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「自己紹介をしておこう。ワシはガーベラ。ガーベラ・ハイデルベルクじゃ」
ソファに座っているガーベラは、軽快に自己紹介してくれた。
「さっきまでのワシは表向きの性格、と言ったところでの。本来のワシはこれじゃ」
猫被ってたってことか・・・
「ワシの両親は幼い頃に亡くしてしもうて、爺と婆に育てられての。口調がこうなったのはその影響じゃ。丁寧な言葉を喋れんわけではないが、どうも堅苦しくてしんどくての。この口調で話すが、それは許してほしい」
「まあ、それは構いませんが」
地元の言葉が馴染んで使うようになる。そういうことだろう。
何も不思議なことじゃない。日本でもよくあることだ。
「ワシはここの政務官をやっておってな。実質、二番手に偉い人間ということになる」
本当に偉いさんだった・・・
「まあ、かと言って畏まらなくても良いぞ?フランクに接してくれれば良い」
そういうわけにはいかんでしょう・・・
ペーペーの政治家ならともかく、ナンバー2となりゃあ話は別だろ。
「俺たちは」
「お主らのことは知っておるよ」
自己紹介しようとしたが、
「お主はタカミ キリヤじゃろ?」
ガーベラさんはニコニコしていて、
「ジョブは探検家、鞭とナイフを扱う。初級ではあるが魔法の扱いもでき、野営の知識が豊富で、パーティの中心人物。そうじゃろ?」
「・・・大体合ってますけど、最後のはちょっと外してもらえると」
「恥ずかしいのか?ワシはいいと思うけどの」
俺はそんな自己肯定感は高くない。
自分がパーティの中心だなんて思ったことはないし、これから先もない。
「抱えておる子供はフェリーチェ。妻のマーベル。お主は商人じゃったな?」
「はい、おっしゃるとおりです」
「剣士のキース。ボルドウィン出身で、防御が得意。リオーネ・ベネットは白魔術師でベネット家出身。ジェシカは回復魔法を得意としながら格闘家として活動中・・・相違ないかの?」
かなり的確に言い当てられている。
ここまで来ると否定しづらいところもあるが、
「・・・アイシャから聞いた情報ですか?」
「おう、そうじゃよ」
謁見の間で、何担当かは分からないが、大臣の一人がそんなことを言っていた。
そこから気になっていた。
俺やマーベルさんの情報については大した違和感はなかったんだが、ジェシカのところだけ引っ掛かる部分があった。
回復魔法を得意としながら格闘家として活動中・・・これは単純に見ただけじゃなく、ジェシカ本人のことを知っていないと出ない表現だろうと思った。
あいつがどういう内容を報告しているのか。その内容次第じゃあ、ちょっと呼び出して話をしないといけなくなるだろう。
「あやつは調査隊の一員でな。とある任務に就いており、お主らと接触したということになるの」
「その辺りはざっくり聞いています。あいつはどこです?」
「アイシャはおらん」
「・・・いない?」
「辞めたよ」
辞めた・・・?
調査隊を辞めたってのか?
「正確に言えばクビになった、ということになるのじゃが」
自分から辞めるか他人が辞めさせるかの違いだが、どっちにしてもここにはいないのは間違いない。
「どうしてです?」
問題はその経緯なわけだが、
「お主らを女王の前に連れて来ることができなかったからじゃよ」
「・・・なんでぇ???」
そこで何で俺たちが関係してくるんだ?
「詳しい経緯を説明せんとならんが」
ふう、とガーベラさんは小さくため息を漏らして、
「女王は調査隊に命令を出しておってな。大型モンスターを討伐できる実力者を集めて来い、という内容じゃ」
「大型モンスターを討伐できる実力者・・・ですか?」
「うむ。今も昔も、シルフィは大型モンスターの討伐に悩まされておっての」
そりゃあ、どこもそうだろう。
俺たちは戦ったからガノダウラスっていう内容を知っちゃあいるが、あんなバケモノの討伐を一人や二人でどうこうできるわけがない。
だから人員を割いて挑むわけなんだが、それでも返り討ちに遭うってのが現実・・・
あのテのモンスターの討伐は課題の一つだろうし、悩みの一つでもあるはずだ。
その対策として強いヤツを連れて来いってのは、まあ間違ってはない。
強いヤツがいれば、そいつに倒してもらえれば済む。非常に簡単な話ではある。
ただ、そんなやつがいれば・・・っていう話が始まる。
そりゃあまあ、いないこともない。うちにはヴェロニカがいる。
いるこたいるんだが、ヴェロニカもこの世界の中では特異な例の一つのはず。あんなのがその辺をうろうろ歩いているってのはなかなかない・・・いや、そうであってほしくないっていう希望もあるんだが。
「中型モンスターくらいだとそれなりに倒せる人物はおるんじゃが、大型となると話が変わっての」
「そうそういないってわけですか」
「うむ」
まあ、そりゃあそうだわな。
ヴェロニカは自由にドンパチできるような状態じゃないし、他に例を挙げるなら・・・あの黒魔術師のジジイか。
あれでも十分に通用する。
フレアバレットの威力もそうだが、例の沼ワープも使える。使い様によっちゃあ、モンスターをハメるだけハメて、途中でゲートを閉じて真っ二つってのもできるかもしれない。
浮遊も使えるし、頭がおかしい以外はそれなりに使えるようには見える。
あれが味方なら結構旨味はあったろうが、残念ながらそういうわけでもない。
「大型モンスターが大暴れすると被害が大きい。少しでも被害を小さくするために戦うわけじゃが、我が国には致命的な弱点がある」
「接近戦が不得意、ですね?」
「うむ。ベネットの子はよぅ分かっておるな」
接近戦が不得意、か・・・
「我らエルフ族は身軽で回復力が高いのが特徴の種族じゃ。中には例外はおるが、大体はそういった傾向がある。ワシも例外ではない」
まあ、ジェシカを見てきているから、その辺りは理解しているつもりだ。
回復力の高さはすごいものがあるし、それで本人だけじゃなく、俺たちも救われたこともある。
一方で身軽かどうかの件は当てはまらないような気がする。
こいつ、わざわざ受けに行くからなぁ。今の説明だと、敵の攻撃もひらりと避けられますって想像できるが、そういう感じでもない。
例外はあるって話も出たし、こいつが特殊だってことにしておくが・・・
「そういった反面、体が弱い。病気になりやすいとかそういうことではなく、肉体が強靭にできておらんが故、打たれ弱い」
「打たれ弱いから、接近して攻撃しに行って、反撃を受けたら致命傷になり得る・・・ってことですか」
「そういうことじゃ」
フィジカルが弱いってのは確かに問題だな。
普段の生活に支障はないにしても、モンスターと戦うって人間の場合は死活問題だ。
全部完璧に避けられるに越したことはないし、それができれば問題はないわけだが、残念だが人間がやることに完璧はない。時には足をすべらせたその隙に攻撃を受けることもあるだろう。
その一発が致命傷になるのなら、接近戦を避けるって判断になるのは道理。
「そうして避け続けた結果、この国の近接戦闘を主戦場とする者が激減しておる」
エルフ族が抱える悩みはそこか・・・
「大きかろうが小さかろうが、モンスターを相手にするためには近距離、遠距離を得意とする様々なジョブを必要とし、そして相応の数も必要となる。小さければそんなに必要ではないかもしれぬが、相手や野生の生物。こちらの道理は通じぬ。数と力でねじ伏せるしかないというわけじゃな」
言っていることはその通りではある。
レッドゴブリン程度ならどうとでもなる。大して戦闘経験がない俺でさえどうにかなるくらいだ。例に挙げるのも申し訳ないくらい弱い。
ただ、それがガノダウラスになると話は別。
人間よりもデカい体型と、それから繰り出される一撃必殺級のパワー。攻略するためには近接と遠距離の役割と、倒すのに十分な量の人材が必要だ。
「そうしたい、そうすべき。それは我々も理解しておるところじゃが、できん理由がある。それが先ほど話した体の弱さ。一度でも強烈な打撃を受ければ致命傷になる。それが我々の首を絞めておる」
「話の内容は分かりましたが、その話を前提として、俺たちは何をすればいいんです?」
「ふむ、回りくどいかの?」
いかん。機嫌を損ねたか?
あの女王と違って、そこまで余裕がないようには見えないんだけど・・・
「いえ、詳しいお話でしたので、ざっくりは分かったつもりです。それを考慮した上で、俺たちがガーベラさんのお宅にお邪魔する理由をお伺いしたいと思いまして」
今の俺たちが置かれている状況。それを早く知りたいわけだ。
「そうじゃな。大体の話はさせてもろうたし、本題に入ろう」
いよいよ本題か。
「もうすぐ戦力を集めて、大型モンスター討伐に向かう予定になっておる。お主らにはその戦列に加わって欲しい」
・・・なんでぇ???




