52 それを捨てるなんてとんでもない (7)
「もうこの際、王国の騎士団に入ってくれ!
いや、こんな無能のワシの代わりに騎士団長となってはくれぬか! そして王国を守ってゆくのだ! なっ!」
「なっ、じゃねえよ! そんな身分願い下げだ!
人目を気にして、落ちてる金も拾えなくなるだろ!」
騎士団長の笑えない冗談に、そう怒鳴り返す。
そもそも、公務員と言えば聞こえはいいが。
命がけの上、しがらみに縛られて副業も禁止のブラック労働だ。
俺は俺の心のまま、自由に金を稼ぎ続けたい。
騎士団長を辞めさせるのも気が引ける。
こいつはディオスとはちがって、罵倒に私心はなかった。
国やアルメアのために俺を憎んでた、みたいなとこがある。
こういう手合いは嫌いになれない。
「だがソウマよ、気が変わったらいつでも団長の座は譲り渡すぞ!
お前こそは、ワシが真に敬うべき男! 勇者などという肩書きを超えた、真なる勇気を持った冒険者なのだからな!」
「うんうん! これがソウマなんだよ!」
我がことのようによろこぶアルメア。
「ゼルバルド団長の言うとおりだぜ、兄ちゃん!」
「あんた本当にカッコよかったぞ!」
「ソウマの名前、忘れねえからなー!」
観客も続いて、口々に俺を褒めたたえる。
数えきれないほどの人間からの称賛が、俺に向けられていた。
「……はっ!?
もしや今なら、こいつらから追加の見物料を巻き上げられる……!?」
ふと気づく俺。
「ふざけんな! やめろみっともねえ!」
「あんた本当にカッコ悪いぞ!」
「悪い意味で忘れらんねえヤツだな!」
なぜか罵倒が返ってきた。
「うるせえ! こんだけ痛い目見た俺が、少しくらい稼ごうとしてなにが悪い!」
「うん……これがソウマだよね……」
我がことのように恥じ入るアルメア。
「騎士団長の言うとおりだ」
国王が、俺の話をスルーしつつそう言った。
「冒険者ソウマよ。そなたの戦い、しかと見せてもらった。
歴代のどの勇者にも引けを取らない、勇気ある戦いであったぞ。そなたのような者が魔物と戦い、人々を守ってくれているという事実を、私は心から幸運に思う」
「王様、ありがとうございます!」
笑顔のアルメア。
よく知らんヒゲのおっさんの褒め言葉より、そっちのほうがうれしかった。
「それに引きかえ……ディオスよ!」
一転。
眉を吊り上げ、叱責する国王。
「びえっ……」
鼻がつぶれたディオスの、情けない声。
取り巻きの女たちも、死んだような顔色でふるえている。
「ソウマは恥ずかしくない戦いを見せてくれたが、お前は恥を知らない戦いを見せてくれたな!
よもやお前のような者に、勇者の称号を認めてしまうとは……!」
「お、お言葉ですが王よ! この私がただ今不覚を取ったのは、そこのクズ加護ではなく古竜の魔石に対してです!
決してこの歴代最強の勇者が、賤民などに敗北したわけでは……」
「誰がいつ、敗北したことなどを責めたか!?」
「な、なんと……!?
ではなぜ、この勇者にして伯爵たるディオス・カーラントをお責めになるのですか!?」
「賄賂! 誘拐! 監禁! 人質! どれを取っても勇者にあるまじき重犯罪であろう!
まだそこいらの山賊のほうが、差別をしないだけ品があるわ!!」
ノリツッコミみたいになってきた。
陛下ブチ切れすぎ。
「なれどそのような些事! 優れた貴族にして勇者たるこの私が勝つためならば、どうでもいいことでしょう!?
おそらくご存じないのでしょうが、そのクズ加護はスラム出身なのですよ!?」
「だからその物言いをとがめているのだ!
勇者が戦う理由は第一に、民を守るためであろう!」
「もちろんそうです! なにを言っておられるのですか!?
まさか賤民も守れなどと言うわけではないでしょう!?」
「…………」
本気でわからない様子のディオス。
空気を読む能力すらない。
絶句する王様。
既視感のあるやり取りだった。
俺とアルメア、遠い目。
我らが国王陛下は、わなわな震えて。
杖をディオスに突きつけた。
「ええい、もうよいわ!!
ディオス・カーラントよ! 私の名においてお前から、勇者の資格を永久に剥奪する!!」
「ギャアアアアアアアアアアッ!?」
ディオスは悲鳴を絶叫。
ものすごく驚いたようだった。
今、そんな驚くとこあったかな。
「お、お、お……お待ちください王よッ!!
民の上に立つ者は勝たねばならぬのが、この世の理ではありませんか!? このディオスとてそのためにやむを得ず、心を痛めながら成したこと!!
全ては勝利のため、ひいては陛下のために成したことなのですッッ!!」
「これ以上私の名を貶めるなっ!?」
真摯に訴えたつもり。
「ええい、早くこの痴れ者を牢へ連れていけっ!
その卑しさにふさわしい罰を、これからじっくりと考えてやる!」
「ならば陛下、どうかワシや民たちの意も汲んでいただけますよう。勇者は国の一大事でありますゆえ」
「こーろーせ!!」
「こーろーせ!!」
「こーろーせ!!」
観客席唱和。
「おお、お聞きください陛下。民たちのあの声を」
「うむ。みなの正義を愛する心、王としてうれしく思うぞ」
殺せコールに満足げな王様。
「なぜだあ!! この私がこんなああ!! なぜだああああああああっ!!」
「おい暴れるな!」
縄でひっ捕らえられ、引きずられていくディオス。
なにしろ今回は、国王のメンツを派手に粉砕したからな。
誤解してかばってくれるような人間も、もういない。
今度こそ、生半可な処分では済まされないだろう。
これでようやく終わった。
あの光の勇者との、因縁が。
――・――
それからはすぐに、閉幕が宣言されて。
退屈ないくつかの行程ののち。
ようやく、帰っていいことになった。
だいぶ疲れた。
頭も回らなくなってきている。
早く帰って、とにかくゆっくり寝たい。
去り際。
なにやらぼそぼそと、耳に入ってきた。
国王と騎士団長の会話。
「……ゼルバルドよ。これで勇者が、ひとり減ってしまったわけだが。
国のためにも世界のためにも、早急に補充をせねばならんな?」
「そうですな。
ですがご安心ください。すでにこの老骨が、ふさわしい若者へ目星をつけております」
「ほう、それは奇遇なことだ。私にも、ぜひこの者にと思う候補がある。
冒険者ギルドからの推薦は正しかったと、そういうことだな」
「えっ……」
なぜか呆然とするアルメア。
なんか知らんが、俺は無関係だろ。
そうやって聞き流して。
その日はとっとと宿へ帰り、爆睡したのだった。
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