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9 仲間の価値 (2)

「ブヒーーーーー!!」


 特徴的な、ブタに似た悲鳴。

 森の中に響きわたる。

 身長2メートルを超える人型の魔物が、不格好で太いこん棒を手放し、力尽きて倒れた。

 ブタ顔の魔物、オーク。

 太った体は、脂肪と筋肉のかたまり。

 浅い傷ではそうそう仕留められない、タフな相手だ。


「ハア、ハア……」


「や、やっと死にやがったか……」


 こちらは不良冒険者のご一行。

 5人全員とも汗みずくだった。

 腕と足は、ガクガクふるえている。

 何度も剣をふるった疲労と、なかなか死ななかった相手への緊張からだ。


 その足元に、ようやく倒したオークが1匹。

 さっきも倒してたから、これで通算2匹目となる。


 連中のパーティは案の定、全員が新人のFランク冒険者だった。

 そして全員とも前衛。

 慎重に隠れ、はぐれたオークを待ち伏せて奇襲し、全員で斬りかかる。

 実に正しい戦い方だった。

 誰だって命は惜しい以上、こうするのは当たり前だが。


「お……おいてめえ! マジで50万ゴルド払うんだろうな!」


「負けたらな」


「そ、その言葉、忘れんじゃねえぞ!」


 討伐数を競い、負けたほうが買ったほうに50万ゴルドを渡す。

 冒険者同士のいさかいを収めるため、よく用いられる勝負方法である。

 手数料を払って、フェリシアにも立ち会ってもらっている。

 正式なギルド案件として受理された形だ。

 ギルドとしても、トラブルが消えて魔物討伐が進むのは歓迎なわけだ。


「悪評を潰して金も儲かる。今日は実にいい日だな!


「でも、ボクたちなんにもしなくていいの? まだ1匹も倒してないけど」


「まったく問題ない」


 今回受注したのは、オークの“群れ”の討伐だ。

 はぐれなんか狙わなくとも、いずれ必ず本隊にぶちあたる。

 そう思っていたところに。


「ほら、来たぞ」


 プヒブヒと連れ立って現れた。

 まだ遠いが、でかいのではっきりと見える。

 その数20以上。

 一番後ろには2メートル半の、ボスらしき個体も見えた。

 飢えているのか、よだれをだらだらと汚らしく垂らしている。


「ブヒィ、ブヒィ」


「あの大きいの、ハイオークだよね」


「そうだ。ただのオークより非常に狂暴で、恐れ知らずとされている」


「恐れ知らず……? そうかなあ」


 なんでか首をかしげるアルメア。


「…………」


 チンピラたちが、群れを見て青ざめている。

 森に入る前は、オークごときと笑っていた。

 完全に甘く見ている様子だった。

 これまでゴブリンや角ウサギなどの、弱い魔物しか倒してこなかったんだろう。


 が、戦ううちに、オークの強さに気がついた。

 今では必死に息を止め、全力で背景に溶けこもうとしているありさまだった。

 あの数に襲いかかられたらひとたまりもないだろう。

 こいつらだけならば。


「おい、どうしたお前ら。あんなにたくさんオークがいるじゃないか。チャンスだろ」


「じょ、冗談じゃねえよ! あんなの相手にできるか!」


「てめえらこそ先に行きやがれ!」


 俺はアルメアに目配せ。

 うれしそうに、コクコクうなずかれる。


「そうだな。そうさせてもらうか」


「お、おい!?」


「やめろバカ! 俺たちまで見つかっちまうだろ!?」


 止められるが、かまわず出ていく。

 やぶを分け入って、獣道の上へ。


「ブヒイイイイ!」


 さっそく見つかる。

 オークどもが、こん棒を振りあげ向かってきた。


 俺は魔石を取り出す。

 3万ゴルドで購入しておいた魔石だ。


「【再利用(リサイクル)】!」


 呪文とともに、手に力をこめる。

 魔石はにぎりつぶされて、魔力へと変換されていく。

 苦しさにひざをつく俺。


「ぐっ……大きな力の代償に、心が引き裂かれそうだ……!」


「ソウマ……」


 アルメアは気づかわしげな目を……いやちがうな、あれは呆れてる目だな。

 ともかくアルメアの背中に手をふれ、魔力をまるごと渡す。

 あふれる魔力の光層をまとわせるアルメア。

 にっこり笑った。


「ボク、ソウマの仲間として恥ずかしくないよう、がんばるね!」


「いや……お前の不名誉を返上するための戦いなんだが」


 すでに目的を忘れてそうだ。


「行くよ!」


 右手を前にかざすアルメア。

 魔法を使うのに必要なのは、発現する時のイメージ。

 そしてそのイメージを安定させるために、固有の“呪文”を設定して唱える必要がある。

 昨日のうちにふたりで練習した、いくつかの鉄魔法の呪文。

 その、実戦でのお披露目である。


「ブヒイイイイ!」


 先走った先頭の一匹が、目の前に迫る。

 射程に入った。


「【鎖鎌(チェインサイズ)】っ!」


 呪文とともに、鎖つきの鎌が地面から生えてくる。

 アルメアの身長より大きな刃渡りを持つ、鉄の鎌。

 凶悪なシルエットのそれが、正面から振り下ろされた。


「ブヒッ……!?」


 オークは、苦もなく両断された。

 文字どおりのまっぷたつ。

 振りあげたこん棒ごと、なすすべもなく。


「な、なんだあれ!?」


「ありゃ魔法か!?」


「俺たちが死ぬほど苦労したオークが、あんな簡単に……!?」


 驚愕するチンピラたち。

 ベテランの剣士でも、そうそうできない芸当だ。

 驚くのは当然だろう。


「ブ、ブヒイ!」


「ブヒイイイイイ!」


 仲間を殺されて、ますますいきり立つオークの群れ。

 我先にとアルメアへ殺到する。

 それはつまり、最短距離を直線的に走るということ。

 アルメアにとっては、さぞ狙いがつけやすいことだろう。


 アルメアは、その場でしゃがんで。

 今度は地面に手のひらをつけ、体内の魔力を練る。

 中位魔法に相当する魔力量。

 叫ぶ。


「【鉄の槍(アイアンスピア)】!!」


 ボボボボッ!

 空を切る音。

 大地から生まれたのは槍(ぶすま)

 無数の鉄槍が、密集して敵へ襲いかかる。


 それは胴や頭、手足を容赦なく貫いて。

 悲鳴をあげるヒマすら与えず。

 標本のようなハリネズミのような、そういうものを作りあげた。

 おびただしく流れる血、弱々しくもがく足、でろりと垂れた舌。

 地獄絵図である。


「ブヒイイイイイイイッ!?」


 敵の恐怖の声。

 仲間の半数が即死したのだから、当然の反応だった。


「ひいいいいいいいいっ!?」


 味方からも恐怖の声。

 後ずさって、ちぢこまるチンピラたち。

 ドン引きしていた。


「ブヒイイッ!? ブヒイイイイイッ!?」


 いきなり現れた地獄に、錯乱するオークども。

 我先にと、今来た道を逆走していく。

 恐れ知らずのはずのハイオークまでが、こん棒を捨てて必死に逃げ出していた。

 返り血をべっとり浴びたアルメアが、そのあとを追いかける。


「逃げるな! 死ね!」


 狩人というよりは、鬼の眼光。

 過剰な魔力を身体強化魔法に回して。

 ぐんぐん走り、追いついていく。

 そして端から容赦なく断裁。

 首や手足をポンポン()ねていった。


「プギイイイイイイッ!?」


 昨日の魔法練習からして、こうなるだろうとは思っていたが。

 オークが気の毒になるほどのオーバーキルである。


「これもうディオスより強いよな……」


 一撃の火力こそ及ばないものの。

 効果範囲、汎用性、防御力。

 それらすべてが、最強の勇者と呼ばれたディオスを上回っている。


 なにより、安い魔石でも戦える燃費の良さがすばらしい。

 その点ディオスはひどかった。

 100万ゴルド分の魔力を、一発で全消費してたからな。

 これなら今後も安心して、もっと強い魔物で稼げそうだ。


「あわわわわわわ……」


「な、なんだよあれ、信じられねえ……」


「あんなやつに俺たち、なんてことを……」


 チンピラたちはおびえまくっていた。

 オークの群れを見た時よりひどい。

 どんな相手にケンカを売ったのか、やっと理解できたらしい。


「ちぇー、ちょっと逃がしちゃった。

 やっぱりすぐ逃げるよね、あいつら」


 のんきな声。

 真っ赤なアルメア。

 ハイオークのでかい死体を、片手で引きずりながらのご帰還。

 肩に乗ってる臓物を、うっとおしげに払った。

 (はらわた)を落としつつ、()に落ちない表情。

 絵面がスプラッターなんだよなあ。


「あ……あああ……」


 腰を抜かすチンピラたち。

 それこそ女子のように内股になりつつ、身を寄せあっている。

 仮にもオークを倒してる連中である。

 だが、アルメアの前ではこの有様だった。


「ボク、まだちょっと殺したりないなあ」


「ひえええええっ!」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」


「もう生意気言いません! 謝ります! だから殺さないで!」


「なにが?」


 泣きながらひれ伏した。

 完全に、ヤバい化け物に対する反応だった。


「あー、ひょっとしてソウマ、なにか怖いこと言って脅したんでしょ」


「お前だよ!」


「え、ボクなんにもしてないけど。普通に戦っただけだよ?」


「普通の冒険者はこんな地獄作れないんだよなあ」


 きょろきょろ。

 地獄絵図を見渡すアルメア。


「……えへへ」


 可愛く笑った。

 でも全然可愛くなかった。

 ていうかホラーだった。


 魔力の切れた槍衾が、さらさらと崩れていく。

 穴だらけのオークの死体が、あとに残る。

 さすがにふたりでは運びきれないな。

 ひいひい泣いてるこの連中に運ばせるか。

 もちろん50万ゴルドも確実に取り立てる。


「こんなに魔物を殺せたの初めてだよ。うれしい!」


「お前はなんか心の病でもわずらってるのか……?」


「だって魔物がいなくなれば、みんなを助けることになるでしょ」


「……ああ、なるほど」


 理解できた。

 ヤバい性癖の持ち主なのかと誤解してたが。

 アルメアとしては、一貫した目的のための行動にすぎないわけだ。

 勇気があって戦いが怖くないから、ひとを助けるよろこびだけがあると。


「こんなことができたのも、みんなソウマのおかげだね!

 むしろ、ソウマが全部これをやったと言っていいよね!」


「断固ちがうからな」


 そこだけはきっぱりと、自分の名誉のために強調した。

「面白かった」

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