨味はない。

 そもそも、あの態度で頼まれたとしても気分は良くない。寧ろ反発するほうが多いような気もするが。

「お主らはあやつの管理下ではなく、ワシが直々に依頼をした者たちとして、ワシの配下たちの部隊に協力してもらおうと思っておる」

「ガーベラさんの配下?」

「おう。ワシも部隊をいくつか持っておっての」

 国直属のってことじゃなく、自分の配下・・・?

 ってことは私兵みたいなものか?

「ワシの部隊の大半はワシを支持してくれておる者たちと、ハイデルベルグ家の関係者じゃ。王国直轄の者たちとは少し違っておる」

 一応、王国直轄ではあるらしいが、実態は私兵ってところか。

 その辺りはどうでもいいとして、

「俺たちがガーベラさんの協力者になるってことで?」

「そういうことになるの。待遇はもちろん考慮するし、部隊の責任者にはきっちり話を通しておく」

「うーん・・・」

「何か気になる点があるなら、構わず言ってくれ」


 待遇は考慮される。

 マーガレット側がどうなのか分からないから比較のしようがないにしても、人柄は間違いなくガーベラさんのほうがいいし、その点は問題ない気はする。

 考慮するって言った手前、報酬が低いってこともないか。

 一応、この国の二番手に偉い人なわけだから、相応の権力者。そんな人がひと月分の生活費程度しか払わないのなら、それはそれで問題になるだろうし。


 それはそれとして、

「そもそもの話なんですが」

「おう?」

「何で俺たちに依頼するんです?」

 それが一番引っ掛かっている点だ。

「あいつからどういう話を報告されているかは知りませんが、俺たちはそんなに言うほど強いわけじゃあないです」

 今の実力ならちょっとした中型モンスターくらいなら、特殊な例を除くとして、苦戦しなくても倒せるとは思う。

 実際、キラーラビットとかデントオーガは疲弊することなく倒せたし、装備が整ってきた一面もあるが、俺たち自身のレベルも上がっている証拠のはず。

 だが、大型モンスターになれば話は別だ。

 ヴェロニカがいないとガノダウラスに食われていただろうし、あれは出来過ぎた例になる。あんな成果はノーカンが妥当。

 偉いさんが評価するくらいの実力かってなったら、そういうわけじゃない。これが現実だ。

「次も上手くいくとは限りませんし、俺たちが入ることで劇的に変わるかと言われればそうじゃないでしょう」

 大体の動きは把握したし、ガノダウラスをもう一頭狩るって話になった時は上手く動くことはできるだろうが、そもそも火力と体力の差もあるし、上手くいくとは限らない。相応に対策を立てればもっと楽に倒せるようにはなるだろうが、根本的な実力差はそんなに簡単に埋まるもんじゃない。

 上手く出来過ぎた内容を鵜呑みのするほど、俺はあの結果に浮かれちゃいない。

「うーむ。そこまで低く見積もっておるのもどうかと思うが」

 ガーベラさんは少し考えたようだったが、

「勘違いしないでほしいが、お主らだけで大型モンスターに当てることはない」

「あなた、せっかくなのでお茶をいただきましょう。少し冷静に」

 マーベルさんがお茶を淹れてくれた。濃い赤のお茶だった。

 そんなつもりはなかったが、アツくなってたか・・・?

「ワシの部隊に協力者として入ってもらい、事に当たってもらう。前提として最前線に出る必要性はないし、無理強いはせん」

 無理強いはしないか・・・

「であれば、情報提供ってだけでいいんじゃないですか?」

 ちょっと喉が渇いたから、お茶を一口飲んでみる。

 深い味わいでうまいお茶だ。紅茶のような、別のお茶のような。これはこれでうまい味。

「情報提供であっても嬉しい。それは認めよう。じゃが、相対するのはガノダウラスだけではない」


 大型モンスターって縛りだった。

 ってことは確かにガノダウラス以外にも当てはまる。

 いよいよハードルが高くなるんだが・・・


「ワシがお主らを・・・いや、アイシャを含めるが」

「ええ。え?ええ?」

 ここで何故アイシャが出てくる・・・?

「お主らを評価しておるのは、単純な実力や技術だけではない。その目の前の状況に応じる力じゃ」


 ってことはつまり。応用力ってことだな。


「物事にはある程度の道筋はあろう。教科書どおりというやつじゃ」

 算数だけじゃなく、工作なんかもそうだし、キャンプにも通じる。

 基本ができていなければ始めることすらできない。

「じゃが、基本だけではどうしようもないことも事実。事、この話にも共通しておろう」

 モンスター討伐も教科書どおりで進められる。ただ、ずっとそれが通用するわけじゃあない。

 相手は野生だ。どういう形であってもこっちを潰せればそれでいいし、餌が手元に残れば最高ってところだ。


 ただ、人間はそうじゃない。

 モンスターを倒すよりも前に自分の安全を確保しないといけない。倒せても死んでしまっては意味がない。

 時と場合によっちゃあ、狩られる側に回ってしまうこともある。そうなったら焦りも出てくるし、判断も鈍らせる。


 そういう時に必要なのは応用力。臨機応変ってことだ。

 もっとも、判断を鈍らせることに関しちゃ冷静さとかが必要だとは思うが・・・


「その応用力の高さをお主は持っておる、という判断をアイシャはしておってな」

「・・・あいつがですか」

 そりゃあまあ、流れ的にはそうなるだろう。

 戦闘に一切関与せず、観察に徹していたわけだし、所感も含めて一部始終を報告するだろう。

 意外なのはそれなりに評価していることだが・・・

「少人数でガノダウラスと対峙・・・普通にやれば全滅、良くて数名が死亡するクラスの大型モンスターを相手に、お主らは生き残った上に討伐できた。これはほとんど事例のないことじゃよ」

 事例があるかどうかは別として、関わった当人としちゃあそりゃそうだろうってのが感想なんだよなぁ。

 あんなもん、そんな簡単に倒せるわけねぇんだから。

「キリヤの奥方も商人をされている割には破格の魔法の威力であったようじゃが」

「ええ・・・」

 俺とマーベルさんの関係性も把握しているか・・・まあ、当然か。

 いや、当然かじゃないわ。ウソ設定なのに。

「ガノダウラスを翻弄しつつ攻撃を仕掛け、最後には倒す。状況に合わせて動けなくては五人での討伐は不可能じゃ」

「わたしもいたけど?」

 一般的に赤ん坊は数に入らないんだよなぁ・・・

 でも不思議なことに、赤ん坊が一番火力出すんだよなぁ、このパーティだと。

「お主らに協力をしてもらえれば、うちとしては助かる。ワシ個人もそうじゃが、国としてもの」

「ちょっとお伺いしたいんですが」

 ふと気になることがある。

「国として助かるってのは分かるんですが、ガーベラさんが助かるっていう意味は?」

 大型モンスターが大暴れすれば被害が大きい。それを抑制できるなら、被害の救済に当てる人材や税金を補填しなくてもいいわけだし、国が助かるのは分かる。

 一方でガーベラさんが助かるってのは・・・?

「・・・ふむ。ワシが余計なことを言ってしまったのもあるが、お主はいつか何かを思うかもしれんの」

 ・・・ということは?

「ここまで話しておいて隠し事はやめじゃ」

「ガーベラさん個人の都合もある、と?」

「うむ」

 小さく頷いたガーベラさんは、

「今のところワシ個人の都合・・・ということになるが、時期に始まる選挙のための実績を積みたいんじゃよ」


 ・・・選挙?

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