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54 そして新たな始まり (2)

「キャハハハ! クズ加護のクセに、ホントに勇者になったみたいじゃん!」


「ポーターごときが勇者に出世するとか、今まで聞いたことなくね?」


「鉄の勇者だって元々ド田舎の村娘じゃない。これくらい当然よ」


 それはキチの顔ぶれだった。

 魔女マギリン、女騎士ヘルメ、女僧侶クルシャ。

 ディオスに寄生していた取り巻きども。

 お前マジでどういうことだよ。


 俺のパーティメンバーの話をしていたら、こいつらが出てきた。

 これが意味することとは?


「おい……まさか」


「…………」


「もしかしてひょっとしたら、いくらなんでもとは思いつつ、一応確認させてもらうんだが……。

 よもやこいつらと新たなパーティを組め、なんてふざけたこと抜かさねえだろうな!? ああん!?

 おいこら目をそらすなジジイ!!」


 俺は騎士団長の胸倉をつかみ上げた。

 かたくなに目を合わさない騎士団長。


「ほらー、ディオスが捕まったじゃん? それはどーでもいいんだけど、なんかあたしまで同類だって見られちゃってるの! わけわかんない!」


「あんなのといっしょにされるとか激ヤバだし。あーしなんも悪いことしてなくね?」


「このままじゃ私まで辺境送りになっちゃうのよ。そんなの当然お断りじゃない? で、あんたの仲間になってあげようと思ったわけ」


「キャハハハ! あんただって信頼できる仲間が増えるんだからWIN-WINじゃん!」


「あんたは今までどおりひとりで戦う。あーしも今までどおりついていくだけ。なんも問題なくね?」


「ああ、ディオスの代わりなんだから、当然贅沢はさせてもらうわよ。生活水準下げるなんて、考えただけでおぞましすぎるものね」


 あいかわらずひっどいな!


「ジジイボケてんのか! なんで俺のパーティはこれでOKだと思ったんだよ! そこらの犬でも拾ったほうが万倍マシだろ!」


「ち、違うのだ! お前のパーティメンバーを強制するつもりなどない!

 ただこやつらが、自信満々に立候補してきてな? 『元は同じパーティだから気心も知れている』などと言われては、ワシとしても連れてこざるを得なくてだな……」


 イケメン三騎士もあぜんとしていた。

 大口開けておどろいてる。

 やがて俺に、精いっぱいの愛想笑いを浮かべてきた。


「か、彼女たちがソウマどのの信頼する仲間なのですか……?」


「金を出してついてきてもらうだけ……?」


「なるほど……。金銭を大事にするからには、金銭で買ういかがわしい関係も大事だと。つまりそういうことですね?」


「お前ら俺を侮辱しすぎだろ」


 気づかいは時として俺を傷つけた。


「キャハハ! クソ弱いディオスがいなくなったんだから、このパーティも今までよりずっと強くなるじゃん! それってつまり、あたしがもっともっと有名になれるってことじゃん!」


「古竜を倒したクズ加護の仲間なら、あーしも古竜を倒したってことになるんじゃね? ドラゴンスレイヤーとして歴史に名が残るとかウザいんだけと、まあしょーがねー的な?」


「そうなったら当然、私にいろんな縁談が山ほどくるわね! もちろん王族以外はお断りに決まってるんだけど!」


 勇者ディオスの負の遺産ども。

 突飛でハッピーな願望をキャピキャピとのたまってきた。

 鉄面皮だと思った。


「夢見がちで夢見すぎなこんな女どもといっしょに、夢のドリームチームを結成しろと? この俺に?」


「ワシも正直すまないと思っておる」


「ごめんで済むなら騎士団はいらねえんだよ!」


「ま、まあ、この女どものことはともかく。

 これからはお前も勇者だ。古竜を倒した勇者であるお前の仲間になりたいという冒険者は、星の数ほどもいるだろう。

 勇者アルメアとの別れは残念だろうが、なに、条件のいい者をこれからいくらでも選べばよいのだ!」


「…………」


 確かに、悪くない話ではある。

 ディオスに追放された直後の俺なら、飛びついただろう。


「さらに、勇者認定を受けた冒険者のランクは、無条件でSへ昇格となる。

 つまりこれでお前は、Zランクという不名誉な肩書きから解放されるのだぞ!」


 そういや、ギルドマスターが言ってたな。

 Zランクから昇格させるために、陛下の協力を取りつける、と。

 それがこれか。

 俺を王都へ呼び出した最初から、勇者にすることを検討してたわけだ。

 だからゼルバルドは、高すぎる評価に疑念を持っていたと。


 勇者の認定による、数々の利点。

 それは理解できる。

 だが……。


「……どうしたのソウマ! もっとよろこびなよ、勇者になれるんだよ!?」


 アルメアの明るい声。

 急に。


「アルメア。お前はこれがうれしいのか?

 ひとつのパーティに勇者はひとりきり。つまり俺とお前は、パーティを組めなくなるんだぞ」


「そんなの、うれしいに決まってるよ! だって、ソウマがちゃんと評価してもらえたんだから!

 ほら、ボクずっと言ってたじゃないか! ソウマがSランクじゃないなんておかしいって! まったく、みんな気づくの遅すぎだよ!」


 まくし立ててくる。


「でもこれからは勇者のライバル同士だね! あ、もちろん敵になるとかじゃなくて、いい意味で競争していきたいっていうか!

 これからは、あ……会えなくなっちゃうかもだけど! おたがいがんばって、魔物を倒していこうね!

 え、えへへ……!」


 そう笑って。

 アルメアは俺に、背中を向けた。

 肩が少し震えている。

 勇者アルメアのふるまいは、いつでも素直でまっすぐで。

 やっぱり今も、下手な嘘しかつけていなかった。


 そんなアルメアを見たことで。

 俺の気持ちは、完全に固まった。


「陛下、申し上げます」


 俺は陛下に声をかけた。

 なにごとかと衆目が集まる。

 こちらを見つめる国王陛下に、視線を返す俺。


「どうした? 何か言いたいことがあるのか、新たなる勇者ソウマよ」


「俺勇者やりたくないんで、辞退します!」


 しんとする場。

 兵士が紙吹雪のかごを、ばさりと落として。

 一拍後。


「「「えええええええええっ!?」」」


 悲鳴みたいな大声。

 思わず振り向いたアルメアも。

 国王も騎士団長も、貴族も兵士も。

 一同そろって、にわかに騒がしくなっていく。


 ゼルバルドが詰めよってくる。


「い、いかん! それはいかんぞ!

 お前のSランク昇格は、あくまで勇者の名があってのものなのだ! この話を断れば、お前はこれからもZランクなどというバカげた肩書きで冒険者を続けなければならなくなるのだぞ!

 そんな不名誉に耐えられるというのか!?」


「だから俺は、そういうのどうでもいいんだって」


 騎士団長絶句。

 いい意味で。

 いい意味だよな?


「ど、どーして!? せっかく勇者になれるチャンスじゃん! 信じらんない!」


「このままZランクでいいとか、マジでバカじゃね!?」


「ここは当然、ハイって答えるところでしょ!? なんでよ! 断ってあんたになんの得があるのよ!」


 一番やかましくわめき散らす、取り巻きども。

 目をひん剥いての批判。

 どいつの顔も、予想以上に面白かった。


 喧騒が大きくなっていく。

 貴族たちは、無礼だの身の程知らずだの言いたい放題。

 さっきまでの愛想笑いは消え失せていた。

 貴族のディオスの代わりが、スラム出身の俺。

 内心では面白くなかったにちがいない。


 どうでもいい連中の、どうでもいい敵意。

 笑って受け流してやった。


 と。

 どうでもよくない相手が、俺の前に立つ。

 アルメア。


「ソ、ソウマ……どうして?」


 アルメアの震える声。

 それに対して俺は、当然のことを答えてやる。


「どうしてって。

 勇者になったら、俺が大損こいちまうだろ。俺は稼ぐために冒険者やってんだよ」


「ソウマよ。損とはどういうことだ?」


 国王陛下。

 騒ぐ貴族どもを、視線で黙らせて。

 静かになった謁見の間で、俺に問いかけてきた。


「そなたが名誉や他人の目を気にせぬことはわかった。

 だが、それでも勇者になって損などあるまい。金銭を稼ぐのが目的と言うのならば、むしろ勇者の肩書きを持っていたほうが、今よりずっと金銭を稼ぎやすくなるのではないか?」


「もし勇者になってしまったら、肩書きなんかよりずっと価値のある元手を失いますから」


「その元手とはなんだ?」


「仲間です」


「……っ!!」


 アルメアの、息を飲む気配。

 かすかな呼気音が震えていた。

「面白かった」

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― 新着の感想 ―
[一言] 元々、古龍の魔石を使った理由は、アルメアを助ける為に使ったんだもんな。 勇者と仲間のどちらを取るかと言われたら、大抵の人は「勇者」と答えると思う。けれども、元仲間から追放された、ソウマは「…
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