53 そして新たな始まり (1)
さわやかな風が吹き渡り、明るい日差しに誰もが希望を持つような翌日。
神前試合に続き、国を挙げての盛大なイベントが行われた。
市中引き回しの刑である。
主賓はディオス・カーラント氏。
みすぼらしい囚人服で、後ろ手に縛られ。
馬に乗せられ兵に囲まれ。
罪状を書かれた、たくさんののぼりにも囲まれて。
それはもうねっとりと、城下の町をねり歩かされていた。
このイベントは大成功。
ディオスの姿を見た王国民の誰もが、大きな歓声をあげた。
「卑怯者! 人質で脅すなんて信じられない!」
「生まれで差別してんじゃねえよ! 王国の恥さらしめ!」
「クソ勇者! うんこ勇者!」
歓声というか怒号だった。
観客の中には興奮して、一行の前に飛び出すやつまでいた。
レストランから出てきた、ウェイターらしき男。
涙ながらに訴える。
「待ってください!
兵隊の皆様、どうか彼を馬から降ろしてください!」
「なんだ貴様は! 公務を邪魔するならば容赦せんぞ!」
「だって馬に乗せてたら、私が彼を殴れないじゃないですか!」
「よォし許可する! ただちに罪人を馬から降ろせ!」
「ひいいい!」
悲鳴を上げるディオス。
でも誰も同情しない。
のぼりのひとつに『王都のレストランにて過度の暴行と無銭飲食』などと書かれていたからだ。
調査した結果、ディオスにはこんな余罪がもりもり出てきていた。
そのため、罪状のぼりも尋常な数じゃない。
聞けばこれを持つためだけに、3倍以上の臨時増員をしたらしい。
兵士たちが、きびきびとディオスを羽交いじめ。
隊長が親指を下に向けて『GO!』と合図。
ウェイターは渾身のオーバースローで、酒瓶を投げつけた。
「ドラァァァ!!」
「ウギャーッ!!」
ディオスの顔面で砕け散る酒瓶。
王都の人々から喝采が上がる。
そういや俺もディオスに同じことされたな。
ディオスは今誰よりも、因果応報を体現していた。
ディオス因果・カーラント応報だった。
もしディオスが勇者に相応しい行状だったなら。
人々は物を投げつけたりなどせず、むしろ減刑を嘆願したかもしれない。
そういう意味では、その卑しさにふさわしい罰である。
そんな感じで、王都の民たちは。
憂いのなくなった新しい日々の始まりを、さわやかによろこびあったのだった。
――・――
そして今。
俺とアルメアは、再び城内にいた。
謁見の間。
勇者の天剣を描いた国旗。
それを背に、玉座へと座す国王。
でもなんか、いつもより人間が多い気がする。
国王の隣には、騎士団長ゼルバルド。
それに加えて、宰相だか大臣だかの貴族が数十人。
兵士も多いな。ラッパを持ってるから軍楽隊だろう。
あのピカピカの鎧には、果たしていくらの値がついているのか。
見ていると、ゼルバルドがうれしそうに笑った。
「なんだ、あの鎧が欲しいのか? なんならすぐに手配してもよいぞ! もちろん指揮官仕様の特別製をな!」
「軍人にはならねえって言っただろ」
「そうは言うがな……お前を一介の冒険者にしておくのは、あまりに惜しかろう。
我が王国軍であれば、騎士団の精鋭を集めた最強の部隊をお前に率いさせることができる!
勇者同士でのパーティすら組ませないという、不自由な冒険者ギルドなどとはちがってな!」
言わんとすることはわかる。
俺の再利用魔法は、支援対象が強くて多いほど真価を発揮する。
なのに冒険者ギルドには、パーティごとの戦力を分散させる思惑がある。
確かに適してはいない。
「へえ。それで、俺の給料はどうなるんだ」
「むろん、借金などすぐに返せるほどの高給を保証しよう!」
「そうなったらすぐに軍を辞めるが、いいのか?」
「うっ……」
再利用魔法ありきの軍改編をした後で、俺に辞められては困るだろう。
俺の忠誠が王国軍にない以上、どうしようもない話なのだ。
「……うわっははははは!」
だがゼルバルドは、快活に笑った。
「それをわざわざ教えてくれるとはな! 黙って給料をもらっておけばいいものを!」
「俺は金を稼ぎたいんであって、詐欺を働きたいわけじゃないんだよ」
「やはり惜しい! その力も誇りも、どうにかして王国のために……」
さらに話を続けようとしたところで。
国王が、ゼルバルドに目を向けた。
「ひかえよゼルバルド。
何のために私が、この者たちを呼んだと思っておる」
「失礼いたしました、陛下」
国王がたしなめる。
が、言葉の割には笑っていた。
二者そろって、なんか企んでる顔である。
「それで結局、何のために俺を呼んだんですか」
一応敬語。
「うむ……。本題の前に、まずはディオスについてだ……。
あの者の今後の処遇を話しておこうと思ってな」
その名前を言うだけで、王様はしかめ面。
だいぶ嫌ってるな。
ゼルバルドが、説明を引き継ぐ。
「知ってのとおり、市中引き回しとはあくまで付加刑。本刑は隷属の首輪をつけさせ、今後20年間にわたって辺境の魔物を討伐させることになっておる。
死刑も考えたが、あやつの魔法は強力である。それを人々のために活かしてこそ、数々の蛮行の帳尻をあわせられるというものだろう。
なお刑務中の賃金は、古竜の魔石の弁済としてお前たちに支払われることになっておる」
ちなみにゼルバルドからも、すでに迷惑料を受け取っている。
その額1億5千万ゴルド。
ディオスの件の責任を取り、5年分の俸給、15億ゴルドを国庫へ返上したうちの1割だ。
そこでゼルバルドが、「だが」と言葉を区切った。
「ソウマよ。お前が希望するならば、すぐにディオスの首をはねさせることもできるぞ。
さんざん迷惑をかけられてきた身としては、恨みがつのっているのではないか?」
「いや。別にあいつが死んでも、銅貨の一枚にもならないだろ。
だから俺はどうでもいいが……」
さんざん迷惑をかけられた知りあいは、もうひとりいる。
となりにたたずむアルメアに、声をかけた。
「アルメアはどうだ? 辺境に送られる前に、一発くらい殴っておいてもいいんじゃないか?」
「ううん……ボクはいいよ。ソウマの最後のやつでスッキリしたし……」
どうも元気ないな。
血気盛んすぎる、いつものアルメアじゃない。
うつむいて。
なにかを気に病んでいるような。
ゼルバルドの話が終わり。
再び、国王陛下が口を開く。
「では、冒険者ソウマへの褒賞の話だ」
「……!」
びくり、と。
アルメアが震えた。
勇者の名に似つかわしくない、そのおびえた顔はまるで。
どこにでもいる、平凡な少女のようだった。
「誰ひとり犠牲を出さず、悪名高き黄金竜を倒した功績。神前試合にてディオス・カーラントの本性を暴き、その上で圧勝して見せた働き。どちらも極めて大なり。
よって私は、同じく極めて大きな栄誉をもってそれらに報いたいと思う」
そこで、ゼルバルドが手を上げた。
合図。
軍楽隊がラッパを構える。
「ソウマ・レフォルマーレよ! 私の名において、そなたを王国の新たな勇者と認定する!」
王の宣言が、謁見の間に響きわたった。
高らかなるファンファーレ。
兵士のひとりが、せわしなく紙吹雪をふりまいて。
貴族も兵士も大きな拍手。
新たなる勇者の誕生を、全員が笑顔で祝っている。
「…………」
俺のとなりでうつむく、勇者の少女以外は。
「むろん、勇者アルメアにも褒賞を用意してある!」
ゼルバルドが、そう声をかけた。
空気を読めずに。
あるいは、わざと読まずに。
「ひとつのパーティに所属できる勇者はひとりきりだ。
今のパーティは解散し、これからはそれぞれに新しいパーティを率いてもらうことになるわけだが……」
騎士団長の目配せ。
3人の騎士が進み出る。
よく鍛えられた肉体と、精悍で整った顔つき。
若い騎士たちは、アルメアの前にうやうやしくひざまずいた。
「この者たちは、我が騎士団でもよりすぐりの精鋭でな。
国からの支援として、勇者アルメアの配下とするべく手配しておいた」
「……ボクの?」
「人品ともに申し分なく、騎士団の未来を担ってくれるはずだった者たちだ。
ワシとしても失うのは惜しいのだが……アルメアの助けとなるのであれば、涙をのんで送り出そうではないか!」
「勇者様! ご活躍の数々、我らも聞きおよんでおります!」
「神前試合にて見せていただいた勇気! あれこそ勇者の名にふさわしいものだと、一同感服いたしました!
ぜひ御身の配下に加えさせていただきたく、志願した次第です!」
「どうかこれからは、勇者様に我々をお仕えさせてください!」
3人のさわやかイケメン。
礼儀正しく、しかし情熱的な言葉。
その言葉にウソはないように思えた。
「…………。
うん……よろしく」
おだやかなアルメア。
笑顔がまるで作り物のよう。
新しい仲間に向いているはずの目は、どこかうつろだった。
「そしてソウマよ。お前が率いるパーティメンバーだが……。
その……」
ゼルバルドの視線が動く。
目配せというか、目が泳いでいた。
どういうことだよ。
不審を口にしようとした、その時に。
新たな人影が現れた。
3人。
それは既知の顔ぶれだった。
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