49 それを捨てるなんてとんでもない (4)
「【電撃矢】!」
放たれる電撃。
俺は身をもって、発動したそれを受けとめる。
「ぐあああ……っ!」
「ソウマ!」
肉が細かく裂かれるような。
痛覚をかき乱す、電撃特有の苦痛。
たった一撃で、ぶっ倒れそうになる。
「クハハハハ! ようやく当たってくれたなあ!
どうだクズ加護、この光の勇者の魔法の味は! 他では味わうことのできない、極上に優れた痛さだろう!?」
「……は。ぬるすぎて眠くなるかと思ったぜ。
勇者よりマッサージ師のほうが向いてんじゃねえのか」
「そうかそうか! ではもっとサービスしてやらねばな!」
ディオスは機嫌よく、腰のポーチからビンを取り出す。
マジックポーション。
中身をあおり、捨て割った。
すぐに次が来る。
「くそっ……! 【再利用】!」
俺は急いで、魔石を魔力に変えていく。
虎の子の高級魔石だ。
30万、80万、55万。
さらに細かいのをいくつも。
一気に手持ちのほとんどを使い潰す。
俺は障壁魔法なんか使えない。
だが魔道具で、身体強化はできる。
これで少しは耐えられるはずだ。
「クハハハ、そんな安魔石で防げるのか? この至高にして最強の勇者魔法を!」
実にうれしそうに、にたりと笑顔を向けてきた。
そして呪文を唱える。
「【電撃矢】! 【電撃矢】!
【電撃槍】! 【電撃槍】ッ!」
「うぐっ……ぐうううっ!!
があああああぁぁぁぁっ!!」
叫び声が、勝手に上がる。
俺の意思と関係なしに、身体が引きつれる。
脱力した根性なしの両ひざが、床についた。
「ソウマっ!!」
その声に気がついて。
すぐに立ち上がり、ぶるぶると体を起こした。
胸を張る。
ディオスからの射線を、身体でふさぐために。
ディオスはマジックポーションを、何本も飲みながら。
実に機嫌よさそうに、笑った。
「クハハハハハ! 見せつけてくれるじゃあないか!
金に汚いクズ加護でも、やはり惚れた女には弱いと見える!」
「そんなんじゃ……ねえっつの……」
「だがしかし、これだから卑しい生まれは度し難いとも言えるのだ! くだらん情に流されて損得の計算もできず、勝つことをあきらめる! 決して上を見ようとはしない!
落伍者の落伍者たるゆえんというわけだな! クハハハハハッ!!」
笑うディオス。
歯を食いしばる俺。
繰り返される呪文。
繰り出される電光。
何度も何度も。
受けるしかない。
耐えるしかない。
下がった俺の首の上を、よろこんで狙うディオス。
その向こうにはアルメアがいる。
俺は懸命に頭を起こし、顔で受けた。
口を切り、血を吐く俺を見て。
ディオスは大笑いしやがっている。
観客がいよいよ騒ぎ始めた。
「な……なんだよありゃあ!? 頭おかしいんじゃねえのか!?」
「人質だって!? こんな勇者見たことねえよ!!」
「クソ野郎!! まともにやったら勝てねえからって、恥ずかしくねえのかよ!!」
罵倒の雨。
ヤジというには、かなりの怒気がこめられていた。
勇者の名と国の名誉を、これ以上なく汚す戦いだ。
その行為に憤っているのだろう。
しかし、当のディオスは涼しい顔。
「フン。やはり卑しい平民どもには、本当に高貴な戦いというものが理解できんか。今のこの私の戦い方こそが、真に優れた者の姿だというのに……」
「や……やめろ! やめろディオスッ!
貴様はなにをしているのだ!?」
「は? ゼルバルド卿こそどうした、そんなに青い顔をして。
このディオスの華麗なる戦略が、今まさに卑しいクズ加護へ天誅を下している最中なのだぞ。この優れた知性を笑って賞賛するのが筋ではないか」
「今この場で笑っているのは貴様だけだ!
なにが華麗なる戦略だ、なにが卑しいクズ加護だっ!? 本当に卑しいのは貴様のほうではないか!!」
「ハア……。
失礼ながら卿は、世界の真実というものがわかっていないようだな」
「真実だと!?」
「負ける勇者になんの価値がある? 魔物を倒せない勇者にどんな希望があるというのだ?
ならば必要なのは覚悟だろうが! 反撃も許さず効率よく勝つ、そのために手段を選ばない覚悟!
それこそが優れた者として君臨するための真の資質! これこそがこの世界の本当の真実だろうが!!」
得意げに俺を指さすディオス。
「見ろ、あのクズ加護の手も足も出せないブザマさを! 大衆が求めるのはあのような敗北者ではなく、この私のような優れた勝利者だ!」
「引っこめゲス勇者!!」
「これ以上王国の名に泥を塗るんじゃねえ、クソ野郎!!」
「ソウマ! そんなやつブッ飛ばしてくれえ!!」
「まったく求められておらぬではないか!?」
「フン、一時の感情でわめいているだけのこと! 力を見せさえすればすぐに黙るというものだ!」
バサッ! バサバサッ!
マントを何度もひるがえす、特有のクセ。
なにをするのか予想がつく。
「ハアアアアッ……! 【爆轟電】ッ!!」
ディオスが持つ最大呪文。
着弾する電光。
ふくれあがる爆熱。
「がはあっ……!!」
俺の身体が、軽く吹き飛ばされた。
観客席の悲鳴。
まっすぐ飛んで、背中をしたたかに打ちつける。
見ればアルメアの檻だった。
「ソウマぁ……っ!」
手を伸ばすアルメア。
俺のもとへ駆け寄ろうとする。
しかし、鉄格子に阻まれた。
俺はひとりで立ち上がる。
体中がきしみ、うまく動かない。
せっかく新調した装備も、焼けてボロボロだ。
「ちっ……。ディオスのくせに、古竜より手こずらせやがる」
「ソウマ、もういいよ! ボクなんかもう、かばわなくていいから!」
「いいってことはないだろ。魔力のないお前が食らったら、次は死ぬ可能性だってあるんだぞ」
「……それでもいいんだ!!」
力強い語気。
振り返ると。
アルメアの瞳は、どんな宝玉よりも輝いていた。
「ボクは、キミの足手まといなんてごめんだっ!
ボクはキミと並んで戦いたかったんだ! 守られるだけなんて望んでないっ!」
「お前……」
「ボクのことなんて忘れて、あいつをブッ飛ばしてよ! それでボクが死んじゃったっていいんだ!
だってそれは、ボクもソウマといっしょに戦えたってことじゃないか!!」
強い光。
鋭くまぶしい、鉄の剣のような眼光。
そこに動揺はない。
怒っても悲しんでもいない。
ただ、ひたすらまっすぐに、前を見ている。
それは助けを待つだけの、囚われの姫などではなく。
勇気ある者の顔つきだった。
こんな時だというのに。
俺の心は、震えた。
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