48 それを捨てるなんてとんでもない (3)
「ひいいいっ!?」
悲鳴を上げるディオスは、俺の接近にうろたえ。
亀のように防御に徹した。
魔力を全開で、障壁に回しているようだ。
こうなるとさすがに硬いな。
「ぐっ!? うぐうっ!」
が、通らなくもない。
少しずつだが確実に。
ディオスへと、ダメージを与えていく。
そうこうするうち、時間切れ。
再び距離を取る。
「う……うう……」
しゃがみこんだままのディオス。
身体は恐怖に震えている。
いつも誰かを殴る側だった男。
今は殴られる側の気持ちが、よくわかっていることだろう。
そんなディオスに、横あいから声がかけられる。
「なにやってんだディオス!」
「てめえ、それでも勇者かよ!? 丸まってねえで反撃しろ、臆病者!」
「てんでたいしたことねえじゃねえか! やめちまえよ勇者なんかよお!」
「ぐ……ぐぐ……!」
観客席から罵声。
失望とブーイング。
言われるままのディオス。
なんと言われようと、足がすくんで動かないようだ。
肥大したプライドもズタボロだろう。
「……まあ、こんなもんでいいか」
だいぶスッキリできたしな。
「ディオス、元パーティメンバーの情けだ。もう降参しとけ」
「な、なんだと……!?」
降伏は認められない、みたいなことは言ってたが。
気絶したフリをすれば、実質同じだろう。
「お前じゃ俺に勝てないってわかったろ。これ以上恥さらす前に引いとけよ」
「だっ、誰に向かってものを言っている!?
卑しいクズ加護のポーターごときが、この歴代最強の勇者に向かって、まるで自分が優れていると言わんばかりの……!」
「ならまだやるんだな? 俺はそれでかまわないが」
俺が3つめの魔石を手に取ると。
ディオスが、あからさまにビクリとした。
そして強い憎しみの目。
口先はどうあれ、身体のほうは恐怖してしまっていた。
その事実が許せないんだろう。
ディオスは頭を振り。
ゆっくり立ち上がって。
「ク……。
クハハハ、クハハハハハハッ……!」
腫れた顔で、不気味に笑い始めた。
「……いいだろう!! このディオス・カーラントが今から貴様に、本当に優れた者の戦いというものを教えてやろうではないか!!
絶望の底に叩きこまれ、泣いてこの私の慈悲を乞うがいい!!」
「たわごともいい加減に……」
しろ、と言おうとしたところで。
ディオスが腕を上げた。
後ろに向けて。
ぎょっとしたディオスの取り巻きどもが、散って逃げる。
「【電撃矢】!」
放たれた電撃が、台車に命中し。
「あああああっ……!!」
悲鳴。
かぶされていた布が、火花で燃え。
大きな檻と、その中に囚われた人物が、白日にさらされた。
「ぐ、うう……っ」
激痛に背を丸め。
裂けたほほから血を流している、ドレス姿の娘。
見まちがえようもなかった。
「アルメア……!?」
「な、なんと! アルメアではないか!」
「……!」
ゼルバルドと国王が、息をのむ。
観客たちのざわめきも、大きくなっていく。
「クハハハハハ! 皆、このディオスの優れた知略を目の当たりにして驚いているようだな!
それでこそ、隠さず見せたかいがあるというものだ!」
ディオスはむしろ自慢げに、笑っていた。
「さあ、どうだクズ加護! 恋人がようやく顔を見せてくれて、安心してくれたのではないか!?」
「て……めえ……!!」
「そうそう、その顔だ! 貴様を追放したあの日と同じ、怒りと絶望が入り混じるその顔!
やはりクズ加護にはその顔が似合うというものだなあ! クハハハハハハハッ!!」
今すぐ殴りかかりたい衝動を、必死に抑える。
俺がやつの鼻っ柱を叩き折るよりも、ディオスがアルメアを撃つ方が、早い。
あからさまな人質。
しかもあの檻。
中心部で寄生するように根を張る赤水晶。
あの禍々しい見た目に、最悪の心当たりがあった。
あの水晶は魔力吸収装置だ。
上級竜の魔石を加工して作った魔道具。
「ちょっとディオス! 危なく当たるとこだったじゃん!」
「こんなでかいの運んできたあーしらに、これはなくね!?」
「クハハハ、まあ気にするな。ちゃんとお前たちではなく檻に当てただろうが」
「そんなの当然でしょ! “最後の檻”を狙うなら、ちゃんと合図出しなさいよ!」
「“最後の檻”だと!?」
ゼルバルド。
騎士団長ともなれば、知らないはずはないか。
「どうしたゼルバルド卿。この檻がそんなに珍しかったか?」
「ディオス、貴様……! その檻がなんなのかわかっているのか!?」
「もちろんだとも。破壊不可能な檻の魔道具だろうが。罪を犯した王族を幽閉するためのな」
「それだけではない! 史上誰も生きて出られた例のない、入れられたが最後の檻だ! あらゆる魔法を吸収して、囚人を赤子同然に無力化する……。
それに勇者を入れただと!? 人々を魔物から守る、かけがえのない希望である勇者を!!」
「それがどうした!? ゴミ勇者を正しくゴミに変えてやっただけだろうが!
そもそもこのような卑しい出の田舎娘を勇者と認めたこと自体が、勇者の名をおとしめる愚行だったのだ! 勇者は真に優れた者の名でなくてはならない!
そう、この歴代最強の光の勇者、ディオス・カーラントのようになあ!!
クハハハハハハ……クハハハハハハハッ!!」
殴られ腫れあがった顔で、そうのたまった。
しかし今は、バカ笑いにかまう気にもならない。
「……アルメア……!」
俺は檻の中の少女に、声をかける。
まさに囚われの姫のような、弱々しい姿。
アルメアは眉を下げて。
「……ごめんねソウマ。
もう、いっしょのパーティ、組めないや」
そう、さびしそうに笑った。
アルメアも理解しているのだ。
もう、その檻から出ることはできないと。
ディオスを倒そうが、俺が降参しようが。
あいつの人生は、もうもどらないのだと。
勇ましい勇者。
輝かしい彼女。
他人を助けることを、自らの誇りとしていた。
そんな尊敬すべき少女は。
今や終身の囚人として、全てを失ってしまっていた。
力も、自由も、誇りも。
なにもかも……。
「おいクズ加護、いつまでよそ見している! この私から目を反らすなど、無礼だろうがっ!」
「くっ!?」
ディオスが腕を上げる。
狙う先はアルメアだ。
今のアルメアには魔力がない。
低位の攻撃魔法であろうと、直撃すれば死にかねない。
急いで走る。
ディオスとアルメアの線上へ。
ディオスは、必死な俺を見てにやつきながら。
勇者のものであるはずの、攻撃呪文を唱えた。
「【電撃矢】!」
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