47 それを捨てるなんてとんでもない (2)
「……檻、か?」
俺はそれを見て、少し意外に思った。
あの性格の悪いディオスのことだ。
なにかやらかすだろう、とは考えていたが。
それは観客席からの狙撃とか、そういう隠れた手段だと予想していた。
なのに、堂々と人目にさらすとは。
見られてもかまわない代物なのか?
「おい爺さん。魔物を持ちこんで戦わせるのはアリなのか?」
一応確認する。
ゼルバルドは首を振った。
「いいや。そのような行為は認められぬし、打診も受けてはおらぬ。
ディオスよ、それは一体なんなのだ?」
「クハハハ……なに、卿が気にするほどのものではない。
ただの置物だ。この私に確実な勝利を呼びこむ、優れた縁起物といったところかな?」
ニヤニヤ笑うディオス。
にやけヅラのまま、俺に話しかけてくる。
「ところでクズ加護、今日は鉄魔法の小娘がいないようだな。
大事なバートナーがいないことが、気になってしょうがないんじゃないのか? ん?」
「いや特には」
「クハハハハ! 強がりはよせ! 愛しい女に突然姿を消されてしまって、内心ではひどく不安なのだろう!?
追放された絶望の中で出会った男と女! 今までずっと互いを支えあい、ゆるやかに絆を育んできたご両名だ! これでロマンスが生まれないわけがないだろうが!」
「仲人かな?」
なんでこいつが、俺とアルメアの仲をスピーチしてるんだよ。
いつにもまして意味不明だな。
だが、確かにこいつの言うとおりではあった。
アルメア。
あいつとは、昼に別れたきりだ。
そのうちひょっこり現れるだろう。
そう思っていたのだが。
試合が始まる今になっても、姿を見せていない。
「まあ、アルメアだってガキじゃないんだ。そのうち顔を見せるだろ。
もう客席かどっかで見てるかもしれないしな」
「そうだな、そのとおりだな! クハハハハハハッ!」
ディオスはますます高笑い。
今の話の、なにが面白かったのか。
こいつの考えることは理解しがたい
俺とディオス。
ふたりが舞台にそろい。
位置につき相対したところで。
ゼルバルドが、声を張り上げる。
「これより、ディオス・カーラントとソウマ・レフォルマーレの神前試合を執り行う!
両者いずれかの気絶あるいは死亡によって決着とし、他のいかなるものによってもこの神聖なる戦いは妨げられない!」
そして国王が、宣言する。
「始め!」
バサッ!
ディオスが、意味もなくマントを払った(3回目)。
「それでは始めようか! 大舞台でのクズ加護ポーター処刑ショーをなあ!
【電撃矢】ッ!」
突き出した右手。
その手のひらから、ご自慢の勇者魔法。
「おっと」
俺は横にステップ。
難なくかわす。
「む……。
【電撃槍】! 【電撃槍】ッ!」
中位攻撃魔法。
これもかわせる。
「クソがっ、ドブネズミのようにチョロチョロと! なぜ当たらん!?」
「目線で丸わかりなんだよ。そのクセ直しとけって言っただろうが」
ディオスの加護、電撃魔法は雷速。
本来なら回避など、とても無理な代物だ。
これ一本で勇者と認められただけのことはある。
インチキじみた高性能ぶりだった。
しかし、肝心の使い手がお粗末すぎる。
訓練など受けたことはなく。
戦ってきた魔物も、外しようがないデカブツばかり。
全てを火力で押し切ってきた結果が、これだ。
こいつは対人戦に関しては、Fランク冒険者以下だと言える。
「クズ加護め! いつだって貴様は、この私をイラつかせてくれる!」
「そりゃこっちのセリフだ。さんざん陰険な嫌がらせしやがって。
俺が頭に来てないと思うなよ……!」
俺は5万ゴルドの魔石を、ひとつ取り出して。
「【再利用】!」
魔力へと変換。
身体強化魔法の出力を上げ。
走る足を、瞬時に加速して。
「【電撃槍】、【電撃槍】!
……なっ!?」
射撃をかいくぐり。
ディオスのふところへと飛びこんだ。
右手の手甲に魔力をこめ。
思い切り殴りかかる。
と、魔力の障壁が現れた。
鎧の自動防御か。
かまわず叩きこむ。
「おらああああっ!」
ガキンッ!
派手な光と火花。
障壁を砕いた感触。
止めずに連打。
右と言わず左と言わず。
腹と言わず頭と言わず。
当たるを幸い、殴り続ける。
銀貨5枚分のラッシュ。
「がっ!? うぐ、ごっ、ぎゃ……」
追放ついでに電撃を撃たれた痛み。
古竜の報酬を奪われかけた怒り。
そういったもろもろを、拳の形にして。
思うさま、延々と打ちこんでいく。
「あが、げほおッ!?」
よろめくディオス。
俺は踏みこみ。
さらに追撃しようとする。
……が、思い直した。
いったん後ろに跳んで、距離を取る。
同時に俺の身体から、魔力が消えた。
時間切れだ。
まあ、5万ゴルド分は殴れたか。
俺が息を吐いたのと同時。
ディオスが片膝をついた。
新品だった鎧は、すでに半壊。
装甲がへこみ、無数の亀裂も入っている。
青あざだらけの顔には、俺への恐怖が浮かんでいた。
「ク、クズ加護、貴様っ……!?」
信じられないといった表情。
国王もゼルバルドも、目を丸くしている。
どよめく観客。
「どうした? ポーターが勇者よりも強いわけがないってか?
はっ、腕力で食ってるポーターなめんなよ!」
せいぜい皮肉げに、笑ってやった。
多少は気が晴れてきたな。
俺は剣も魔法も使えない。
習う機会も金もなかったからだ。
しかし俺は、スラムでイヤというほど教えられていた。
腕力が強い人間は、単純に強いのだと。
そして腕力だけなら、再利用魔法と魔道具の合わせ技で、相当に強化できる。
もちろん、AランクだのSランクだの、そんな化け物連中には勝てないだろうが。
今相手してるのは、ただの苦労知らずのボンボンだ。
勝てないほうがどうかしている。
「じゃあ続けるぞ。歯ぁ食いしばれよ……!
【再利用】!」
俺は再び、魔石を魔力のきらめきに変えて。
動揺するディオスへと、力まかせに殴りかかった。
「ひいいいっ!?」
「面白かった」
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