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首都の入り口にある検問でドッシュたちを預けた俺たちは、ドードによく似た騎獣に取り付けられた幌付き馬車に乗り換えた。
それに揺られて、どこかに連れて行かれている。
「どこに連れて行かれるんだろうねぇ?」
ホントそれ。
それが分かれば苦労はしない。
一応尋ねたが、連中は答えてくれなかった。
雰囲気からして警察署とかそういうところじゃあなさそうな感じはするが、良い気分じゃないのは確かで、妙なドキドキ感がある。これはどっちに転んでも嫌なことになりそうって時に感じてるソレに近い。
まあ、分からないことを考えても仕方がない。
今はできる範囲で動くことしかできないし。
試しに幌を捲って外を見てみた。
さすがにエルフの国っていうだけあって、見かける人の大半はエルフだ。
馬車から見える範囲だけでも、相当な数だ。ちらほらヒト族の姿も見えるけど、少数なのは間違いない。
やっぱりエルフの国なわけだし、人口の大半はエルフで占められているんだろう。
それに、やっぱり美形が多い。
ジェシカも大概そうだが、老若男女問わず美形ばかりだ。全員が某有名ブランドのモデルかなって思うくらい・・・いや、それを越えてるように思える。最早マンガの世界だ。
街並みもオシャレだ。
木造が基本のように見えるが、レンガとか石なんかを上手く組み合わせて家屋を作っている。
花なんかも植えられているし、噴水もある。今通っている通りも石畳が丁寧に敷き詰められているし、全体的にヨーロッパの街並みに近い雰囲気だ。エルフが大半の国だから余計にそう思うところもあるかもしれない。
こうしてパッと見られる内容だけで言うなら、ボルドウィンよりもシルフィのほうが俺の性には合ってる気がする。
俺は街のゴチャゴチャした感じより、ある程度自然があるほうが好みだからな。
それでも、暮らし始めたら色々見えてくるんだろうな。何かが制限されたり、しなくちゃいけないから不便だとか。
「ところで、さっきの話だけど」
幌で仕切られているだけだから大した防音効果はないが、騎獣の足音やら馬車の騒音でそうそう聞こえないだろうってことで、
「面倒になるってのはどういうこった?」
気になったことを尋ねてみる。
「・・・文字通りだよ」
ジェシカは何とも言えない表情をしていて、
「面倒になる可能性が色々あるんだよ、この国は」
「それが何でなのかって俺は尋ねてるんだけども」
言いたくないくらい面倒なことなのか・・・?
「まあ、ジェシカの気持ちは分からなくもないけどね」
リオーネも同じ感情か?
「この国は王政で、しばらく女王が就いているのよ。今の女王はマーガレット・マールス様」
「へぇ。ここは女王がトップなのか」
「キリヤくんのところは違うの?」
「俺の地元はそうじゃないけど、そういうところもある」
日本は政治家がメインだから、そういう意味でも欧州のほうが文化は近いのかもしれない。
「マールス様はとてもわがままで有名でね」
「・・・わがままってか」
女王でわがまま・・・なんかどっかで聞いた内容のような気がするが。
「マールス様の機嫌を損ねると、どんなことを言い出すか分からないんだと」
「・・・ほう」
機嫌を損ねると仕返しが酷いってわけか。
まあ、そういうのはどこの世界でもある話のような気がする。
地球の場合はそうそう無いイメージはあるんだが、女王であるかどうかなだけで、過激なことをやる大将はいるからなぁ・・・
全ての内情を知らないから何とも言えないところはあっても、良いイメージばっかの御大将ばっかじゃないってのは俺も分かるところ。
そのマーガレットって女王がどんだけ面倒なのか・・・こればっかりは実際に見て体感してみないと分からん。
「聞いた話だが、マールス様のドレスにスープを引っ掛けたヤツは即刻クビになったらしい」
「・・・ほう・・・」
「私も聞いた話だけど、眠いから会議で寝てしまって大臣に起こされたんだけど、腹が立ったからその人をクビにしたらしいわ」
「ほ・・・ほう」
もうちょい高レベルな話かと思ってたが、なんかレベルが低いな・・・
そりゃあ、言いたいこた分かるけど・・・って感じだな。
お気に入りのドレスだったんだろうが、それにスープを掛けられたら怒るのは分かる。俺も気に入った道具を壊されたらキレる。ただ、それでクビってのは無い。
リオーネの話は完全に逆ギレ。これは話にならん。
どっちにしてもヤバい内容であることは間違いない。間違いはないが、
「それって本当の話か?」
本当ならヤバいんだが、
「まあ・・・聞いた話だな」
「私も」
それが噂話だから判断ができない。
噂なんか尾ひれが付くもんだ。間に悪意が一つでも入れば事実が曲げられる。
一方で火のない所に煙は立たぬ・・・とも言う。
「リオーネって何かイイとこのお嬢様なのか?」
「なに?突然」
「入国料免除されてたし、それなりに有名じゃないとそれはできんだろ」
「まあ・・・隠してもいつかは分かるだろうし、言っておくわね」
こほん、とリオーネは小さく咳払いして、
「私はベネットっていう一族でね。ベネット家はこの国の魔術師関係者の中でそれなりに成果を出してるから、ちょっと有名なんだよね」
一国の中に魔術師がどれくらいいるかは分からんが、その中でも有名になるくらいだから、相当できるほうなんだろう。
俗に言うエリート家系ってやつだ。
そんな子が何でボルドウィンで冒険者稼業なんかやってんだか・・・
「お前、何でボルドウィンにいたんだよ」
ジェシカも思ったか。
「私も一人前の魔術師を目指して修行中だったのよ。ある程度遠くに行かないと、家のことで遠慮されちゃって、活動しづらくて」
「そんなことあんのか?引く手数多だろ。ベネットだって言えばよ」
「時と場合によるわよ。シルフィの中だとそれなりに通用するけど、ボルドウィンまで行けば知ってる人は知ってるくらいだから、ちゃんと修業ができるというか」
・・・中には出来るところを見せつけて名を売ろうってやつがいそうだな。もしくはかっこいいところとか、強いところを見せてやるぜ、とか?
たぶん、そういうのが割といたんだろうな。だからかなり離れていても自由に動けるボルドウィンを選んだんだ。
「そういうあなたはどうなのよ?」
「あたしは別にどうでもいいだろ」
ジェシカはイイとこの子じゃなさそう。なんか、風格がない。
「お前、今余計なこと考えたろ」
「いや、別に」
なんでこいつ、そういうことだけ勘付くんだ?やっぱテレパシー持ちか?
「この子はテレパシーなんて持ってないよ。単純に勘がいいだけ」
女の勘か?
そういうスキルは無いはずなのに、自然とそういう力があるのはズルい。
「まあ、そういう関係でね。入国料もバカにならないし、削れるところは削っておいたほうがいいでしょってことでベネットの名前を出したのよ」
「いい嫁さんになるよ、あなたは」
「あら、ありがとう」
「貰い手がいりゃあなぁ」
「うるさいわね!」
財布の管理がきっちりできるタイプかな。
「・・・財布を握られたら終わりな気がするのは俺だけか?」
「言うな」
まあ、管理されて自由に使えなくなる未来が見えるよな。
リオーネは割と話が分かるタイプだし、要るとか必要とか言えば買ってくれそうな気もするが、どっちかは一緒になったヤツだけしか分からん・・・
「おい、そろそろ着くぞ。幌を下ろせ」
「もうちょっといいだろ?一応客だぞ?俺たちは」
「・・・あとちょっとだからな」
複数の大木を利用して作られた建造物と外壁が見える。
外壁の構成の仕方は首都を囲うそれと一緒なんだが、建造物の造りは違う。
樹齢何年なんだって想像できないくらい太い木をくり抜いて、その中に人が住む家を作っている。しかもそれを複数。
防御能力もそうだが、長い歴史を感じさせる。
これがシルフィ王国の城、か・・・