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7 嘲笑ディオス [三人称視点] (2)

 気分よく食事を終えたディオス一行は、冒険者ギルドをおとずれた。

 酔いの残った赤ら顔で、依頼ボードを見る。


「チッ、ロクな依頼がないな。

 どれもこれも、この歴代最強の勇者ディオスにとって簡単すぎるものばかりではないか」


「キャハハ! べつにどれでもいーじゃん!

 どーせこんな田舎のクエストなんて、S級パーティのあたしたちが苦戦するわけないんだし!」


「まあ確かに、このディオスがひとたび出陣すればどんな魔物だろうが瞬殺してしまう以上、どれでも変わらんとは言えるだろうな! クハハハハハハハ!!」


 レストランと同じように、バカ笑いするディオス。

 しかし今度は、誰もディオスを見てはいなかった。


「つか、なんか騒がしくね?」


「うるさくて当然よ。見なさい、どっかのバカなパーティがしくじったらしいわよ」


 人だかり。

 中心には、何人かの冒険者たち

 折れた剣に壊れた鎧。

 敗走したと、ひと目でわかる。

 ひときわ体の大きな牛獣人が、特にひどいケガで倒れていた。

 ギルド員たちが慌てて、彼に応急処置をほどこしている。


「うう……」


「し、しっかりしてくださぁい! 今医務室に運びますからぁ!」


 メガネのギルド受付嬢が、涙目ではげまそうとしている。


「たのむ! なんとか治してやってくれ!」


「こいつは俺たちを逃がすために、身体を張って守ってくれたんだ……。

 バ、バカなことしやがって……!」


 泣き出す冒険者。

 牛獣人の献身に、深い恩義を感じての言葉だった。


「ほう、竜種でも出てきたのか? もしそうなら、この私の名声をより高められるが……」


 うれしそうにニヤつくディオス。

 話に耳を傾ける。


「森でオークの群れに、いきなり出くわしたんだ!」


「20匹はいやがった! そんな数、俺たちだけじゃとても……」


「……クッ、クハハハハハハ! オークだと!?」


 話を割って、ディオスは笑った。

 今度は誰もが、その笑い声に注目する。


「どんな手ごわい魔物かと思って聞けば、たかがオーク相手に逃げ帰ってきたとはな! とんだ期待外れだ!

 しかも公衆の面前でめそめそと泣きだすなど、貴様らそれでも冒険者か!?

 まったく、無能というほかない劣等者どもだ!」


 それはもう、嬉々としてそう言った。

 生来の整った顔立ちが、優越感で醜く歪み切っている。


「ディ、ディオスさん、なんてこと言うんですかぁ!?

 生きて情報を持ち帰ってくれたひとたちに、そんなひどいこと言うなんてぇ……!」


 受付嬢が、非難の声を上げる。


「ひどいだと? そんなわけがあるか! 正しく適正な評価だ!

 魔物と刺しちがえることもせず、おめおめと負け恥をさらしているのだぞ? いくら罵倒しようが足りないほどのブザマさだろうが!

 特にそこの獣人!」


 指さす。

 仲間を守っていたという、牛獣人。


「魔法も使えない劣等種が、身の程をわきまえず戦いの場に出るからそうなる!

 傷とは劣った者の証! この私ならばどのような敵であっても、最強の勇者魔法によってかすり傷ひとつ負わず完勝できるのだ!

 そのような傷だらけの有様をさらすくらいなら、私であればすぐさま自害するだろうよ! クハハハハハハハ!!」


「…………」


 獣人の冒険者は、悔しそうに歯噛みした。

 やがて担架で運ばれていく。

 仲間の冒険者たちも、つきそって出ていった。

 険しい視線を、ディオスに向けながら。


「クハハハハッ……!」


 ディオスはそんな冒険者たちの様子を、むしろ心地よく楽しむ。

 負け惜しみで向けられる憎悪は、彼にとって快楽ですらあった。


「さて……おい、女」


「わ、私ですかぁ?」


「貴様に仕事を申しつけてやる! 依頼受注の手続きだ!

 今からこの歴代最強の勇者ディオス・カーラントが、そのオークどもを楽勝で狩りつくして優等者の力というものを思い知らせてやる! クハハハハハハ!!」


「えーとぉ……。残念ですが、お受けできませぇん」


「なんだと!?」


「依頼の発行は処理の関係で、発見報告の翌日以降となりますぅ。先ほどのかたがたの聞き取りも、まだ終わってませんしぃ」


「チッ! そんな重要なことは事前に告知しておけ! まったく、使えないギルドめ!」


「その、冒険者ならみなさん知ってると思うんですけどぉ……」


「なにか言ったか!?」


「い、いえぇ!」


 フン、と鼻を鳴らすディオス。

 依頼票を一枚はがす。

 受付嬢の顔へ、乱暴に投げつけた。


「わぷっ」


「ならば、この討伐依頼だ! ゴミみたいな依頼ではあるが、これで妥協しておいてやろう!

 適当な案内人も手配しておけよ!」


「キャハハ、ゴブリンじゃん! こんなクソザコ相手にすんのひさしぶりー!」


「てかこの谷、フツーに遠くね? こんなとこまで鎧着て行くのダルくね?」


「クハハハ! バカなことを言うな、こんな下等な魔物討伐に重い鎧など不要だろうが!」


「それが当然ね! 私たちみたいなベテランの冒険者に、グズグズ準備する必要なんてどこにもないわ!」


「そのとおりだ!

 これまではあのクズ加護が準備などと言って、毎回もたもたと出発を先延ばしにさせられていた……。

 が、生まれ変わった光の勇者のパーティは、そのような劣等者の愚かな判断による無駄は一切省く!

 迅速な行動による効率的な依頼達成によって、このディオス・カーラントの名声は爆発的に高まっていくこととなるだろう! クハハハハハハ!」


 そうしてディオスたちは、上機嫌に町を出発した。

 ほとんど着の身着のまま。

 しかも酒を飲み歩きながら。


 その心地よい酔いが覚めるのも、もうすぐの話である。

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