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「着いたぞ、降りろ」

「何でいちいち命令口調なんだよ」

「うるさいぞ!」


 シルフィ城に到着した。


 王城の門を潜ってもしばらく馬車に揺られた。体感上、十分くらい経ったか?

 どっちにしても、外から入り口と思われる場所まではそこそこ距離はある。幌を下ろすように言われたし、道中に見られたらマズい道とかがあるのか?

「ま・・・降りますか」

「ですねぇ」

 ヴェロニカを抱えて馬車を降りた。

 何があるにせよ、今は連中の言うことをそれなりに聞いておくほうがいいか。面倒になるらしいし。

「すごいな、ここ。王城ってこんな感じなのか?」

「私も初めて来るわよ」

「ベネットでも来たことないのかよ?」

「いくら何でも末端の駆け出しが呼ばれるわけないでしょ?」

 次々と降りてくる面々の感想もそんなもんか・・・

「いい商売相手になればいいんですが」

 ・・・こっちはこっちで相変わらずだな。

 この人の逞しさもどうにかならんか・・・いや、今は置いておこう。

「こっちだ。遅れずについて来い」

 騎獣から降りてきた衛兵が、大きい木でできている建造物に向かって歩いていく。


 道中、他の衛兵も合流してきた。

 俺たちを連れてきたヤツは城外、後追いで来た連中は城内に配属されてるみたいだな。どっちも王国直轄なのは間違いないんだろうが、部署の違いはあるのか?

 今のところ三人・・・一応、何かしらトラブルが起こった時はどうにかできる人数ではある。もちろん、起こす気はさらさらないんだが、離脱も想定しておかないとな・・・

「・・・ん?」

 踏破で周りの情報を得よう。そうすれば色んなことに対応しやすくなる。

 と思ってスキルを使おうとしたんだが、なんかぼやける。今までくっきり見えていたのに。

『少年、妨害が入っている』

 久しぶりだな、アポロ。

 最近、リグーンの一件以降、ご無沙汰だったと思うけども。

『我もそれなりに仕事があるのでな』

 それはご苦労なこった。

『それよりも、ここはスキルの妨害魔法が敷かれている』

 ・・・妨害魔法?

『下界のパスポートには表示されない内容のものだ。スキルで似たものにサボタージュというものがあるが、こういった場所に施されるのは大規模で情報漏洩しないようにするためのレベルの高いものである』

 しばらく歩くだけだし、ちょいと調べてみるか。


 スキル名:サボタージュ

 自身を中心として一定範囲の空間、地形情報を読み取れないようにする。

 効果はスキルレベルや当人の技量に応じて上がる。


 ・・・なるほど。確かに今の城の情報を読み取れないっていう状況に合ってるは合ってるな。

 これを使えば自分の回りの情報を読み取れなくするわけだから、野営している時に敵の踏破を無効化、もしくは弱体化できるってわけだな。

 使いどころが難しいスキルだが、使い様によっちゃあ妨害にも使えるし、自分の身の保全にも使える。ただ、逆手に取られる可能性もあるし、なかなか使いどころが難しい一面もあるか・・・

 それはそれとして、ここはサボタージュを広範囲、高レベル、かつ安定して展開できる何かがあるってことだな・・・

『ホークアイを使えば良い』

 あれは使えるのか?

『無論だ。神力は下界のあらゆるスキル、魔法陣を超越する』

 ・・・魔法陣?

 サボタージュは魔法陣で効果が発揮してるのか?

『そういうことだ。妨害したい範囲の中心に魔術師が施すことで効果を発揮する。発見し、消失、もしくは崩すことで効果を打ち消すことができる』

 なるほど。発信源を潰すことで効果を消失させられるのか。

『・・・サボタージュを消して何かをするのか?』

 いやっ、さすがにそこまでは・・・

 ただ、何かあった時の備えは準備しておかないとってだけだぞ。

『ふむ・・・』

 ・・・なんか含むな。

『気にするな。情報を手に入れておけ』

 ・・・何をお考えになられてるかは分かりませんが、そうさせていただきます。


「ここに入るぞ」

「はいはい」

 衛兵たちがとある大木の中に入って行った。

 俺たちも後を追いつつ、ホークアイを使う。


 今は大木の一本の中を歩いている。


 城自体は七本の大木で構成されている。

 今俺たちが歩いている大木を中心に、周りに六本の大木が六角形になるように生えている。外壁は大小様々の木を織り交ぜて構成、その内側に六本の大木、その中央に最大の大木っていう配置だ。

 各大木につり橋や梯子が掛けられていて、地上を走っていくか、橋や梯子を渡っていくかが基本的な移動手段になっていそうだ。

 建造物自体は木をくり抜いて、それぞれの部屋を構成している。基本的に木の原型を尊重しているが、構造的に弱いところ、都合が悪いところに白いレンガや赤い瓦なんかで壁と屋根を構成している。

 この手の建造物は色んなところでデザインされているはずだが、スキルを使って全体を把握しているとしても、なかなか圧巻だ。

 自然を利用した城塞・・・これはこれで素晴らしいかもしれない。


 大木が太すぎて全体把握に時間が掛かるが、かなり大勢の人間が動いているのは確認できる。

 ここもやっぱり大半がエルフだが、一部はヒト族が混じっている。

 軽装というより、制服とかそういうものだろう。そういう服を着用している人が大半か。施設の位置からして中央部なわけだし、内勤で表に出るようなことがない事務方だろう。

 中でもヒト族の場合、甲冑を身に着けている人も割といる。これは近衛兵みたいなもんなんだろうが、エルフ族にはそういう人があまりいないように見える。これは何か理由があるんだろう。


「・・・ふぅん」

 ざっくりと確認させてもらったが、逃げるのはなかなか難しそうだな。

 今は施設内の階段を使って上に向かっているんだが、人が活動するエリアは木の上層のほうに設定されている。ってことは、急いで脱出しようとなると、階段を駆け下りることになるわけだ。

 外に飛び出そうとしても、上層にいる以上、迂闊に外に飛び出せない。

 こういう時、ヴェロニカみたいに浮遊があればいいんだろうが、使うかどうか分からん・・・というか、基本的に無いことのために習得するのも割に合わない。

 一応、逃げ込むのに都合がいいルートとか部屋くらいは決めておいてもいいかもしれないが、逃げ出す前提で事が進むと思ってる段階で嫌だよなぁ。俺ってそういう性格だったっけ?


「ここだ」

 大きい扉の前に到着した。位置的に最上階から二階ほど下の層。

「はぁ・・・しんどっ」

 結構歩かされた。

 階段を上るに加えて、途中の廊下も結構な距離があった。体感、約三十分ほどか?

「おい・・・結構疲れたぞ」

「仕方がないだろう」

 体力時間が多いのか?衛兵連中も結構ピンピンしてる。慣れってのもあるんだろうが、初めてだと結構キツイぞ・・・

 最早、ちょっとしたハイキングみたいなもんだし・・・

 まあ、こんなことで文句を言っても仕方がない・・・いや、文句の一つくらい垂れさせてほしい。別に俺たちはここに用事なんてないし、あっちの都合で連れて来られてるだけなんだからな。

「この先に女王陛下がいらっしゃる。粗相のないようにな」

 いかにもな扉だ。マンガとかでもよくある、偉いさんがいる部屋の前って感じ。

「粗相するかどうかはそっち次第だけれどねぇ」

 余計なことすんなよ・・・ただでさえボルドウィンで面倒になったんだからな。

「では、武器を預からせてもらう」

「・・・は?」

「武器を出してもらう。冒険家の君はナイフも預かる」


 まあ、あるあるの展開だわなぁ。


 そりゃそうだよ。女王の前で剣振り回して怪我でもさせられたらたまったもんじゃない。

 こんなん、地球でだって常識だ。特例はあるだろうが、どこでだってこんなもんだ。

「俺は剣だけです」

「私も杖だけです」

 キースとリオーネは素直に預けた。

 二人はサブを持ってないし、メインを預けるだけでいい。

「私は武器を持っていませんので」

 マーベルさんは護身用のナイフくらいだって聞いたことはあるが、どこかに収納しているようでパッと見では見えない。

 何か検知するようなスキルがなきゃ分からんな。

「あたしも今はない」

 そういえばジェシカは手甲が壊れていた。

 久米の魔法を受けて大破してしまった。魔法を受けて腕がグチャグチャになってないだけ良かった。

「残りは君だ」

 衛兵が手を出してくる。

「・・・うーん」

 そりゃあ当然、俺も渡す必要があるわけだが、

「あんまり預けたくないけどなぁ・・・」


 これが正直な気持ちだったりする。


「・・・は?何を言ってる?」

 衛兵たちも何言ってるか分からないみたいな顔をしてる。そりゃまあ、そうなるわな。

「いや、そりゃあ使われたら困るのは分かるんだけど、嫌なもん嫌なんだよ」

「おいキリヤ、面倒になるから預けとけって・・・」

「俺はな、自分の愛用品は誰かに預けたくないタイプなんだよ」


 この場合、鞭とナイフなわけだが。

 この二つは俺の命を預ける相棒みたいなもの。相応に手も入れてるし、知らない誰かに触られたくもないし、預けるなんか絶対に嫌だ。

 こいつらに関しちゃ初めましてだし、信用なんてもんはない。

 どこかで余計なことをされても嫌だし、できるなら預けたくはない。

「もうちょっと融通利かせてくれよ。あんたらの都合で俺ら、こんなとこまでハイキングしてるんだぞ?」

 とりあえず交渉してみるが、

「ま、まあ・・・言いたいことは分かるが、こっちも仕事だからな・・・」

「宮仕えの辛いところだな」

 やっぱり預けないって選択はない・・・まだ話を聞いてくれるだけマシか。

 マジで嫌なんだけど仕方がないか・・・

「ほら」

 ベルトパッドを外してそれごと渡した。

「確かに」

「面倒を起こすなよ・・・!」

 ジェシカに肩パンされてしまった。あんまり痛くない。

「では、扉を開ける。陛下に失礼の無いように」

「分かってるよ」

 衛兵たちが扉を開けた。


「あら。今度はどんな面々なのかしら?」


 王座に座する女性が一人。


 あれがマーガレット・マールスか。

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