46 それを捨てるなんてとんでもない (1)
天上の神に勇敢な戦いぶりを見せることで、自らの誇りを示す。
それが、この国の神前試合の成り立ちらしい。
金にならない殴り合い。
俺の生き方の対極であり、まったく興味がわかない。
そんな俺でも、この光景には呆れまじりの感嘆をした。
「こりゃあまた、ずいぶんと派手な会場だな」
直径200メートルの、王都最大の建築物。
円形闘技場。
その観客席は、すでに満杯。
万超えの人間で埋めつくされている。
ディオスはまだ見当たらない。
「この程度、なにが派手なものか」
突っ立ってる老齢の騎士が、そう答えた。
騎士団長ゼルバルド。
隣のでかい席には、国王陛下も座っている。
目と鼻の先。最前列だ。
最上階に設けられた貴賓席ではない。
勇者の戦いを、間近で見たいんだろう。
「今から始まるのは、歴代最強の勇者の戦いなのだぞ。その力を民たちに知らしめるための決闘の場だ。それを思えば、まだ足りぬくらいだろう」
「勇者の力ねえ」
知らしめられるのは、あの特殊な品性のほうだと思うが。
ディオスが俺をののしる確率は300%。
余人が想定する3倍は口汚い計算だ。
その様子が明らかになれば、勝敗がどうなろうと関係ない。
勇者に相応しくないディオスは、観客全員の失望と納得を得て、大々的に破滅するだろう。
金のかかった茶番劇だ。
バカバカしいとは思う。
おまけに俺がボコられるのが予定のうち。
しかしもちろん、俺に文句などない。
なにしろ参加報酬は、20億ゴルドの買い取り金。
これほどの大金ともなれば、本来はどんな無理難題をふっかけられてもおかしくなかった。
それを思えば、たかだか試合に出る程度はなんでもない。
今回ばかりはディオスのアレっぷりに、感謝してもいいくらいだ。
「……貴様、やけに堂々としているな?」
意外そうなゼルバルド。
「これだけの大舞台で、ましてや相手は音に聞こえた光の勇者だ。こんな状況であれば、騎士であっても顔がこわばろうというもの。
思ったよりは肝が据わっているようだな」
「そりゃどうも」
「その調子で、あまり不名誉な戦いを陛下に見せてくれるなよ? たとえ勝つことがかなわぬにしてもだ」
「名誉か。借金の足しにはならないな」
「なんだと! 貴様、口を開けば金、金、金と、そればかり……!」
声を荒げるゼルバルド。
別に怒らせるつもりもなかったが。
ただ、俺にとってはどうでもいいだけだ。
人目も、名誉も。
それが正直なところだった。
俺がどうでもよくないと思うのは。
この世でもっとも尊く思うのは、金。
借金を返すための金銭だ。
「いいか、ワシはなにも光の勇者に勝てなどと、無体なことを言うつもりはないのだ! だがいかに格上の相手であろうとも、食らいついてただでは倒されぬというような、血のたぎる誇り高き戦いをだな……!」
「あいにく今日の戦いは、あんたが思うようなものにはならないと思うぞ」
かみ合わない会話。
ややうんざりしていると。
「冒険者ソウマよ」
国王が今日初めて、口を開いた。
「そなたの戦い、見せてもらうぞ」
「……俺の? ディオスじゃなくて?」
問い返すが返答はなく。
開かれる向かいの門へと、目を向けていた。
俺もそちらを見る。
人影。
やっと来たか。
長い金髪と整った顔。
シルクのマントと、最高級のミスリル鎧。
見てくれだけはSランクの冒険者。
「フン! クズ加護め、本当に逃げもせず現れるとはな!」
光の勇者、ディオス・カーラント。
「もしや貴様……この歴代最強の勇者に勝てるかもしれないなどと、身の程知らずな夢でも見ているのではないだろうな!?
残念だが劣等者のクズ加護ごときが勝つ可能性など、兆にひとつもありはしない! 貴様ができることはただひとつ! このディオス・カーラントがいかに優れているのかを、生きたサンドバッグとして人々に証明する役割をまっとうすることだけだ!
理解したかクズ加護ッ!!」
バサッ!
まくしたてながら、意味もなくマントを払った。
今日も絶好調だな。
近くの観客席が、早くもざわざわしてきている。
登場数秒で物議をかもす男。
こんなアホが国家の代表とか。
俺なんかは悪夢だと思うのだが。
ゼルバルドは、そう感じてはいないらしい。
なんかうんうんとうなずいてる。
「勇者ディオスよ。その大言、勇ましき者の誇りと受け取ろう!
だが、『あれは弱き犬の吠え声であった』などと思わせてくれるなよ!」
「クハハハハ! ゼルバルド卿、心配など無用だ!
この私のあらゆる戦いがそうであったように、今回もまばたきの間に決着がつくことだろう!」
バサッ!
意味もなくマントを払った。
繰り返すといっそうアホみが増した。
せめて試合開始までとっておけよ。
「クズ加護よ、貴様も心配することはないぞ! 陛下の御前であるからには、命だけは助けてやろうではないか!
その時にはせいぜい見栄えのする命乞いで、この私と観客を楽しませるのだな!」
「俺が心配してんのは、お前の反則で試合が無効になることだけなんだよなあ」
試合無効でーす、だから20億ゴルドの話もなしでーす、とか最悪だ。
だが俺の言葉に、ゼルバルドが鼻を鳴らした。
「それこそいらぬ心配だな。国王陛下立ち会いの神前試合は、過去一度も中断した例がない。
ワシらはあくまで立会人であって、神が照覧する決闘を止める権利は持たぬのだ。
気絶か、あるいは死か。それ以外での決着はありえぬだろう」
なら安心か。
神様に人類の恥部を照覧させない方がいいんじゃないか、とは思うが。
「それは安心だな! もし試合を中断されては、クズ加護が古竜を倒したなどという嘘を暴けず、魔石を持ち逃げされてしまうからな!
この私の神器を作るための古竜の魔石だ! 必ず取りもどしてやるぞ、嘘つきのクズ加護!」
「嘘だと本気で思ってそうな顔やめろ。ちょっと怖い」
と。
俺の視線が、ディオスの背後へ動く。
「……ん? なんだありゃ」
ディオスの後ろから、いつもの取り巻きども。
それはいいが、妙な荷物を運んでいた。
白い布をかぶせた、でかい直方体。
全高3メートルはあるだろうか。
それを台車で馬に引かせている。
布の裾が、風ではためく。
ちらりと鉄格子のようなものが見えた。
「……檻、か?」
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