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8 仲間の価値 (1)

『危険度大! 負傷手当なし! 命惜しむな名を惜しめ!』


 勇ましくも無責任な煽り文句。

 それが見出しとして、でかでかと板に刻まれている。

 その下には無数の張り紙。

 俺はそれを見ながら、迷っていた。


「安いのばっかりだな」


 冒険者ギルドの建物は、一階のギルド受付と、二階の吹き抜けを囲んだ酒場に分かれている。

 そして一階の壁に設置された、依頼掲示板。

 今日もそこには、数多くのクエストが張り出されていた。


 その中でひときわ目立っている、大きな見出し。

 警告色である赤い紙に書かれたクエスト。

 魔物討伐。


「そうだねー」


 隣ではアルメアが、いっしょに張り紙を見ている。


 どれにしたものか、迷う。

 割のいいのがない。

 危険度が高いくせに、報酬額は安いものばかりだ。


「アルメア、そっちはどうだ? 謎のカバンを王都広場に置いてくるだけで1億ゴルドもらえる依頼とかなかったか?」


「うん、なくて本当に良かったと思うな」


「そうやって大金を手に入れれば、商売を始めるという手もあるんだが」


「それでなれるのは商人じゃなくて賞金首だと思うよ」


 まあ本当にあっても受けないが。

 犯罪に加担するリスクなんてあったら、本末転倒だ。


「もー。冗談言ってないで、ちゃんと探そうよ」


「冗談のひとつも言いたくなるだろ。

 楽して大金とはいかなくても、もう少しマシに稼げる依頼を出してほしいもんだ」


「……ね、ボクこれがいいと思うんだけど。近いし」


「どれどれ。

 ……オークの群れの討伐か」


 アルメアが指し示した、ひとつの依頼。

 近隣の森で目撃された、オークの集団の偵察ないし討伐。

 数は約20匹。

 近くで発見されただけあって、日帰りできる距離だ。確かに近い。

 そしてこの中では、一番危険度が高い。

 報酬も一番高いが、誤差レベル。

 まだ具体的な被害が出ていないんだろう。

 難易度と金額が、明らかに見合っていない。

 が。


「近いってことは、放っておくと町が危ないってことだよね?」


 アルメアは、まっすぐにそう言った。

 そう言われると断れない。


「ふーむ」


 昨日の様子からしても、アルメアがオークごときに後れを取ることはないだろう。

 森の中なら、鉄の壁を出せば逃げるのも簡単だ。

 考え終わってうなずく。


「……ま、これが一番高いしな。やるか」


「うん!」


 依頼票をはがし、手に取る。

 これを受付に持っていくことで、受注申請となる。

 その前に、パーティ結成の手続きも必要だ。

 昨日は町に帰ってから、すぐに解散したからな。


 受付のほうを見ると、どこも長蛇の列。


「いっぱい並んでるね」


「しょうがない、少し待とう」


 適当なところに並ぼうとする。

 そこにぱたぱたぱた、となにか聞こえてきた。

 足音だ。

 近づいてくる。


「こっちぃ! こっちですぅ~!」


 見たことのない、メガネの金髪女性だった。

 耳が長く、整った容貌。

 エルフか。

 非常に大きな胸がギルドの制服を押し上げ、走るたびに弾んでいた。


「きゅっ!」


 あ、こけた。

 しかし不屈、めげずに立ち上がる。

 すその汚れを払って。

 俺たちに声をかけてきた。


「あ、あのぉ、そちらのおふたり様! こ、こちらへどうぞぉ~!」


 この町のギルドはひさしぶりだが、やはり見覚えがない相手だ。

 おそらく新人のギルド員だろう。

 案内されるまま近づく。

 彼女は小さいテーブルを取り出し、臨時カウンターとした。

 初々しい様子で、深々とおじぎ。


「お待たせしましたぁ! 受付担当のフェリシアですぅ!

 新人ですけど、よろしくおねがいしますぅ!」


「ああ、よろしく」


「よろしくお願いします!」


「そ、それではぁ……」


 慌てながら、ぺぺぺっと手元の書類をめくる。


「えぇと、ソ、ソウマさんですよねぇ?

 以前は光の勇者様のパーティの、ポーターとしてご活躍されてたそうで……」


「そうだ。ディオスからはもう聞いてるのか?」


「はい。その……記録では、きのうの午後に申告を受けたようですぅ。けどぉ……」


 昨日なら、別れて本当にすぐだな。

 俺を追放したことを、一刻も早く喧伝したかったんだろう。

 しかしなぜかフェリシアの歯切れが悪い。

 嫌な予感がした。


「それでその、申告の際になにやら、ソウマさんがついほ……あわわわ。

 独立なさった理由を、『パーティのお金を盗んだから』とか、『言うことを聞かずに足を引っぱり続けたから』とか言ったらしくてですねぇ……」


「あいつら……」


 根も葉もない話だった。

 俺は金を盗んだことなんか一度もない。

 それに言うことを聞かなかったのは俺じゃなくて、むしろディオスだ。

 嘘をついて、俺が今後冒険者として活動しづらいようにしやがったのか。


 なぜそんな嘘をついたのか。

 その理由は、考えるまでもない。

 ディオスの性格が悪いからだ。


 あいつは昔から、他人を虐げてよろこぶようなところがあった。

 店の人間に横柄な態度をとるとか。

 村人を見下すとか。

 そういったことはしょっちゅうだった。

 他人を劣るものとすることで、自分の価値を相対的に高めようとする悪癖だ。

 いくら俺がいさめようとも、まったく聞く耳を持たなかった。


 それで今度は、必要なくなった俺を標的にした。

 そういうことか。


「あ、あの、ソウマさぁん! 気を落とさないでくださいねぇ!」


 というか、見ず知らずの受付嬢に心配されるとか。

 どんだけボロクソ言ったんだよ。


「ソウマさんの価値をわかってくれるひとは、きっといますっ! だいじょうぶですぅっ!」


 ぶんぶん、と腕を振るフェリシア。

 大きな胸も上下運動。

 周りの男どもが、思わず目で追っている。


「たとえ他のパーティからの募集が少なくても、気にしちゃだめですよぉ!」


 気にしているのは募集ではなく巨乳だった。


「むー……ソウマ、どこ見てるの?」


「いや、新人のギルド員だからな。よく顔を見ておかないと」


「つまり新しい女のひとが気になるんだね」


「なんかやけにからんでくるな……」


 まあ、今はギルドへの申請だ。


「ごほん……フェリシア、心配はありがたいが。

 今日は新しい仲間とパーティを組みにきたんだ。このアルメアとな」


「あぁ~、そうでしたかぁ! それは良かったですぅ!」


 ぱっと笑う。

 本当に心配してくれていたようだ。


「それでは、新パーティのご結成ですねぇ。メンバーはおふたりだけでよろしいですかぁ?」


「はい!」


「うけたまわりましたぁ」


 アルメアがうれしそうに返事をする。

 今までずっと、ひとりきりで活動していたらしいし。

 ここの冒険者も見る目がないな。


「あと、この依頼もさっそく受注したい」


「オーク討伐……ですかぁ?

 あの、数が少し多いようですけどぉ」


「心配しなくても、俺たちなら問題は……」


「おい見ろよ! ゴミ勇者があんな依頼受けてるぜ!」


 悪意ある声。


「ギャハハハッ! 女のくせに身の程知らずだよな!」


「女なんざ、いざとなりゃ泣いて逃げだす臆病者なのによお」


「そんな臆病者が勇者を名乗ってるんだから、笑えるぜ!」


「ちがいねえや! ギャッハッハッハ!」


 同一パーティらしき、5人の冒険者たち。

 ニヤニヤ笑いながら、アルメアを罵倒している、

 冒険者というより町のチンピラだ。

 俺は顔をしかめた。


「アルメア、知りあいか?」


「ううん。けど、前も突っかかられたことはあるかな。

 ボクが女なのが気に入らないみたい」


「なるほど、あいつら新人か」


「わかるの?」


「そりゃあな」


 ひと目でわかる。

 見ればまだ年若い。

 装備も革鎧などの安物。

 髪を剃ったり、カラフルに染めたり。


 それに常識も知らないようだ。

 高ランクの冒険者には、女性も多い。

 肉体的な強さを、身体強化魔法で補えるからだ。


 地元で好き勝手やってたガキどもが、最近冒険者になったってところか。

 まあよくいる連中だ。


「…………」


 とはいえ気に入らない。

 アルメア本人は気にしてないようだが。

 せっかくの勇者という肩書に、泥を塗られるのは損だ。

 これじゃ儲け話も寄ってこないだろう。

 なので。


「おい、そこの初心者(ノービス)ども」


 連中に声をかけた。

 せいぜい挑発的に言ってみる。


「あ!? なんだてめえ!?」


 案の定、猿のように目をむいて。

 こっちにガンを飛ばしてきた。


 だがまったく圧力がない。

 しょせんはまともな村か町で粋がってた程度の不良。

 マフィアの抗争が日常だったスラムとは、比べるべくもない。


「どっちが本当の臆病者なのか。それを教えてやるよ」

「面白かった」

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