51 それを捨てるなんてとんでもない (6)
魔石がきらめく砂塵となって、崩れていく。
俺はそれを、いつもきれいだと思っていた。
まして今回は、20億ゴルドの極上品。
その滅びが、美しくないはずはなかった。
大気を引き裂く轟音。
膨大なエネルギーの柱。
地から天へと沸き立つような、魔力の奔流。
檻の赤水晶が、狂喜に脈打って。
欲深くすべてを食らおうとし、あっさりと自壊し始めた。
溶けていく水晶。
崩れていく檻。
まぶしい光の中から、飛び出してくる少女。
抱きつかれた。
ひたいを俺の胸にこすりつけて。
「ううっ……くぅっ……うあああっ……」
アルメアは、ぼろぼろ泣いていた。
俺に恩を返したいのだと、昔の俺みたいなことを言った少女。
助けられてよかった。
「おいおい……お前が泣くこたないだろ。
せっかく檻から出られたんだぞ。ほら、笑えって」
「バカ……。バカだよ、ソウマは……。
あともう少しで、借金を返せるはずだったのに……。
なのにボクなんかのために、それを我慢して、棒に振っちゃって……」
「あのな、勘ちがいすんなよ。俺は我慢なんかしてないぞ。
我慢どころか、今は最高の気分なんだよ」
あの借金は、自分の誇りのために背負ったもの。
なのにアルメアを見捨てたら、その誇りまでいっしょに捨てることになるだろう。
俺は、それを捨てるような人間にだけはなりたくなかった。
そして俺はその気持ちが、本物であると証明できた。
10億20億の金よりも価値がある、俺にとって最高の報酬。
こんな晴れがましい気分になれたことはない。
だから。
「むしろ、うれしくてしかたないくらいなんだ。お前を助けることができてな」
そういう自分でいられたことが。
「えっ……」
顔を上げるアルメア。
うるみきった瞳が、俺の目を見つめる。
耳まで赤くなっていく。
おどおど、きょろきょろ。
なんか挙動不審になってきた。
「ク、ク、クズ加護……っ!! 貴様、よくもこの私の魔石をおおおおおおっ!!
【爆轟電】ッッ!!」
盗人猛々しいセリフを吐きながら、呪文を唱えるディオス。
が、もはや回避の必要もない。
妙にふわふわした目つきのアルメアを、胸元に引きよせる。
すぐに、ディオスの魔法が直撃した。
激しい爆炎と衝撃波。
立ちのぼる土煙に、闘技場が静かになり。
その土煙も、すぐに晴れていった。
「クハハハハ、思い知ったか!
……なぁっ!?」
笑うのに失敗し、驚愕するディオス。
飲みかけのマジックポーションが、足元で砕ける。
俺たちは無傷だった。
「「「「「ワアアアアアアアアッ!!」」」」」
「は、ははは……! あやつはなんという……!」
静まった観客が、また沸いた。
ゼルバルドも、ほころぶように笑っている。
古竜の魔石で作った魔力。
檻が吸いきれなかった、その余剰。
それがまだ、俺の身体に残っていた。
ディオスの魔法など、問題なくかき消せるくらいには。
残った魔力は、元の一割ほどだろうか。
俺は手を開いては閉じ。
トントンと軽く跳ねてみた。
身体の重さが羽のようだ。
傷までじわじわと治っていく。
今までの生涯で最大の、魔力による身体強化。
「へっへっへ……」
俺はにんまりと笑った。
たった今できた大きな借りを、どうやら返済できそうだ。
「ま、ま、待て!!
貴様はこの私に恩があるはずだ! 法外な大金で雇ってやっていた恩が! それを忘れたというのか!?」
「俺は金の分以上にきっちり働いていた。だからお前に恩はない、これっぽっちもな」
歴代最低の勇者に向け、構えを取る。
次の俺の攻撃は。
本日最後にして、人生最高の一撃となるだろう。
「や……やめろぉ……。
そんなの卑怯だ、ずるい……反則だぁ……!」
どの口が言うのか。
半泣きのディオス。
滝のような脂汗。
うろたえて、足もガクガクと震えて。
イヤイヤと首を振っていた。
すっかり不細工になった、その顔めがけて。
走り出す!
「エ……【電撃矢】! 【電撃矢】! 【電撃矢】ッ!」
やぶれかぶれな、迎撃の電撃。
すべてが軽く弾かれていく。
「ひああああああっ!? ど、どっ、どうか命だけは……!」
とうとう命乞い。
「やっちまえええ!!」
「クソ勇者をブッ倒してくれえええ!!」
「うおおおおおおおっ!!」
観客席は最高潮。
「ソウマーっ!! そんなやつ、あの世に追放しちゃえぇーっ!!」
内心ブチ切れてたらしいアルメアの、物騒な声援を背に受けて。
さんざん他人を見下しなぶってきた、その顔面に。
目いっぱい拳をふりかぶる。
――金貨2000枚パンチ!!
「どりゃああああああああああああああああああああああ!!」
「ブゲラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
ディオスはそれはもう、きったない悲鳴を上げながら。
ノーバウンドで舞台の上をかっ飛んでいき。
闘技場の外壁に、轟音とともに叩きつけられ。
放射状に砕かれた壁からぼとりと落ちて。
虫のように、地面にひっくり返った。
「あが……あががが……」
白目で泡を吹くディオス。
誰の目にも、戦闘不能は明らかだった。
国王が立ち上がり、宣言する。
「勝者、ソウマ・レフォルマーレ!!」
「「「「「ワアアアアアアアアッ!!」」」」」
再び歓声。
降り注ぐ、万雷の拍手。
「見事だ……! 見事だったぞ、冒険者ソウマ!」
騎士団長ゼルバルド。
戦いの終わった舞台に上がり、俺の前に立つ。
そして。
「すまなかった!」
驚くことに。
俺にひざまずいて、深々と頭を下げてきた。
何万という兵を統べる人間が、たかが一介のポーターに対して。
「おい爺さん、騎士団長が頭なんか下げたらまずいだろ」
「いいや、どうかこの頭を下げさせてくれ! ワシは、何も見えていなかった自分が恥ずかしくてしかたないのだ!
ディオスの卑劣な本性もそうだが、なによりお前が! お前がこれほど誇り高き男だったとはッ!!」
間近での大声。
キーンと耳鳴りさせられる。
顔をしかめざるをえない。
「お前は仲間ひとりを助けるために、10億ゴルドもの大金をふいにして見せたのだぞ! しかもそれを悔いる様子すら見せず、今も平然としているではないか!
そんな人間がこの世にどれほどいる?
その強さ、その誇り高さ! お前こそは、ワシが理想とする騎士の姿そのものだ!」
ごつごつした手で、俺の肩をガシッとつかむ。
「もうこの際、王国の騎士団に入ってくれ!
いや、こんな無能のワシに代わって騎士団長となってはくれぬか! そして王国を守ってゆくのだ! なっ!」
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