42 払う力 (1)
2本の剣が天より現れ、地を払う。
そんな意匠の旗。
王国の国旗だ。
それが背壁に掲げられていた。
王城の、謁見の間。
玉座にはこの国の国王。
壮年の王は静かな目で、ひざまづく俺たちを睥睨している。
俺とアルメア。
ついでになぜかディオスまで。
「勇者アルメアよ。この度の黄金竜の討伐、実に見事であった」
声をかけられ、顔を上げる俺たち。
「まさしく勇者の名に恥じぬ働きである。これを受け取るがよい」
兵士が、装飾過多な宝箱を運んできた。
開けると金貨。
5000万ゴルドほどか。
古竜の魔石の12億には及ばないが、かなりの大金だ。
「ありがとうございます! これは、ボクを助けてくれた仲間と分けあいます!」
「仲間か……」
こっちを見る国王陛下。
なんか意味ありげな視線。
ディオスは俺の横で、黙って顔を伏せていた。
珍しくおとなしい。
小声でなんか言ってる。
「なぜこの私が呼ばれたのだ……。
ま、まさかギルドの一件が、陛下の耳に入ったのか!? それはまずい、まずいぞ……!」
汗をだらだらかきはじめた。
悪事の露見を、今さら心配しているようだった。
「うわっははははは!
アルメアよ、お前がこれほどまでに大きな手柄を立てるとはな!」
そう笑ったのは、この場所で何回も見てる顔だ。
国王のとなりに立つ、鎧姿のマッチョ爺さん。
騎士団長ゼルバルド。
アルメアの髪をくしゃくしゃと、乱暴にかき回す。
「わわっ」
「だがずいぶんと無茶をしたそうだな? いかん、いかんぞ!
勇ましく死ぬことも名誉ではあるが、孫に似て可愛らしいお前が、命を粗末にしてはならぬ!
会うたびに傷ついているお前を見ると、ワシは心配で心配で……」
公式の場で、私情がバリバリ入っていた。
いかつい顔がデレッデレ。
完全に、孫に甘いジジイの姿だった。
「しかし立派なものだ! 陛下の目を盗んで悪事を働く小悪党とは大違いだな!
……そうは思わぬか?」
そう言って、視線をこっちに投げる。
隣のディオスがビクッと震えた。
汗がブワッと増える。
近づいてくるゼルバルド。
汗をかきまくっているディオス。
ロウソクのようにげっそりとしてきた。
しかしゼルバルドは、ディオスの横を通りすぎて。
俺の目を見ながら。
「……おい小僧」
低い声で凄んできた。
ヤクザみたいな形相。
顔にぶっとい血管を浮かべながら、なおも足を止めない。
ゴリ……。
デコを俺のデコにぶつけてきた。
至近距離でガンを飛ばしてくる。
「貴様、スラム出身のチンピラふぜいが……。よくも国の宝である、この純朴な勇者の娘をたぶらかしてくれたものだな?
騎士団の屯所で拷問してやろうか、あぁ?」
「なに言ってんだジジイ」
「しらを切るつもりか! さすがは『あの強大な黄金竜を倒した』などと、大それた大ボラを恥ずかしげもなく吹くだけはあるな!
勇者ディオスの手柄を横取りしようとする下衆めが!」
「えっ!?」
驚くアルメア。
俺も驚くわこんなん。
隣でうつむいていたディオスは、それを聞いて。
ススス……と上体を反らしていき。
「……クハハハハハハ!!」
復活。
さっきまでの弱りっぷりはどこへやら。
いつもの、ふてぶてしい顔になっていた。
「さすがゼルバルド卿。本当に優れている者が誰なのか、しっかりと理解しているようだな!
その通り! この歴代最強の勇者ディオスの助力なくば、かの邪竜を倒すことなど決してかなわなかっただろう!
そう、決してそこのクズ加護が倒したわけではないのだ!!」
「ま、待ってよ! 古竜を倒したのは、ディオスじゃなくてこっちのソウマだよ!」
いやそれは言いすぎだろ。
俺は蹴りを一発食らわせただけだ。
アルメアにふりむくゼルバルド。
少女の肩を、力まかせにバンバンたたく。
「うわっははははは! アルメアよ! 仲間を大切に思うのはいいが、それはいくらなんでも荒唐無稽というものだ!
優しいのがお前の美点とはいえ、仲間だからと甘やかしすぎてはならぬぞ!」
「そうじゃなくて、ホントに……!」
「おお、そうかそうか! わかっておるわかっておる!」
デレデレなジジイ顔。
俺にふりむくと鬼の顔。
ゴリゴリ……。
もう一度デコをぶつけ、血走ったガンを飛ばしてくる。
「聞くところによれば、古竜の魔石は貴様がかすめ盗っているらしいな? それを今すぐこちらに渡すのだ。
それは貴様のような悪党などではなく、我が王国が国宝として持つべき代物だ」
「は? 騎士団長閣下が陛下の前でカツアゲか? なんで俺がわざわざ損しなきゃならないんだ?」
「世のため人のために使おうというのだ、実に名誉なことだと思わぬのか? それを損などと……」
「むろん、それなりの代金は支払おう」
「陛下! このようなチンピラに金など渡さずとも、召し上げさせれば良いのです!」
それなり、ね。
どうせ買いたたくつもりだろうな。
オークションにかければ12億は堅いらしいものを、簡単に手放してたまるか。
適当に断っとこう。
「ゴホン!」
俺はせき払いし、声を作る。
「あいにくお譲りできませんね。なぜならこれは、俺が古竜を討伐したという名誉の証だからです!」
「む……」
胸を張ってそう言い放った。
名誉というワードに、ゼルバルドがひるむ。
勢いのまま、演説をぶつ。
「この魔石はただの魔石ではない! 恐ろしい強敵と勇敢に戦った俺の、信念と魂の結晶に他なりません!
たとえ国王陛下が相手であっても、この魂を売り渡すなど断じてできはしないのです!
そう――真の誉れとは、決して金銭で手に入るものなどではないのだからっ!」
「20億ゴルド出そう」
「売ったァ!!」
即売った。
「それでこそソウマだよね」
「だってお前、20億だぞ20億!! お前と山分けしても10億、俺の全借金が消し飛ぶミラクルマネーだ!!
逆になんでお前はそんな冷静なんだよ!?」
「ボクは別に、お金なんてほしくないし。
むしろそんなのない方が、これからもずっと冒険できるし……」
「…………」
「あからさまに理解できないって目で見ないでよ!」
金より魔物討伐か。
アルメアらしいと言えばらしい。
まあそれより20億だ。
浮きたつ心。
しかしそんなおれの幸福に。
ゼルバルドが、割って入ってきた。
「へ、陛下、20億ですと!?
いくらなんでもそんな大金を、このような輩に払ってはなりませぬ!」
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