50 それを捨てるなんてとんでもない (5)
「「「「「オオオオオオオッ!!」」」」」
観客席が、大きく沸き立つ。
仲間のために戦って死にたい。
そのアルメアの言葉を聞いて、観客が総立ちになった。
本物の勇者を、目の当たりにしたからだ。
「ソウマよ、勇者アルメアの言うとおりにしてやれ! それが情けだ!」
「はあ!?」
ゼルバルド。
その顔はもう、孫に甘い老人ではなかった。
歴戦の武人のもの。
「今生きながらえたとしても、アルメアに待っているのはもはや、無能として生かしてもらうだけの長い余生のみ……。
それは死ぬよりもよほど、残酷な話だとは思わぬか?
ならばせめてこの戦いの場で、勇者として死なせてやるのだ! 固い鉄のごときあの覚悟が、見事だと思うのであれば!」
クソ脳筋め。
てめえの好みなんざ、聞いてねえんだよ。
「そうだ! 騎士団長の言うとおりだっ!」
「本人が望んでるんだ! 死なせてやれよ!」
客どもまで、そんなことを言いだした。
涙ぐんでるやつもいる。
きっとその言葉には、悪意なんかないんだろう。
誰も試合を止めろとは言わない。
ここにいる誰もが、純粋な善意で。
アルメアを殺せと言っている。
この俺に、仲間を捨てろと。
よりによってこの俺に。
観客も、ゼルバルドも。
アルメア本人ですらも。
すべての者が、アルメアを捨てろと、そう言っている。
「さあソウマ! ボクみたいなお荷物は捨てて、好きなように戦ってみせてよ!
それがソウマのためにもなるんだ!」
「俺のため……?」
「そうだよ! ディオスに勝って終われば、ソウマはお金を手に入れられる!
ソウマはなんのために、今までずっと戦ってきたの!? いつも自分で言ってたじゃないか!
それはお金を稼ぐため、借金を返すためだって!!」
そうだ。
今まで俺は確かに。
借金を返済するため、いろいろとやってきた。
ディオスに雇われていたのも。
アルメアとパーティを組んだのも。
こんな場所で、痛い思いをしているのも。
「…………」
受けたダメージで、ふらつく手足。
朦朧とする視界。
立っているだけで、体中が悲鳴を上げている。
今にも気を失ってしまいそうだ。
「……………………」
……俺は痛かったり、苦しかったりした時に。
よく思い出す記憶がある。
スラムの記憶。
10年以上前の、ガキだったころの記憶だ。
その日も俺は、いつものように殴られていた。
物乞いで得られた、わずかな金を狙われて。
当時の俺は、もちろん魔石なんか持ってない。
非力なガキでしかない俺は、大人たちにかなうわけもなく。
銅貨をにぎる指を踏みにじられ。
笑われながら、退屈しのぎに蹴り転がされた。
しかしその日は、いつもとちがうことが起こった。
少々打ちどころが悪かったのだ。
身体が動かないし、声も出ない。
呼吸すらできているか怪しかった。
路上の真ん中で、壊れた人形みたいに引きつる俺。
近所の連中は、そんな様子の俺を見つけると。
迷惑そうな顔をして。
8歳だった俺を、ゴミ捨て場へと放り投げた。
俺は正しく、世界に捨てられたのだった。
激痛と疲労。
空腹と悪臭。
頭がガンガン鳴って。
なにも考えられなくて。
だから、通りがかった誰かに抱き上げられても、すぐにそうとはわからなかった。
俺は働かない頭で。
それを他人事のように、ぼんやりと見つめていた。
その女はなんだか、必死に走ってて。
医者らしき男に、何度も頭を下げ。
大事そうな指輪を売り。
肉がたっぷり入った、あたたかいスープを飲ませてくれた。
……どれくらい眠ったのか。
気がついたら、ベッドの上だった。
すぐに抱きしめられる。
泣きながら。
というかそいつは、初めからずっと泣いていた。
どうやら一睡もしていない顔。
その泣き虫の女は言った。
助けられてよかったと。
俺は聞いてみた。
あんたはなんで、俺をそのまま捨てなかったのかと。
そしたらいっそう泣き始めた。
捨てるなんてとんでもない、と。
つっかえつっかえ、呼吸にあえいでしゃくり上げながら。
捨てられていい子なんて、この世にはいないと。
拾った俺が生きてくれることが、自分のよろこびなんだと。
だからどうか死なないで……と。
そう言って抱きしめてくれた。
あたたかい腕で包みこんで、汚い死にかけのガキなんかを、心から惜しんでくれた……。
「…………」
「ソウマ?」
あの時聞いた言葉のとおりだ。
捨てるなんてとんでもない。
仲間を、ましてやこんなに立派な勇者を。
俺はよろめく身体で。
ディオスの攻撃を利用して到達した、この場所に立ち。
自分のふところを探った。
ほとんど空になったポケットから、取り出す。
古竜の魔石。
現在時価20億ゴルドの、古竜の魔石だ。
それをコツンと。
檻の中心。
魔力吸収装置の赤水晶に当てる。
「なあアルメア。上級竜の魔石で作った魔道具なら、古竜の魔石の魔力なんて吸いきれないはずだよな」
「……えっ!?」
アルメアの顔色が変わる。
「ダ、ダメだよソウマ!
そんな、そんなのは……!!」
「クズ加護、な、なにをしている!?
その古竜の魔石は、この勇者ディオスの新たなる神器を作るためのものだろうが! この私の許可なく、なにをしようとしていやがる!!」
ディオスも珍しく察しがいい。
怒りで顔を赤黒くして。
ツバを飛ばしながら、わめいている。
「20億だぞ!? 20億ゴルド! 貴様のような底辺の賤民にとっては、目もくらむような大金のはずだ!
それを使うだと!? 愚かしいにもほどがある!
卑しく金を欲しがるのが貴様だろうが! そんなことをすれば、貴様自身が泣きわめいて後悔することになるぞ!」
「ガキじゃあるまいし、誰が泣くかよ」
そうだ。
もう俺はガキじゃない。
抱きしめられたあの時みたいに、わんわん泣くような歳じゃない。
だから思い出を振り返ったところで、別に涙なんて流さない。
そのかわり、よろこびが湧いてくる。
活力が満ちていく。
どんな恐怖も痛みも、この記憶にくらべたらちっぽけなものだ。
あのひとに拾われてから。
俺に怖いものはなくなった。
孤児院の借金を黙って肩代わりして、町を出た時だって、怖くはなかった。
あのひとが懸命に切り盛りしていた孤児院の、10億ゴルドの借金。
それを返すことはむしろ、俺にとってよろこびとなった。
金自体は、好きでもなんでもなかったが。
拾った俺に価値があったのだと、あのひとにも自分にも示せることが、誇らしかったのだ。
そして今、あのひとと同じことを、俺はできる。
誰かを捨てずに、活かすことができる。
その気持ちが、誇りが。
俺の心をどうしようもなく――突き動かす!!
「【再利用】っ!!」
「やめろおおおおおおおお!!」
「ソウマぁーっ!!」
「面白かった」
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