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 久米と真田を確保した。


 久米はヴェロニカのフレアバレットでノックアウト。

 真田はランドウィップの毒で衰弱。

 二人ともかなりのダメージになってしまったためか、もがく余裕すらなかったらしい。


 まあ、それも分からん話でもない。


 久米はあんな特大火の玉を真っ向から受けて吹っ飛ばされて、最終的に壁に叩きつけられていた。

 真田はモンスターすら肩で息をするレベルの毒を受けて、解毒する術を持っていないから受け続けなければいけなかった。

 あんなもん、訓練された軍人でも大ダメージになるだろう。


 そんな二人を確保するのに、そう時間は掛からなかった。


 それはそれとして、別の問題も発生した。


 集会所を吹っ飛ばしてしまったことだ。


 最終的に撃ったフレアバレット。

 あれ、久米が撃ったダークスターを打ち消しただけじゃなく、そこからどういう訳か巨大化している。威力と影響範囲が広がってしまった故に、施設も吹っ飛ばしてしまった・・・ってわけだ。

 施設内で撃ったわけだし、大なり小なり被害が出ることは想定できるんだが、巨大化は想定できない。

 ヴェロニカは吹っ飛ばすとか何とか言っていたが、やり過ぎなんだよ・・・

 幸い、村長は特に何も言っていなかったから良かったものの・・・


 まあ、村の女の子たちも何とか無事だったみたいだし、チンピラどもも制圧できて、問題も解決できた。集会所の一つで済んだ・・・ってことなのかもしれない。いや、これは俺がそうであって欲しいっていう願いか。

 そりゃ願うだろ・・・集会所吹っ飛ばしたから再建しろとか言われたら困るもん。


 それはまあ、一旦置いておこう。


 二人は協会預かりになった。

 受付嬢が奥に運んでくれと言ってきたから、起きたジェシカとキースと協力して、開かれた協会に運んで驚いた。

 奥に牢屋があった。


 何でこんなモンがあるのか?今回みたいな事件の犯人・・・村のチンピラたちを押し込むためにある。

 大都市なら警察みたいな組織と、それらが利用する施設がある。リグーン村のような小さい村には組織すら無い場合もあるから、協会がそれを担うケースもあるそうだ。


 犯罪者が出てきた場合の対応も求められる。協会ってのは相当よくできた組織だ。

 国からの信頼がなければ、そういう対応なんかさせてもらえない。信用もあるし、危険な対応も求められる。そんなこと、その辺のペーペーに投げられるわけない。

 ってことは、あの受付嬢も何かしらできるんだろうか?ナイフすら持ってないようだし、無手スキルとかで格闘メインとか?護身術みたいなのもあるのかもしれない。

 気になるこた気になるが、また別の機会に尋ねてみることにする。


「別の転移者と出会うことになるとはねぇ」


 今日は結構なトラブルが続いたから、移動を断念した。

 そりゃあ、いきなり吹っ飛ばされて怪我をした上、心読まれて苦戦させられた挙句、集会所まで吹っ飛ばされたんだし、最高レベルのストレスを受けているわけで、そこから次のオアシスまで移動なんかできるわけがない。

 やらなきゃいけない時はやるけどよ。


 今夜は村長が宿を取ってくれたから、そこで厄介になることになって、今はヴェロニカと部屋にいる。

 どうやら話をしたいことがあるらしい。


「まあ、それに関しちゃ俺も驚いてる」

 事前に得た情報だと、なかなかやらかしてる男女ってだけだった。

 それに、俺以外の転移者に出会うことを想定していなかった。

 そりゃあ、いるこたいるっていう認識はあった。アルテミナもそこそこ送り込んでいるだろうし、他の大陸の女神たちも自分たちの守備範囲で送り込んでいるだろうし、それが原因で例のヤツが生まれたわけだし。


 ただ、そんな遭遇するもんじゃねぇだろって思うのも仕方がないとも思ってる。


 詳しく聞いたわけじゃないが、そんなに大量に送り込んでないと思う。相当な数を送り込んでいるなら、ボルドウィンでそこそこ出会うはずだ。そんな場所の協会でさえ時々来るっていう印象なわけだし、遭遇率はそこそこ低いのは間違いない。

 人口比として、当然ラヴィリア人のほうが圧倒的に多いし、そりゃあ出会うわけないだろって思うのも道理だろう。

「あの二人も結構色んなことがあったみたいだよ」

「・・・そうなのか?」

「まあ、考えること全て分かるわけじゃなかったから、分かるところだけだけれどね。キリなら分かるんじゃないかな?」

 ってことは日本のことか。だとしたらそりゃあヴェロニカには分からんこともあるだろうが。

 あの人も日本で色々あったのか。まあ、大なり小なり、誰にでも何かはあるだろうけども。


 そうやって聞けば、多少気になったりはする。

 どこかのタイミングで話せたりできるか・・・?


 別にあの二人を更に袋叩きにしようとか、そういうことじゃない。単純な興味。それだけ。

 どういう経緯でこっちに飛んでくることになったのかとか、どういう生活してたのかとか、こっちに来てからどういう風に生活してたのかとか、色々興味がある。

 まあ、今の心情を聞いてみたいってのもあるが。

 今は受付嬢が管理してるだろうから、取り付けばどうにかできるかもしれないが、あの子、割と融通利かなさそうだし、接触できるかどうか分からんなぁ・・・

「そういえばキリさん」

「ん?」

「気になることがいくつかあってね」

 話がそっちになっていたから忘れかけていたが、聞きたいことがあるって言ってたか。

「時々、キリさんは誰と話してるんだい?」


 おおぅ・・・とうとうそこに踏み込んでくるか、ヴェロニカさん。


 そりゃあ、テレパシーでこっちの思考も読んでいるわけだし、俺の考えも心情も読んでいる。

 俺がアポロと話していることも気付いて当然だろう。

 ただ、それでも気付いていない点があるらしい。


 一つ言えるのは、今の時点で相手がアポロであるってことに気付いていないことだな。


「キリの心情を読もうとすると、時々聞こえない時があるんだよ」

「・・・ほう」

 時々聞こえない、か。

「例えばどんな風に?」

「キリの言葉の大半は聞こえるけれど、相手側の声が全く聞こえないんだよね。そこだけ声が抜け落ちているみたいな感じかな」

 てっきりテレビとかでよくある”ピー”とか、”バキューン”とか、そういうのだと思ってたんだが、シンプルにそこだけサイレントになっているイメージかな?

 まあ、アポロはこっちの世界の神獣なわけだし、日本のメディアと同じような芸当をするとは思えない。妥当な処理なんだろう。

「キリの言葉も時々抜けてて、肝心なところが聞こえなくなってる感じかなぁ」

 聞かれたらマズいところを処理されているって考えるべきか。

 名前とか、アルテミナのことも該当するんだろうな。今、この瞬間の考えも恐らくサイレント処理されているに違いない。

『そこは当然である。下界の者に知られるわけにはいかないからな』

 ・・・ということらしい。

 これも消されてるんだろうなぁ。

『少年。先に伝えたとおり、我々のことは伏せておくが良い。無駄な混乱を招きかねぬ』

 無駄な混乱、か。

 アポロのことを伝えたところ、そんな混乱なんか起こるもんかね・・・?

『起こるか起こらないか、ということであれば、対象によるという答えが適切である。今日戦った転移者二人を思い浮かべてみよ』

 ・・・あの二人か。

『あの二人もアルテミナ様が召喚した。どういったお考えであったかは我には計り知れぬが、あのように道を踏み外すことも有り得る』

 言われてみれば確かに、人の道ってやつを踏み外しはしたかもな。

 こっちの世界でどういう風な処分が下されるかは分からないが、日本だとそこそこ重い罪に問われるだろうし。

『アルテミナ様が直々にスキルを与えていない故、まだあの程度で済んだとも言えるが、ああいった輩が我々の存在を知れば、強力なスキルである神力を欲するようになるであろう。いや、転移者だけではなく、ラヴィリアの人間たちも同様である』

 こっちの世界の人間も、地球の人間も大差ないからな・・・知れば欲しくなるのは道理か。

 ホークアイは好みがあるだろうが、威嚇は使いこなせれば相当強いスキルだ。相手を縛り付けられるわけだから、動きを封じて袋叩きにすれば、特殊なモンスター以外なら楽に倒せる。

 アルテミナから接触して来なくて、こういう形で神力を知ったら、俺だって欲しくなる。

 そりゃあ、黙ってるに越したことはないって考えにもなるか。知らないって強いもんなぁ。

『黙っているようにな。だが」

 ・・・だが?

『どうしても誤魔化しきれないと思ったら、その時は仕方がない。話すことを許可しよう』

 ・・・急にどうした?どういう心境の変化だ?

『この娘の直感は鋭い。相手が我であることは把握しておらずとも、いずれ気付く。故にだ』

 ・・・確かに、ヴェロニカは鋭いからなぁ。

 いずれ気付くってのもまあ、分からん話ではないが。


 さて、どうしたもんか・・・


「今も話してた?結構聞こえないことが多かったけれど」

 どういう風に言えば納得してもらえるのかなんて、俺には分からん。

 正解が分からないから、

「ヴェロニカ。聞きたいことは分かる」

「不思議だしねぇ。テレパシーで読み取れないことがあるんだって」

 しかも、自分が結構できると知っているから、余計にそう思えるわけだ。

「悪いけど、今は話すことができない」

 一応許可はもらったが、渋々って感じなわけだし、漏らさないほうがいい・・・そこを可能な限り酌むことにする。

 だが、覚えとけよアポロ・・・貸しだぞ、この件は。とてつもなくデカい貸しだ。

『・・・むう』

「正直、この件は俺でもいっぱいいっぱい・・・っていうか、どうにもならんだろって両手を挙げるほどの内容でな」

 これはまあ、正直な感想だ。

 ヴェロニカの両親探しでさえ雲を手で掴むような内容なのに、頭がイカれたどこぞのアホも探せってのは無理ゲーにも程がある。

「今はまだ難しい。いつか話せる時が来るかもしれないし、話す前に俺がくたばるかもしれない」

「ええ?そんなに重い話なのかい?」

「まあ・・・そうっすね」

 例の奴は命を無限に繋げるとしても、俺のは限りがあるからなぁ・・・

 人生百年時代とか言うが、せいぜい生きられて八十歳くらいだろう。仮にそうだったとして、残りの約六十年くらいで見つけられるもんなのか・・・

 まあ、今はそれは置いておいて、

「今は俺を信じてくれないか?」

「信じる・・・キリを?」

「そりゃあまあ、俺だわな」

 一度疑問を持てば知りたくなる。それが人間って生き物かもしれない。

 だが、それでも話せないなら、

「俺はヴェロニカを信用してる」


 こう言うしかない気がする。


「たまにえらい目に遭うことくらい以外は良くしてくれてるしな」

「一言多いんだよねぇ、君は」

「そこは否定しないけどよ、今はそれしか言えないしなぁ」

 ヴェロニカのテレパシーが止まる。

「助けてくれた恩もあるにしても、頼りになるしな」

 ガノダウラスの時も久米と真田の時も、最終的に決定打を打ってくれる。テレパシーで相手の心を読んで危険を察知してくれるし、お金の支援もしてくれる。

 助けられたことが大きいにしても、なんやかんやで頼りになる。そこを信頼しているわけだ。

「俺が信頼してるんだからお前もしろって言いたいわけじゃないけどな」

「・・・まあ、そうだね」

 テレパシーがまた繋がった。

「キリが信じてくれてるなら、わたしも信用しないとね」

 交換条件みたいになるのが何とも言えないところだが、

「わたしもキリには恩があるし、これからも付き合いは続くし、仲良くしないとね」

「まあ、そうだな」


 とりあえず一段落かな・・・

 これはマジでデカい貸しだぞ、アポロ・・・覚えとれ。


「それはそれとして、結局あの二人、どうなるんだろうねぇ」

 話が変わったが、ヴェロニカも気にはしていたらしい。

「協会預かりになるなら、もしかしたら首都の協会や騎士団なんかに送られるかもしれないね」

 シルフィには騎士団ってのがあるのか。それが警察組織も合わせられてるのかもしれない。

「ここにはどういうわけか支部長クラスの人もいないみたいだし、首都に送られるのが妥当かな。受付嬢だけで対応しかねるだろうしね」

「送られたらどうなるんだ?」

「まあ、それなりの処罰は受けるだろうね。牢屋に入れられてから労働とか」

 地球で言う刑務所みたいな場所があるんだろうな・・・ああ、入りたくねぇ。

「キリも気になってるんでしょ?同じ転移者だし」

「まあ・・・そうだな」

「だったら、明日の朝に行ってみればいいんじゃないかな?」

「・・・朝に?」

 朝っぱらからあの二人に会うのか・・・それはそれでなんとも言えないんだが。

「あの受付の人、結構真面目なタイプだと思うし、あの二人の対応はそれなりに早いと思うんだよ。首都に移されたらそう簡単に接触できないし、行くなら早いほうがいいと思ってね」

 そりゃまあ、そうか。

 どういうところに移されるか次第だが、普通なら簡単に会えないような場所になるだろうし、この村にいるうちに接触を試みるのが妥当か。

 あの受付嬢が簡単に会わせてくれるとは思えないんだが・・・

 まあ、やってみるか。

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