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ボーイミーツ・・・ベイビー???

 ―――あっ、俺死んだわ。


 人間・・・誰もが自分が死ぬ瞬間とか、楽なのか苦しいのか、気になることがあると思う。

 どういう風に死ぬのかも気になるものだろう。


 俺、高見 桐也の死に方は、事故に巻き込まれる・・・という、珍しくない死に方のようだ。


 何を間違ってか、軽自動車がえらい勢いでこっちに突っ込んでくる。


 俺は高校生で、土日を利用して疲れを癒そうと街へ繰り出していた。

 まあ、斬新なリフレッシュ方法があるわけではない。

 スマホが当たり前の現代人にしては珍しい部類に入ってきているのかもしれないが、紙の本が好きで、よく本を買う。

 すごく難しい内容は分からないので、専門書の類は守備範囲外だが、SFやファンタジー小説、俗に言うラノベが好きだった。

 内容が好きなのもあるが、高校生でバイトもしていないので、小遣いの範囲で買えるのがいい。

 それから、挿絵が入っているのも地味にいい。可愛いキャラが出てくると愛着が湧くんだ。不思議なものでさ。

 で、基本的には小説通とかでもないので、タイトルと表紙で買うわけなのだが、そういう本を買ってから、どこかのカフェに入る。

 カフェでコーヒーとか紅茶を頼んで、買った本を読む。これが俺のリフレッシュスタイル。

 どこの店でっていうこだわりは無いから、チェーン店に入る時もあるし、渋い店に入る時もある。でも、どっちかっていうと渋い店がいい。


 今日は新刊が出ていて、興味を引く内容であったのでその本を買って、カフェを探した。

 どこか入ったことがない店に入りたいと思って、そこそこ歩いた先に、渋い店を見つけた。

 今ではオシャレな店が流行るのだろうが、昔ながらの店っていう感じ。これがいい。

 窓際に座って、アメリカンを注文。

 店構え、店内も渋いが、マスターがこれまた渋い爺様で。

 不愛想な感じかと思いきや、コーヒーを淹れてやってきた爺様は、微笑むというのだろうか、こういう品のある人が日本に何人いるんだろう?と思わされるほどの対応だった。


 さて、香りのいいコーヒーも来たことだ。早速本を読もうではないか。

 購入時にカバーをしてくれた小説をカバンから取り出して、早速ページを開く。

 買った本の内容はこれからだが、主人公の少年は剣を持っていた。

 可愛い女の子に囲まれている・・・かは不明だが、どうせ仲良くなるんだろ?羨ましい話だ。

 王道のファンタジーなのか、一癖あるのか?

 楽しみにページを捲って読んでいくと・・・


 表が急に騒がしくなった。


 なんだ?と大体の人間は思うだろう。


 目を本から外して外を見ると、そこに軽自動車がいた!


 っていうか、本当にもう目の前なんだが!?


 いや、運転手のおっさん、めっちゃ慌ててるんだけど!

 ブレーキとアクセル、踏み間違えちゃったかな!?


 あ、これは行った!

 っていうか逝った!!


 ガチャン!!!


 軽自動車が壁や窓を突き破ってくる。

 これに轢かれて死ぬ、というわけだ。


 覚悟をして目を瞑る。

 いくら軽自動車でも、正面衝突では助からないだろう。

 短い人生だった・・・


 ―――と思っていたのだが。


 あれ?痛いのが来ない。

 いくらなんでも、車に轢かれたらそこそこ痛いんじゃないの?

 走馬灯ってやつも、今日一日レベルの話だったし。


 というか・・・椅子に座っていたはずだよな?

 俺寝転がってないか?

 息もしているし、目をぎゅっと瞑っている感覚もある。

 それに、さっきまでコーヒーの香りでいっぱいだったはずなんだが、そんなものはもうない。

 店内のBGMもジャズだったような気がするんだが、山の中にいるのか?鳥の鳴き声とかしか聞こえないんだけども・・・


 明らかに自分が置かれている状況が激変している。


 天国か地獄か分からないけど、そのどっちかなんだろ?

 考えられる状況からして、たぶん天国側。これはありがたい。


 目を開けてみると、どういうわけか森の中だった。

 てっきり山だと思ったんだけども・・・いや、別にどっちでもいいんだよ。

 どっちであろうと、異常事態であることは間違いないんだ。


「おー、珍しいなぁ」


 人の気配?

 にしては、声の感じが特殊な気がする。

 耳から声が聞こえていない・・・?


 周りを見回すと、森の中でとあるモノを見つけた。


 深い森の奥に、ぽつりとある切り株。

 その上にちょこんと座っている・・・

「・・・赤ちゃん?」


 赤ちゃんってさ・・・喋るの???


 *


 今俺が置かれている状況を確認しよう。

 うん、しないとやっていけないからね!


 一つ、たぶん俺は死んだ。

 二つ、なんか知らない場所で無傷。命はあるっぽい。

 三つ、なんか喋る赤ん坊とコンタクト。


 ・・・これ、どういう状況???


「君さ」

 赤ん坊が話しかけてきた!

 周りには俺か、もしくは動物くらいしかいない・・・いや、動物に話しかけているのかも?

「いや、間違いなく君だよ、人の子」

 なんかよかった。一応、動物相手に話してるわけではないらしい。

 それはそれで見てみたい気もするが、今はいっぱいいっぱいだ。それが見られるなら後で見よう。

 ・・・見られるならね?

「君、その様相からして、異世界から飛ばされてきたね?」

 ふと気づいたんだが、赤ん坊の口が動いていない。

 まあ、赤ん坊なわけだから、喋ることはできないと何となく分かるんだけども、どういう方法で喋っているんだ?

 声の感じからして、女の子なんだということは分かる。声の質感は落ち着いているようなトーンだ。どこかの声優みたいな感じだが、誰かは思い出せない。

 そんなことはどうでもいい。気になることを言った。

「異世界?飛ばされる?」

「まあ、状況を理解できないのは分からなくもないけど」

 おお、なんか知ってる。それ。

「なるほど・・・日本どころか、地球ですらないっていう、アレね」

 赤ん坊はにこにこしながら、

「理解はできるんだね~」

「俺がいたところじゃあ、こういうのメジャーなのよ」

 まあ、俗に言う異世界転生ってやつなんだよ。コレ。

 まさか自分がそれを経験することになるとは思わなかったけども。

「・・・で、気になることを聞いてもいいかな?」

「わたしに?まあ、いいでしょう」

 上から来てる?まあ、今は気にしないようにしようではないか。

「俺がいるここは、俺が知ってる世界じゃないってことは分かるんだけど、じゃあここどこ?」

「ふむ、いい質問だ!」

 赤ん坊が笑っている。

「ここはラヴィリアという世界だよ。君がいた世界がどういうところかはわたしは知らないけれど、君から見れば、ラヴィリアは異世界に当たる」

 ほら、やっぱりそうじゃない。異世界じゃない。

 カフェから森に瞬間移動ってなった状況もそうだし、それは目を瞑るとしても、喋る赤ん坊がいるなんておかしいじゃないの。

「さて、君が置かれた状況なんだけどね」

 赤ん坊は大きな目でこちらを見つめている。

 なんだろう。その目に力があるような気がしている。

 目の色は緑っぽいような、青っぽいような感じ。足して二で割ったような色合いかもしれない。

 そんなにたくさんの赤ん坊を見て比べたわけじゃないけど、たぶん目は大きい方。くりくりっとしているね~なんて表現があるが、それがしっくりくる気がする。

 大人になったらどえらい美少女になるんだろう。まあ、別に、あの子の将来を見られるわけではないし、どうでもいい話か。

「どういう理由でかは分からないけど、君はここに飛ばされてきた。大抵、酷い死に方をする傾向があるんだけど・・・覚えは?」

「事故に巻き込まれた・・・って感じかな」

「ふむ。じゃあ、それだね。君は事故に巻き込まれる瞬間、こちらに飛ばされたんだ」

「巻き込まれる、瞬間、だって?」

 赤ん坊は小さく頷き、

「死んだ後じゃない。死ぬ直前に転送されるんだよ。だってほら、死んだ後こっちに飛ばされても、こっちが困るでしょ?」

 ・・・言いたいことは分かる。

 要するに、軽自動車に轢かれてぐっちゃぐちゃになった人間が飛ばされてきても、こっちの誰かが片付けなければいけない・・・っていう、どっちも幸せじゃない状況を生むだけ。

 そりゃあ、そっちのほうが俺としてもありがたいんだけども。

 ・・・なんかなぁ。ちょっと心が抉られるような話、なんだよなぁ。

「君はこれからここで生きていかなきゃいけなくなったね」

「向こうに戻るっていう道はないのか?」

「ない」

 バッサリ言った!

「少なくともわたしにはね。他の誰かなら送り返す方法を知ってるかもしれないけれど、少なくともそういう方法を聞いたことはない」

 今のところ一方通行・・・というか、うん、無理なんだろうな。この流れ。

「戻りたいのかな?」

 赤ん坊がまた尋ねてくる。

 というか、心が読まれた?

「・・・いや、別に・・・まあ、うん、特にないかな?」

「・・・え?そうなの?」

 目を丸くする赤ん坊に、頷いて返してやる。

 戻る、という考えがあったのは確かだ。

 そういうのがこういう異世界転生ってやつの流れの場合があるんだ。

 こっちの世界で、例えば世界を救えば、例えば神様的な誰かが送り返してくれる。金持ちになるとか美少女ハーレムに囲まれるとかいうご褒美付きの場合もある。いや、俺がそうなりたいわけではない。断じて。

 たぶん、異世界転生した・・・という、この現実に向き合ったことで、そういう流れを思い浮かべているだけなんだろう。

 かと言って、戻りたいのか?と尋ねられたら、先ほど赤ん坊にも答えたが、特に戻りたいわけではない。

「まあ、日本は割と住みやすい国だったし、娯楽も多かったし、悪くはないんだけど・・・」

 コーヒーも紅茶もうまいし、ラノベも読めるし、映画も観られる。あまり俺は用事はなかったけど、スポーツだって割と自由にできるし、カラオケとかも遊園地もある。

 食べ物も基本的においしい。大体の国の料理も食べられる。

 大体の人がそうではあるんだろうけど、住む場所もある。

 医療だって高いレベルであることに違いない。

 世界広しと言っても、日本くらい整っている場所は多くないはずだ。

 だからと言って、それは一般論であって、俺も当てはまるわけではない。

「特に戻りたいわけじゃないから、その辺は気にしないで」

「ふーん・・・」

 赤ん坊は少し間を置き、

「君、面白いね」

 そんなことを言う。

「そういうことを言われるのは初めてだな」

「嘘でしょ?それこそ、自分が生きてるなら早く戻してくれー!とかじゃない?わたしが同じ立場ならそう考えると思うけど、そうじゃないんだもの」

 面白いと言われたことがないのは本当だ。

 ・・・まあ、余程昔なら言われたことはあるかもしれないが、いちいちそんなことを覚えていない。

「で、どうやって生きてく?」

「・・・そこなんだよなぁ」

 問題は、こちらでどういう風に生きていくか、だ。

「なあ、赤ん坊さん・・・そもそもどうして喋れるか、とか色々聞いてないけど、どうしたら生きられる?」

「う~ん。そうだねぇ・・・」

 ほんの一瞬、赤ん坊は悩み、

「わたしはヴェロニカ」

「ほお・・・」

 今ここで自己紹介?

「このわたしの願いを叶えてくれるなら、助けよう!」

 あー、これたぶんアレだ。

 悪魔に魂を売るとか、そういう類のやつ。

「あー・・・おお。おおぅ・・・」

 マジかよ。俺は悪魔とかじゃなく、赤ん坊に魂を売るのか!?

 周りを見ても、助けてくれそうな心優しい人はいなさそう。っていうか森にいるわけだし、当然周りを見ても誰もいない。

・・・選択肢がないにも程があるだろ!!

「お、お手柔らかに、お願いします・・・」


 こうして、俺はいきなり異世界に転送され、喋る赤ん坊・ヴェロニカと出会い、彼女の願いを叶えていかなければならなくなった。


 酷い目に合わなければいいんだけど・・・そもそも転送された時点で胡散臭い世界だ。

 望むだけ無駄かもしれないが、願わずにいられない。


 酷い目に遭いませんように。

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