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30-5

「思いの外早く着いたな・・・」


 次の日。

 俺とヴェロニカはドッシュを飛ばしてリグーン村を目指した。


 朝一、ヴェロニカが強烈な思念を感じ取ったと教えてくれた。

 どうやら久米の感情だったらしいが、夜も深かったこと、ヴェロニカ自身も無理ができなかったこともあって、相談が遅れたらしい。


 仮に何かあったとしても、戻ったところで何ができるわけでもないし、事が起こった後なわけだからどうすることもできない。

 しかも相手は久米と真田・・・久米とは最終的にそれなりに話ができたとしても、元々は敵だった相手。

 どうなったところでどうでもいい話ではある。


 だが、ちょっとは話ができて、そう悪い相手じゃないことも分かった。

 それに、わざわざサヨナラと言うくらいだ。相当なトラブルがあったに違いない。


 マーベルさんたちを先行させて、俺とヴェロニカだけで引き返すことになって、昼前に戻ることができた。

 ドードなら難しいところだが、そこはさすがに走力が勝るドッシュ。休憩することなく走ってくれた。


「・・・なんか臭うな」

 村に近付くにつれて臭ってくる異臭。

 何となく知ってる匂いも混じってるな。

 この臭いは物が焼ける匂いのはずだが・・・

「村も何だか騒がしいねぇ」

 村の雰囲気もおかしいらしい。

「おや・・・戻られたんですか」

 門に突入してすぐ、村長に遭遇した。

 ドッシュを止めて、

「気になることがありましてね」

「ほう・・・気になることとは?」

「あの二人はどうなりました?」

 尋ねると、村長は顔をしかめた。

「・・・あの二人ですか」

「・・・そういえば」

 協会の辺りに人だかりが・・・

「あの二人はおりません」

「いない・・・?」

「失踪しましてな・・・」


 失踪・・・?


 あれ?檻から出したのか?それで逃げた?


 いや、それはおかしい。

 確か受付嬢が支部長が戻ってから処罰を決めるとか言ってたはず。

 首都に送るにしても支部長の判断が必要なわけだし、檻から出すことはない。

 久米が魔法を放つことも可能性はあるんだろうが、パスポートを取り上げて無効化したって話だし、魔法を撃つことができない。

 失踪するキッカケが全くないはずなのに、逃げられた・・・?

「協会も燃えて無くなりましてな・・・」

「・・・燃えた?」


 火事でもあったのか・・・?


 言われて気付いたが、協会が無くなっている。

 無くなっているというより、焼けて大半が焼失した・・・が正しいか。

 柱もグズグズだし、石とかレンガも真っ黒け。かなり長時間燃えたのか?

 道中、薄っすら臭ったあの臭いは、この件で発生した煙だったのか・・・

「誰かの火の不始末で?」

 火事の原因は気になるところだ。

 建物が上手い事焼けて、あの二人が脱出したことも考えられるし。まあ、可能性は低いだろうが・・・

「いや、夜中に発生したようでしてな。この村で夜更かしする人間はそうそうおりません」

「・・・ってことは」


 外部の人間か・・・?


 リグーンは相当寂れてる村だ。人通りも少ないし、村の人口もそんなに多くはない。

 ある程度は村の雰囲気も全員が把握しているだろう。そんな中でおかしい動きをすれば誰かが気付く可能性は高い。

 となりゃあ、リグーン村の外の人間ってことになってるくわけだが、協会を焼くなんて大それたことをするか?首都の協会ならまだしも、首都から外れた小さな村の協会を?

 外部犯の可能性は高いにしても、目的が見えん。


「キリ」

「・・・どした?」

 小声で聞いてみると、

「協会から少し離れたところで人だかりがあるよ。あまり良い状態ではないけれど」

 いい状態じゃない・・・?

 どういうこった?

「あそこで何が―――」

「あなたは・・・」

 尋ねようとしたところに、受付嬢がやって来た。

「戻られたんですか」

「まあね。とんでもないことになってるじゃないか」

「・・・全くです」

 パッと見、受付嬢は無事なように見える。

「支部長がいない時にこのような事件が起こるとは・・・」

 事件って言い方をする辺り、誰かが仕掛けたこと・・・ってことは確定って認識か。

 まあ、雷が落ちるような天気でもなかったし、乾燥もしていなかった。火事になるようなことはないわけだし、そう思うのが自然か・・・

「そういえば、協会の側に何かあるのか?」

「・・・こちらに来ていただけますか?」

 場所を変えたいらしい。

 どうしても変えないといけない理由があるのか?

 とりあえず、言うことを聞いておくか。

「・・・実は」

 協会跡から少し離れたところに倉庫があった。

 その裏に場所を移して、

「あなた方に確保していただいた村の青年五人が、死体で発見されたんです」

「・・・マジかよ」


 どういう展開だよ・・・

 俺の中でサスペンス路線はないって思ってたんだけど・・・?


「協会の中・・・あの牢屋部屋で発見されました」

「あの部屋で・・・?」

 火事に巻き込まれたのか。

 牢屋に放り込まれていたから逃げることもできず・・・ってことになるか。

「随分高温で焼かれたのか、本人確認もできません。村民全員の所在を調べ、例の五人がいないことが分かったので断定した・・・という状況です」

 そりゃあ火事に巻き込まれりゃあ、本人確認できないくらい損傷するだろう。

 現代なら歯形とかDNAとかで調べられるかもしれないが、ここでさすがにそれは無理。

 背格好で何となく分かるくらいか・・・?

「ってことはあの辺りに集まってるのは・・・」

「彼らの両親です」

 やっぱりそうなるか・・・

 悲惨な息子の姿に泣き崩れる母親と、途方に暮れる父親・・・ってとこか。

 こうなると遣る瀬無いな。いくらやらかした連中とは言っても、産んだ親が当然いるわけだし、どれだけ手を焼かされても、自分の子供がああなると泣きたくなるもんだろう。

「・・・真田さんと久米さんですが」

「戻って来た目的、よく分かったな」

「ここを出られる前、わざわざ話をしに来られてますからね。さすがに察します」

「話が早くて助かる。村長から失踪したって聞いたけど?」

「はい。そういうことです」

 まあ、ここまで状況把握してるわけだし、村長から聞いた情報と違うってこたぁないだろうが。

「正確に言うなら、牢で発見されなかったから逃げたんだろう・・・ということになります」

 ってことは、久米たちの遺体は見つかってないってことだな。

 そりゃあ、失踪したっていうなら、そういうことになるのは分かるが・・・

「あの二人に逃げ出せるようなスキルがあるようには見えなかったのですが・・・」

「まあ、パスポートの中身までは把握できないだろ?」

「それはそうですが」

 パスポート発行後は個人が管理するわけだから、見せびらかさない限りは他人に中身を知られることはない。

 どんなスキルを習得したのかも分からないわけだし、いくら協会関係者でも分からんものは分からん。

「どういった手段を用いて逃走したのかは定かではありませんが、逃げたのは確実です。ですので、一応お伝えしておきます」

「わざわざそれを伝えるために場所を変えたのか?」

「それもありますが、本題は別にあります。早めに村を出ることをおすすめします」

「・・・なんで?」


 別に恨まれるようなことをしたわけじゃないんだが・・・?


「亡くなった五人の両親の一部があなた方を恨んでいるようでした」

「だから何で!?」

 やらかしたのはお前らの息子のほうだろ!?

「あなた方が関わらなければ、捕まることもなく、協会の火災に巻き込まれることはなかった・・・ということでしょう」

「いや・・・いやいやいやいや」

 そりゃそうだろうが、それはそれで責任転嫁し過ぎなんじゃないの?

「もちろん、依頼をしたのは村長ですし、私も含めた捕まった面々はあなた方が来なければ、どうなっていたか分かりません。我々はあなた方を支持していますし、感謝しています。ただ、亡くなった面々の立場からすれば、あなた方が来なければああいう目に遭うことはなかった・・・という考えになるのも仕方がないというのもあります」

「言いたいことは分かるけどさ、じゃあそのまま放っておいても良かったってのか?村の蓄えをどんどん持っていってたんだろ?困るのは一部じゃなくて全員のはずだ」

「おっしゃる通りです。蓄えが減れば、全員が困る。しかし、彼らも親がいますし、親からすればたまったものではない・・・という気持ちも沸くのも仕方がないところではあるでしょう」


 親の気持ちか・・・


 そりゃまあ、そんなもんか・・・

 例え他人を困らせようと、傷つけようと、自分の子供に変わりはないし、その代わりだっていない。もし自分の子供が問題を起こしたって、存在価値は変わらない。

 当然、俺はまだ親になってないし、そんな予定だってない。それでも、なんとなくそういうのは分からんでもない。


「複雑な問題だねぇ」

 全くだよ・・・

「ですので、早めに出発されることをおすすめしている・・・ということです」

「・・・分かったよ」

 危険感知でも黄色信号がかなり多く見られる。

 中には赤もあるが、武器がないから突っ込んでこないか、もしくは敵意はあっても戦う自信がないかとか、そういったところで襲ってこないだけか。

 ホークアイで周辺の様子をざっくり確認してみたが、久米たちの姿は見えない。

 これ以上、ここに残って話を続けても仕方がない。ここは言われたとおり、退散するとしよう。

「まあ・・・達者でな」

 こういう時、どういう言葉を掛ければいいのか分からん。

 当たり障りのないことを言っておくに限る。

「そちらも実りのある旅になることを祈ります。あと、私たちを助けてくれてありがとうございました」

「・・・おう。んじゃな」

 深く一礼した受付嬢に見送られ、俺たちはリグーン村を後にした。

「なんとも後味が悪い事件だったねぇ」

「全くだよ」

 ワケが分からない展開と、八つ当たりに近い恨みまで。

 ヴェロニカの言葉を借りるなら、後味が悪い。マジでそれに尽きる。


 しかし・・・あの二人、マジでどこに行ったんだ?


 ホークアイでも捉まらなかったってことは、相当遠くに移動したことになるわけだが、ドッシュでもない限り一晩で射程圏外に逃げることはできないだろう。

 隠れようとしたところで、射程圏内なら何でも見られるホークアイから逃げることもできない。

 総合的に逃げる術がないってことになりそうだが、パスポートも取り上げられている状況で、スキルの恩恵なく逃げられるわけがない。

 音も無く移動できるような術でもなきゃあ・・・

「・・・まさか、な」

 嫌な想像が頭をよぎる。

 そうならないことを祈るだけ、か・・・

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