44 花の価値
窓の外に目を向けた俺は、意外なものを見つけた。
宿の庭に生えている、節くれ立つ大木。
その枝に、可愛らしい花が咲いていた。
「…………」
「ソウマ、どうしたの?」
「あ、いや。なんでもない」
俺の部屋にいるアルメア。
決闘のための装備を、点検してくれているのだ。
今日はもう、神前試合当日。
戦う当事者の俺だが、午後まで準備することも特にない。
一方、ギルドの依頼を受けるほど余裕もない。
3時間ほどの空白。
ふと思いついて、言ってみた。
「アルメア、飯でも食いに行かないか。おごるぞ」
「えっ?」
意外な顔をするアルメア。
俺がおごるのがそんなに意外か。
まあ、アルメアは良く稼いでくれる、ありがたい仲間だ。
たまには仲間をねぎらってやるべきだろう。
「えっと……いや、あの、その」
「どうした?」
「ううん! なんでもないよ!」
なぜか慌てて首を振った。
なにかを期待するような、ちらりとした上目遣い。
頬が赤らんできている。
「行こう! すぐ行こう!」
ぱっと顔を輝かせて。
勢いよく立ち上がるアルメア。
引っぱられるように宿を出て。
俺の腕を取り。
並んで歩き始めた。
「えへへ……ソウマがボクをデートに誘うなんて……」
「ん? いや……」
誤解を訂正しようとして。
「……まぁ、そうだな。そんな感じだ」
思いとどまった。
そういうのに憧れる年頃なんだろう。
わざわざ訂正することもないか。
明るい青空の下、大通りに出る。
王都は賑わっていた。
行き交う人々の顔には笑顔。
露店が並び、軽業師が曲芸を見せて客を沸かせる。
平和な光景だった。
「どこ行こっか?」
弾んだ声で尋ねてきた。
「特に当てはないんだが」
「ボクとソウマのせっかくのデートなんだし、ロマンチックなお店に行きたいな〜」
「わかったわかった。じゃあ、あの店なんかどうだ」
俺が指したのは、どでかい肉串が看板に書かれた屋台だった。
『肉! 肉ッ!!』て感じの店。
肉体労働者のおっさんたちがたむろして、串にかじりついている。
それを見たアルメアは。
「わーい! お肉だあ!」
すっごい喜んでた。
一本200ゴルド。
2本づつ買う。
食欲を刺激する、香ばしさと熱気が立ちのぼっている。
かぶりつくと、香草の風味と肉汁があふれてきた。
「うわあ、美味しいねコレ!」
肉を口いっぱいにほおばるアルメア。
リスみたいだった。
肉の幸福を全力で享受している顔。
もうロマンチックとか完全に吹っ飛んでる。
「ははは。やっぱりアルメアは、まだ色気より食い気だな」
「……はっ!?
こ、これはちがくて! ただその、えっと、おいしいものはおいしく食べないと失礼かなって思って!」
「はいはい、そうだな」
「あー、適当な返事!
次! 次のお店ではちゃんといい感じのデートっぽいことになるから! 絶対だから!」
俺の腕をぐいぐい引っ張る。
というか引きずられていく。
たぶん10馬力くらい出てる。
「どこに行くんだよ。そんなに時間ないぞ」
「ええと……。
あ、あそこ! あそこがいい!」
指したのは、上品な服飾店だった。
アルメアに引きずられて入店。
店内は落ち着いた雰囲気で、悪くない。
「いらっしゃいませ」
店主らしき初老の男性。
愛想笑いを浮かべながら、近づいてきた。
「何かご入用ですか?」
「女の子っぽい何かをください!」
そんな注文ある?
「……で、ではこちらに」
「お願いします!
見ててよソウマ、ボクの女の子らしさを思い知らせてあげるから!」
店員が微妙な表情をしながら、アルメアを奥に連れていく。
置いてきぼりの俺。
ま、いいか。
着がえてきたら、ちゃんと女の子らしいとほめてやろう。
適当に店内を物色することしばし。
「じゃあこれにしようかなっ」
アルメアのご機嫌そうな声。
出てきたアルメアが着てきたのは。
「じゃーん!」
真っ白なドレスのような、ワンピースだった。
たっぷりの布でフリフリしていて。
胸元には大きなリボン。
スカート部分にはふわりとした膨らみ。
肩や腕にもレースやフリルがあしらわれていて。
全体的に、とても可愛らしいデザインをしていた。
いつもの戦闘装備とは、似ても似つかない。
けれど確かに似合っている。
誰もがこの花のような可憐さに、価値を認めるだろう。
俺は今までこいつを、生まれついての蛮族だと心の底から思っていたが。
そうではないアルメアを、初めて見た気がした。
「おお、いいんじゃないか?」
「ホント!?」
「本当だ。なかなかのお姫様ぶりだな、可愛いぞ」
「えへへ……!」
俺の言葉に、とてもうれしそうなアルメア。
照れくさそうに笑う。
「でもその帽子は、色がちょっと合わないんじゃないか」
いつもの宝玉つきの冠ではなく、洒落た帽子もかぶっていた。
赤くてつばの広い帽子。
いい物ではあるが、さすがに白いドレスには合わないだろう。
「でも攻撃力があるのがこれしかなくて」
ジャキン!
帽子から凶悪な刃が飛び出してきた。
「殺人ピエロの小道具かよ!」
ツッコまざるを得なかった。
きょとんと首をかしげるアルメア。
「え、これ可愛くないかな? お城のパーティで使ったら注目の的じゃない?」
「注目してるのは衛兵だろ!」
「じゃあ、この花のイヤリングは? 可愛いし、投げつけると爆発して血の花が咲いてたくさん殺せるよ!」
「だから可愛いと殺傷効率を同時に満たそうとするな! 耳に爆弾着けて歩くの怖すぎるだろ!」
なんでこれでいけると思ったんだよ……。
「こんなもん返品だ返品。こんな物騒なアクセサリに無駄金使えるか」
「むー! ソウマ、ボクをもっと女の子扱いしてよ!」
「むしろもっと女の子扱いさせてくれよ!」
「むう〜」
帽子とイヤリングを外させる。
頬をふくらませるアルメア。
不満をありありと顔に出している。
これ俺が悪いの?
「ふんだ! もういい!」
「おい、待て!」
店の外へ駆けていくアルメア。
さすがに放っておけない。
追って店を出ようとする。
……が、店員に呼び止められた。
「お客様。お会計がまだですよ!」
ドレスの伝票を見せてくる。
「ああ、悪い」
あの白い花のようなドレスは、問題なく似合っていた。
なら買ってやるか。
早く支払って追いかけないと。
しかし、その伝票を見て。
「……はあ!? なんだこの値段、ぼったくりもいいとこだぞ!」
「とんでもございません。当店は良心的な価格設定を心がけております」
「どの口で言いやがる!
いいか、ここにあるシャツだって前の町じゃ半額以下だった! ドレスならせいぜい、これくらいの額が相場だろうが!」
「おお、お客様! 私に首を吊れと言うのですか? その額はあまりにご無体です!」
「ざけんな! お前が吊られるとしたら詐欺商売の摘発でだ!」
俺はクソ店員に怒鳴り返した。
時間も何もかも忘れて、値段交渉に熱中し始める。
それがようやく終わったころには。
すでに神前試合の、開始直前となっていたのだった。
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