30
翌朝。
早めに起きた俺は、ヴェロニカを連れて協会に足を運んだ。
昨日の話にもあったように、久米と真田とコンタクトを取りたい。
どういう経緯でこっちに来たとか、そういうのも知りたいところではあるんだが、個人的に気になるのはどうしてあんなバカなことをしたのか・・・それを知りたいと思っている。
真田はどうかは知らないが、久米のほうはそれなりに常識がある大人だと俺は思った。
こっちに飛ばされたとしても、していいことと悪いことの区別は大して変わらない。それでも道を踏み外したわけだから、それなりの理由がある。
それを知らないことには、この件がきっちり終わったことにならないんじゃないか?
それは単純に興味ってところが強い。二人が素直に話してくれるとも思わないし、応対が悪けりゃその程度だったってことでこのまま村を去るだけ。後のことは俺が知ったこっちゃない。
「あら、お早いですね」
協会に着くと同時に扉が開いた。
「あんたも早いじゃないか」
受付嬢も大変だな。体感的にだが、まだ七時くらいだぞ。
そんな朝っぱらから冒険者が来るのか?
あ、俺がそうか。
「これが仕事ですから」
「そりゃまあ、違いないな」
「それはそうと、ご用件は?」
話が早くて助かる。まあ、さっぱりし過ぎて冷たいと思う人もいるかもしれないが・・・
「あの二人に会わせてほしいんだけど」
そう伝えると、受付嬢は顔をしかめて、
「・・・どういった意図かは分かりませんが、出来かねます」
まあ・・・そうなるよなぁ。
一応、相手は処罰待ちの犯罪者だし、簡単に会わせるわけにゃいかないからなぁ。
「そこを何とか」
「できません」
この人、融通利かないなぁ。仕事だから仕方がないにしても。
かと言って、俺も理由があるから簡単に引けないのもあるし、
「できない理由は?」
とりあえず、交渉を続けてみる。
「支部長がいないからです。そういった判断は全て支部長にゆだねられていますから、末端の受付で判断できることではないんです」
真っ当な話だけども、
「ってか、何で支部長がいないんだ?普通、いるだろ。こういう風に支部を立ててるなら」
「シルフィ本部に向かってから帰って来られないんです」
「・・・帰って来ない?」
帰って来ないって、何かしらトラブルでもあったのか・・・?
「元々長期滞在予定だったとかは?」
「ありません。道中も含めて、一週間ほどの不在の予定でした」
リグーンから首都までだと・・・
「三日あれば十分着く距離だねぇ」
ってことらしい。
なら、往復で六日間。実質首都に滞在するのは一日だけってことか。
「首都に向かった理由は?」
「定例会議です。シルフィ王国中の協会支部長が集まり、定期的な連絡会を実施しているんです。まあ、いらっしゃらない方もいらっしゃいますが」
仕事の都合もあるだろうが、距離の都合もありそうだ。こっちは車とか飛行機とか、そういう便利な文明は一切ないし、圧倒的に時間が掛かる。
「その連絡会ってのはそんな二時間が掛かるもんなのか?」
「いえ、そんなことは。シルフィ全体で問題となっている案件を共有するために行っていることですから、そこまで時間を費やすことではないはずです。支部長自身もそうおっしゃっていましたし」
ってことは一時間そこそこか、二時間くらいか?確か、二時間くらいあれば大抵の会議は終わるし、長く掛かったほうだって父さんも言っていた気もする。
その連絡会も同じ程度だとするなら、帰って来ない理由が別にあるように思える。
それが一体何なのか・・・?
「ということですので、承諾できません」
「うう~ん・・・」
これ以上話をしても無駄な流れだ。
「無理に話を続けても印象が悪くなるだけだしねぇ」
そういう一面もあるな。
こういうのは引き際が大事って聞くし、
「了解。分かった」
ここは引いておこう。どうせ今日までの付き合いとは言っても、立つ鳥跡を濁さずとも言うし、印象は良くしておかないとな。
「おや、お早いですな」
宿屋に戻ろうとしたところで、村長が現れた。
「おはようございます、村長」
「おはよう。昨日の今日じゃし、今日くらい休めばよかったろうに」
昨日まで監禁されてたわけだしなぁ。普通、一日や二日くらい休むもんだと思うが、
「協会を開けないと、皆さんが困りますでしょう」
この受付嬢、仕事最優先タイプか。それはそれで見習うべきところはあるんだが、そこまでやらんでもよくない?って思うのは俺がガキだからか・・・?
「何を話しておったんじゃ?」
「タカミさんがあの二人と会いたいとおっしゃられていまして」
「・・・ふむ」
「頼めませんか?」
権限は支部長にあるわけだし、村長に頼んだとてクリアするとは思えないが・・・
「いいでしょう」
ええんかい!!
いや、ありがたいけど!
「よろしいのですか?いくら村のトラブルを解決してくださったとは言えど・・・」
受付嬢も意外って感じのリアクションに見えるが、
「会って話をするくらいじゃろ?別に連れ出すわけでもあるまいし・・・そうでしょう?」
「まあ、それは当然そうですけど」
さすがに連れ出すことはない。そこまでする必要性も価値もないし、またトラブルを起こされても面倒だしな。
「だったらよかろう。ワシが許可する」
「話の分かる村長さんだねぇ」
ホントそれ。
大体、こういうのは断られるケースのはずなんだけどな。
村長は融通が利くタイプだったか。マジで助かる。
「支部長には後で報告しておけばよかろう。早く通してあげなさい」
「は、はあ・・・では、どうぞ」
受付嬢が中へ通してくれるようなので、
「じゃ、遠慮なく」
ここは村長の気遣いを無駄にするわけにゃいかん。
素直に協会に入って、
「連中は?」
「奥です」
先行する受付嬢について行く。
ボルドウィンの協会ほど広いわけじゃないが、ここもそれなりの面積はある。
カウンターが小綺麗に整理されているのは、この受付嬢の性格か、もしくは趣味か・・・ちょっと判断が難しいところだ。
「一人もいないねぇ」
確かにここの協会、この受付嬢以外がいないな・・・
こういう事務所というか、組織的なところってそれなりに人数を構えているもんだと思うんだが、受付嬢以外の姿が見えない。
不在ではあっても支部長はいるわけだし、まさか二人で運営してるってこたぁないよな・・・?
まあ、俺には関係がないことだし、別にどうでもいいっちゃどうでもいいんだが・・・
「こちらです」
カウンターを横切って廊下を進んだ突き当り。
南京錠が施された扉があった。
「ここかい?」
「ええ」
受付嬢が鍵を外し、扉を開ける。
「あら・・・意外なお客様ね」
さて、話を始めようか。