わがまま女王様は好きですか? -振り回されるってこいうことらしいです-
ドッシュを飛ばして、先行していたマーベルさんたちと合流。そこからオアシスを渡り歩いて二日。
とうとうシルフィ王国首都が見えてきた。
「あれが首都か・・・」
「想像以上に大きいねぇ」
首都は大規模なものだろうが、シルフィのそれは少し質が違う。
植込みレベルから大木まで、大小様々な植物が植わっており、その中に人が作り上げた街があるようだ。
首都を囲うように組まれている防壁も、木を利用して作られている。自然に生えた大木を基本としているようで、その隙間を縫うように木を組み合わせていて、一種のアートのように見える。
自然の要塞。
そんな言葉がバチっとハマるような見た目になっている。
「こんなところに入るのか」
「緊張してる?」
「いやっ、そういうのは特にないんだけど」
新しい場所に踏み込むって、結構ドキドキするんだよなぁ。
基本的にワクワクしている。環境も風習も変わるし、ここはこういうものがあるって発見になる。特にシルフィはエルフの国だって話だし、ほぼヒト族しかいなかったボルドウィンとの違いはかなりあるだろう。それを見てみたい。
ただ、それは自分を苦しめる結果になることもある。例えばエルフの風習が自分に合わないとか。
日本の合わないところは何?と外国人に尋ねたら、”廊下とトイレが寒い”みたいな。
まあ、極端な内容じゃなきゃ俺はいけると思ってるんだが、そういう面も否定できない。そういうところもドキドキするところが俺にはあるってだけ。
「入って見て体験しないと分からないからな。とにかく行くだけだ」
「そうだね」
「門が見えてきましたよ」
ドッシュたちに揺られて更に進むと、大きな門が見えてきた。
「でかい扉があるな・・・」
木で構成している外壁も大概高いほうだが、扉も相応にでかくて大きい。
外壁の高さが十五メートル。扉が十メートル程度。扉も木を複雑に組んで構成されているし、有事の際に閉めれば、ちょっとしたモンスターなら通れないはずだ。
重量がある分、開閉に人員が相当必要になるとは思うが、ちょっとしたモンスターなら通れないだろうし、これはこれで良いセキュリティになっていると言えるかもしれない。
「とりあえず入るか。宿も手配しないといけないし」
「そうですね。行きましょう」
門の真下に検問がある。一応、入国審査みたいなのはやってるみたいだな。
特に何をやったわけでもないし、特に問題はないと思うけど。
「そこのパーティ、止まれ」
早速検問に止められた。
門番が槍を持って道を塞いでくる。
「さすがに突破はしないかぁ」
「当たり前だろ」
これ以上問題を起こしてどうすんだよ・・・
ただでさえ面倒事に巻き込まれてるし、リグーン村でのことも嫌な終わり方だったし、少しはハッピーな展開が欲しいもんだぞ。
「入国の目的は何だ?」
ここでの検問は質問スタイルなのか・・・
こういう時の検問はパスポートなり免許証なり、そういう身分証明書を見せて成立するもんだと思うが、世界とか国が変わるとそういうのも変わるもんらしい。
まあ、こっちのパスポートは身分証明書っていうより、どっちかっていうと自己管理ツールとしての意味合いが強いし、アレを見せたところで身分が証明できるわけじゃない。
見たところで何が分かるわけでもないなら、質問するくらいしか確認することはないか。
「商売です。このパーティで旅をしながら商売してるんですよ」
とりあえず、適当な理由を言っておく。
実際、マーベルさんは商売をしてるしな。
「剣士と魔術師と・・・なかなか揃ってるパーティだな」
「まあ、それなりにはね」
パッと見ですぐ分かる剣士と格闘家と魔術師は主力の戦闘職。揃っていれば整って見える。
俺がどう見えるかが謎なところはあるが、少数の承認を守るパーティとしてはそれなりに見えるだろう。
「危険物も持っていなさそうだな」
一応、その辺りも気にはしてるんだな。
気にはしていても、荷物をひっくり返して確認することはしてこない。パッと見でヤバい物がないかどうかくらいの確認ってところか。
「よし、特にないな」
そりゃそうだろうよ。
マーベルさんやジェシカたちはともかく、俺なんてザック一つとベルトパッドくらいだし、そんな危険物なんて持てないし。
地球じゃあ武器のことを危険物扱いするから、剣どころかナイフもアウトだ。だが、こっちの世界はモンスターが当たり前にいる。その対策として武器があって、それが携帯必須みたいなところもあるし、この辺も世界観の違いか。
「通行料を払ってもらおう」
「え・・・?通行料?」
「当たり前だろう」
そんなモン払わなきゃいけないのかよ?
まあ、ボルドウィンに無かっただけで、他の国じゃあ当たり前のことかもしれないし、この辺りは仕方がないか・・・
「ちょっと待ってください」
ドードから降りたリオーネが、
「私、地元です」
「・・・そうなのか?」
そういえば、リオーネは首都に実家があるとか言ってたっけ?
「西区のベネットって言えば分かります?」
「西区の・・・ああ、あの有名な」
「私、そこの家の者です」
西区・・・?東西南北でエリア分けでもしてるのか?それともざっくり東と西で二分割?
ってか、今の会話だと結構イイとこのお嬢さんって感じに聞こえるんだけど・・・もしかして俺だけそう聞こえる?
「パスポートです」
パスポートを見せると、門番が頷いて、
「確かに。失礼しました」
明らかに態度が違う・・・やっぱイイとこのお嬢さんなのか?
今からでもリオーネさんって言っといたほうがいいかな?
「では、お通りください」
「ちょっと待て!」
奥から別の男が駆けてきた。
同じような甲冑を身に着けているし、門番とか衛兵とか、そういう類だろう。
「ん?んん?」
それはそれとして、何だ急に・・・?
もう結構腹いっぱいなんだけど・・・
「上から連絡が来てる。探検家の男性と商人の女性、赤子が一人」
・・・上から連絡?
結構ピンポイントな指定が入ってるな・・・
「剣士のヒト族男性、白魔術師のヒト族女性、格闘家のエルフ女性の合計五人なんだが」
・・・ホント、ピンポイントに指定されてるな。
まるで俺たちみたいじゃないか。
「赤子は除けた計五名を城に連行するように命令が出ている」
「わたしはまた除け者だねぇ」
いや、今はそれどころじゃねぇ。除け者なのはいつものことだしな?
それより気になることを言った。
連行する・・・だって?
「・・・俺たちが何かしたかい?」
特に騒ぎを起こしたことはないはず。
「何もやってないってことはないかなぁ」
・・・まあ、確かに。
ボルドウィンでアパートを爆破したり、謎の二人組の襲撃を受けてやり返したり、頭のおかしい連中と揉めて狩猟バトルしたり、いかれた老人の襲撃を受けたり・・・
いや、それはそれとして、巻き込まれたことはあるし、それが尾を引いている可能性はあるとしても、衛兵に引っ張られるようなことはないはずだが・・・
「ああ、いや、君らが特に何かしたわけではない。悪く捉えないでくれ」
衛兵が片手を軽く振って、
「上が君らに会いたいらしくてね」
「・・・俺たちに?」
どういう展開だ?これは・・・
上ってのは所謂ところのこいつらの上司か、もしくは関連する役職者が妥当なところだろうが、仮に衛兵の上ってなると警備隊とか守備隊とか、こういう世界観だから騎士団とか?
どっちにしても、ここに知り合いなんていないし、そういう偉いさんに接触するキッカケなんて無いと思うんだが・・・
「まあ、悪いようにはならない・・・と思うから、俺たちに付いてきてきてくれないか?」
「おい、不安が残るような感じがするんだけど、マジで大丈夫?」
「・・・まあ、余計なことさえしなければ・・・」
「余計なことって何だよ」
「というより、素直に来てくれないと、本当に悪い意味で連行することになるから、来てくれるとこっちとしても助かるんだが」
拒否権はない・・・ってやつだな、こりゃ・・・
「おい、キリヤ」
ジェシカが俺の肩を叩いてきて、
「どうした?」
「ここは素直に従っとけ。面倒になるぞ」
「・・・何が起こるか分かっててそう言ってるんだな?」
「たぶんこうなる・・・ってことくらいかね」
衛兵たちに聞こえないようにしているくらいだ。それなりに実績があるってことは間違いなさそうだ。
「特に今は面倒になるだろうしな」
「今は・・・?」
今じゃなきゃ問題なかった可能性もある・・・?
「とにかく、従っとけ。妙なことしなきゃいいんだ」
「・・・分かった」
そういえば、ジェシカもここの出身だったな。首都じゃあなかったはずだけど。
現地のことは地元民に聞くのが一番手っ取り早い。
「どこに行けばいいんだ?」
とりあえず、連中に従っておくことにする。
シルフィ王国がどういうところなのかを知るチャンスでもある。できる限り見聞きして、雲行きが怪しくなれば適当な理由をつけて離脱すればいい。
「付いて来てくれ。騎獣はこちらで預かる」
「丁重に扱えよ。ボルドウィンの店でレンタルした騎獣なんだ。下手に扱ってダメになったらあんたらに責任取ってもらうからな」
「分かってる。さあ、行こう」
マジでどこに誘われるんだ・・・?
こういう展開って、マジで良いことにならないような気がするのは俺だけか・・・?