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色が薄めの長いストレートの金髪。
バチっと決めたメイクとネイル。
ド派手な真っ赤なドレス。
全身を飾る豪華な宝石類。
こいつはスゲェ。
典型的な姫キャラ。
結構使い回されてるだろって思うくらいのド定番デザインだ。
ただ、この女王もエルフなわけだが、美しさだけに関してはジェシカよりも上かもしれない。
エルフは全員美形揃いなわけだが、どういうわけか確かに綺麗なイメージが強い。
そりゃあジェシカは大して化粧もしてないし、外をうろうろしてる割にケアもしてないからダメージもそれなりにあるだろう。そういうところを除外したとしても、この女王のほうが綺麗な気がする。
女王だからって意識がある?
それとも大人だから?
もしくは派手な見た目でそう見える?
何にしても色んな意味ですごい。
「随分野暮ったい連中ね」
「・・・は?」
王座に座る女王はつまらなさそうにしていて、
「もっと美しい者はいないのかしら」
会って一分もしないうちに軽くけなしてくるだと・・・?
これが女王って・・・本気か?
「まあいいわ。で、この者たちは?」
なんっつぅ態度・・・
そりゃあ偉いのは間違いない。間違いないんだが、それはそれでどうなんだ・・・?
こういうのって第一印象が大事とかよく言うと思うが、ホントそう思う。いきなり高圧的な態度を取られると思うところがある。
「リンドバーグから報告のあった者たちです」
「・・・ああ、あの」
リンドバーグ?
どっかで聞いたことがある何かだな・・・?
「あんたたち、名前は?」
「この人の態度はすごいねぇ・・・」
ヴェロニカでも思うところがあるくらい、本当に態度が悪い。
「これだったらまだアングリーベアのほうがまだお利巧だよ」
熊と比べられて負けてるのか・・・それはそれで怖いな。色んな意味で。
「ほら。早く言いなさいよ。こっちはあんたたちと違って暇じゃないんだから」
「キリヤさん、ここは私が」
大したやりとりもしてないくせにイライラし始めている。
マーベルさんが小さく俺につぶやいて、
「ご拝謁賜り光栄です、女王陛下。私は行商を営むマーベル・ローランドと申します」
右手を胸元に当てつつ、軽く会釈。
これがこの界隈での上流階級相手の挨拶なのか?
「ローランド・・・?なんか聞いたことある」
「行商連合のローランド家のご息女では?」
「えー?そうだっけ?」
このリアクション、マジで分かってないな。
っていうか、大臣が分かってるのに女王が分かってないのもどうなの?
いや・・・庇うわけじゃないが、女王も忙しいだろうし、その面は仕方がないってのもあるか?
「行商連合ってことは商人の端くれであることは分かったけど、他のは?」
最早物扱いか?
「・・・タカミ キリヤです」
こんなしょうもない状況、さっさと終わらせるに限る!
やることさっさとやって、表に飛び出そうぜ!
うまい飯食って宿屋のふかふかベッドで寝ようぜ!
「珍しい名前ね」
「ジェシカ・テイラーっす」
「キース・コールマンです」
「リオーネ・ベネットと申します」
「ヴェロニカでーす。今はフェリーチェを名乗ってまーす」
内一名の名前は聞こえないだろうが・・・
「ベネットって西区の?」
「はい」
ここでもベネットさん宅は有名らしい。まあ、衛兵を顔パスできるくらいだし、これくらいは当然か?
いや、逆にすごいのかも?
国王クラスにまで名前が知れ渡ってるんだろ?寧ろすごいのか!
「なんだか妙なパーティね。こんなので本当にガノダウラスを倒したの?」
ガノダウラス・・・?
何でそんな名前が・・・
「・・・あ」
リンドバーグってアレだ、アイシャだ!!
あいつのファミリーネームがそれだったわ!!
そういえばあいつ、調査隊とかいう集団の一員なんだっけか?
あいつが上に報告して、それがここまで来てるってことだな、これの場合・・・!
「ふぅん・・・」
何だ、そのリアクション・・・?
「まあ、いいわ」
良くはない。良くはないわ、俺は。
「陛下、首都に入る際に我々に用事があると伺っているのですが、何故こちらに呼ばれることになったのでしょうか?」
話が進まないから、マーベルさんが話を切り出した。
「そうだった」
・・・このリアクション、忘れてやがったな。
自分の都合でこんなところまでハイキングさせやがったくせして・・・
「単刀直入に言うと、あんたたちにガノダウラスを含めた大型モンスター討伐に出て欲しいのよね」
・・・なんでぇ???
「今ね、シルフィで大型モンスターの数が増えているのよ。ちょっとした大きさのモンスターなら守備隊で対処することもできるけど、ガノダウラスクラスになると難しくなるのよね」
そりゃあそうだろ・・・っていうか、あれに関しちゃ誰だって難しいぞ。
あんなモン、四人でどうこうしようなんて無理な話で、本来ならもっと綿密な作戦と陣形、役割を決めて掛かるべきモンだ。仮に下準備をしっかりしたところで、相手も生きている以上、都合よくこっちの作戦にハマってくれるとは限らない。
「で、うちの部下があんたたちが討伐した様を見たっていうじゃない。だからやってもらおうというわけ」
「いやいやいやいや、チョトマテチョトマテ」
だからじゃねぇよ!
「何で俺たちがやることになるんです?」
まずはそこだ。そこから解決しないと話にならない。
「何でって、強いんでしょ?だったらそれでいいじゃない」
「いやいやいやいや」
「それにこの私の命令なんだから、喜ばしいことよ」
「・・・は?」
喜ばしい・・・?何が?
「この私の役に立てるんだからね」
あー・・・そういう感じかぁ。
この女王、”世界は私のために回ってるのよ~”っていう典型的なタイプだ。
そりゃあ、一定数いるこたいるだろう。この世界だって広いし、地球にだっているだろうし。
ただ、ここまで迷いなく言えるってのはすごい。
遠慮も何もない。目と笑みがそう言ってる。それくらいは分かる。
ここまで来るとたぶん地なんだろうなぁ・・・そういう風に育ってこないとああにはならんだろう。
「な?」
ジェシカが俺に寄ってボソッと話しかけてきて、
「アレだろ?」
「・・・まあ、な」
これの場合のアレってのは、面倒だってことだろうな。
「陛下、いくつかお伺いしたいのですが、よろしいですか?」
さすがに突拍子もない話だし、特に交渉もなく、条件や報酬の話もない。
マーベルさんも思うところがあったらしく、
「なぁに?」
「我々に討伐依頼ということになるのでしょうか?モンスター討伐も特定の個体なのか、一定期間の間に何頭などの条件があるのか、お聞かせ願えますか?」
俺が思っていることをマーベルさんも考えたらしい。
「依頼って言えばそうかもしれないけど、私のために働くんだから、雇ってあげてると言ってもいいわね」
「・・・期間に関しては?」
「脅威が去るまでよ」
「脅威が去るまで、ですか」
「シルフィもこう見えても大変なのよ。人はいつでも足りないんだから」
「・・・ふむ」
依頼っていう表現にしちゃいるが、半ば強制。
期間に関しても具体的な設定がない。
こいつ・・・俺たちをこき使う気満々じゃねぇか。
「なるほど、分かりました」
「そう。じゃあ、大臣たちに受持ちの指示をしてもらって―――」
「それでは契約はできませんね」
マーベルさんは毅然とした態度で、
「・・・は?」
女王の眉間にしわが寄る。
「なんですって?」
「ですから、お断りします」
怒りの震える女王を前にしても、マーベルさんは動じていない。
「我々と契約したいのであれば、相応の対価を払っていただかなくてはいけません」
「対価ですって?」
「我々はこの国の人間ではないただの行商集団。商売をしながら旅をして利益を得ている。我々は旅費を得ながら、全員分の賃金を得なくてはいけない。我々は商品を仕入れながら渡り歩くわけですから、一定の場所に留まることができない。それを一定期間留めるわけですから、その分の費用を頂かなくてはいけません」
おお・・・尤もな話だ。それっぽい。
「・・・費用を払えばそれでいいわけ?」
「それだけではありません。危険な討伐に向かうわけですから危険手当も発生しますし、討伐したモンスターの報酬は当然いただきます」
この辺りはいつも通りか。安心感あるな。俺も毒されてるわ。
「・・・それも加えればいいわけ?」
「まだです」
強気だなぁ!
結構踏み込んだぞ!?
「そちらの指揮下には入らず、こちらの判断で動き、期間についてもこちらの判断で終了とさせていただきます。それが飲めるのであれば、交渉に応じましょう」
要はうちはうちの好き勝手させてもらうぜってことか・・・
それはそれでありがたいし、俺にとっても都合はいいが・・・
「ふざけてるの?」
女王が王座の肘置きを右手で叩きつけ、
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ!!」
マーベルさんを指差す。
「一介の商人のくせして、私に盾突こうっていうの!?」
おお・・・お怒りだぁ。
すげぇ、こういう感じになるのか。
「ワクワクするねぇ!」
こいつ・・・ここしばらくワクワクすることがなかったから、この状況を楽しんでるな。
これは良くないな。後で少し諭しておくか。聞き入れてくれるかどうかは知らないが。
「盾突くというのは間違えていますね。あくまでも契約内容の話なのですが」
「ふざけないで!!」
女王は体を震わせて、
「この私にケンカを売って、ただで済むと思ってるの?近衛兵!!」
脇から武装した集団が出てきて、あっという間に囲まれた・・・
これはヤバいやつ。
だが、こっちには大砲がいる。吹っ飛ばすのは初めてじゃないし、どうとでも・・・
「あ」
「あ?」
「上手く魔力を引き出せないねぇ」
え・・・!?
魔力を引き出せないって、使えないってこと!?
それヤバくない!?
『この部屋にも魔法陣が仕掛けられているようだ』
マジかよ!?
『魔法封じであろう。こういった要人が集まる場所に仕掛けておく。常套手段である』
魔法陣のせいで上手く魔法を使うことができない。
俺たちも武器を取り上げられている。
戦うにしたって・・・
「お待ちください」
離れたところから女の人の声・・・?
「この件、わたくしにお任せください」