43 払う力 (2)
「へ、陛下、20億ですと!?
いくらなんでもそんな大金を、このような輩に払ってはなりませぬ!」
ゼルバルドは、ツバを飛ばしてそう言った。
が、それを聞く国王陛下の表情は動かない。
「驚くことはなかろう。そなた自身が、国宝にするほどの品だと申したのではないか。
古竜の魔石など、本来ならばいくら金を積んでも買えはせぬのだぞ」
「そ、それはそうですが……ぐぬぬ……」
ぐぬるゼルバルド。
ぐぬった視線を、国王から俺に向けてきた。
「この詐欺師めが……! 今までもそうやって多くの人間をだまし、食い物にしてきたのだろうな!」
「はあ?」
今度は何の話だ。
「またもしらを切るか! 貴様は勇者ディオスのパーティにいた頃も、仲間を裏切り金に換えたと言うではないか!
貴様はそういう男だと、他ならぬディオスが冒険者ギルドで証言しておるのだぞ!」
「クハハハ、そのとおり! あの頃はずいぶんとこの私の足を引っ張ってくれたものだなあ、クズ加護!」
「それ見たことか! 無能の貴様を雇ってくれた恩を忘れるどころか、こうまで仇で返すとは!」
「……俺はもらった金を裏切った覚えはない」
他はともかく、給料泥棒という言い草は許せない。
にらみ返してやる。
「貴様の無能ぶりは、冒険者ギルドがZランクという形で保証しておる!
そもそもからして、無数の実績を持ち名誉ある勇者の言葉と、一介のポーターごときの言葉! どちらが信用に値するかなど、考えるまでもないだろう!
まったく、名誉も恥もあったものではないな!」
「あんまり憶測でものを言ってると、あんたの名誉のほうが傷つくことになると思うけどな」
「なんだと!?」
「ゼルバルド、そこまでにせよ」
「はっ……」
国王の言葉に、ひざまづくゼルバルド。
「……ですが陛下、事は勇者ディオスの名誉に関わる話です。
たかがポーターが古竜を倒したなどという、バカバカしい虚言を放置するわけには!」
「ならば試せばよかろう。
冒険者ソウマ・レフォルマーレに魔を払う力が、本当にあるのかどうかを」
「なんと! まさかそれは!」
国王は俺を見て。
ディオスを見て。
2本の剣が描かれた国旗を背後に、告げた。
「決闘だ!」
その言葉に、空気が変わる。
眉を上げるゼルバルド。
言葉を失うアルメア。
歯を剥いて笑うディオス。
「ディオスとソウマを公の場で決闘させるのだ。
さすれば、勇者アルメアの言うとおりにソウマが強いのかどうか、おのずと証明されるであろう」
「そ……そんな!」
アルメアが、強く首を振った。
「勇者魔法なんて受けたら、ソウマが死んじゃうじゃないか! いくらなんでも危険すぎるよ!」
「古竜を倒したという実力がまことであれば、そうはなるまい」
「…………」
俺は壁の国旗に目を走らせる。
天より与えられた剣が、地上を払う意匠。
つまり勇者が、地上の魔物を払う図柄。
辺境にあるこの国は、四六時中魔物に襲われ続けている。
だから自然と、武を重んじる気風があった。
強ければ生き残れる。強ければ正しい。
その気風が表れた、最たるもの。
神聖な決闘による裁判制度。
それはこの国の常識だった。
冒険者ギルドでも、真似事が流行るくらいには。
「なるほど……。
むろんディオスが勝利するでしょうが、それはそれで、古竜を倒した勇者の強さを人々に知らしめることになりますな」
賛意を示すゼルバルド。
「……クハハハハハッ! 陛下、もちろんこの私はお受けしましょう!
そのような晴れがましい舞台で、この卑劣なクズ加護を堂々と痛めつけて……おっと、競い合ってこの優れた我が力を周知できる機会をいただけたこと、誠にうれしく思います!」
バカはウッキウキでそう言った。
「どうだ? 冒険者ソウマよ。
なにも勇者相手に勝てなどとは言わぬ。相応の力を見せて善戦してくれさえすれば、そなたらの言葉を真実と認めようではないか」
「クハハハハ! この歴代最強の勇者ディオスが相手だというのに、陛下も酷なことをおっしゃる!
なんなら慈悲として、こちらは剣を使わずに戦ってやろうか?」
「おお、さすがはワシの見こんだ勇者ディオスよ! これこそ誉れ高き者のふるまいというもの!」
「いっそのこと、たった一撃でも入れられたら貴様の勝ちでもかまわんぞ! 卑しいクズ加護の貴様には到底不可能だろうがな! クハハハハハ!」
脳天気に上から目線。
お前剣なんか使えないだろ。
「ソウマよ! 貴様この決闘、よもや断りはすまいな?
もしそのつもりであれば、当然盗んだ魔石は渡してもらうぞ!」
「その時にはぜひ、この光の勇者ディオスに古竜の魔石を下賜していただきたい!
あの魔石で魔道具を作ればこのディオスは、より一層王国のために働くことができるだろう!」
「確かにそうした方が、世のため人のためといったところだな! うわっははははは!」
皮算用まで始めるディオス。
こいつ、自分が破滅する瀬戸際だってわかってないな。
俺が弱くなかったら、自動的に嘘つきはディオスのほうってことになるんだぞ。
本来なら、こんなバカは相手にしない。
バカにかかわっても1ゴルドの得にもならないどころか、損すらありうるからだ。
しかし、今回ばかりは。
「受けますよ陛下。
魔石を取り上げられて、20億ゴルドをパーにされるのはごめんですからね」
1ゴルドどころか、20億がかかっている戦いである。
受けるほかない。
「ソウマ! でも!」
「心配すんな。借金を全額払えるチャンスを前にして、俺が死ぬわけないだろ。
なにしろこれで、俺はとうとう自由の身になれるんだからな」
「えっ」
目を見開くアルメア。
それきり、静かになる。
「では国王たる私の名において、正式に神前試合を執り行うこととする!」
国王が、そう宣言した。
もう後もどりはできない。
「詳細は決まり次第、そなたらに追って知らせよう。
皆の者、今日はこれで下がるがよい」
そう言われ、謁見の間をあとにする。
帰り際、アルメアが。
「……そっか。
ソウマは借金があるから、ボクといっしょにいてくれてるんだ……」
ぼそりと。
そうつぶやいたのが、聞こえた気がした。
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