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39 装備更新 [三人称視点] (2)

 ディオスの粘着質な視線に、ソウマたちは気づかない。


『えへへ、ソウマとおそろいだね。このまま持って帰るの?』


『いや。この後もまだ買う物があるからな。

 爺さん、明日また引き取りにくるぞ』


『おう!

 あと、残った素材はどうする? それも明日持ち帰るか?』


『まだ売る予定はないし、場所も取るしな……。そっちは爺さんが預かっててくれ』


 今日のところは持ち帰らないようだ。

 箱にしまわれる古竜の装備。

 それを、ディオスは未練がましく目で追う。

 窓枠に顔を押しつけ、不細工ディオス。


 ディオスの嫉妬は加速していく。

 古竜の装備を身に着けたソウマは、手に入れてしまうだろう。

 上位者の証としての、心地よい羨望と。

 下位者どもからの、ブザマでみじめな嫉妬を。


 それはディオスが、なによりも欲しているものだった。


「それは私のものだ……! 私のもののはずだったのに! 買える金だって持っているのに……!

 ぐうううううっ……!!」


 悔しくて涙が出る。

 ガジガジ木枠にかじりつき、汚いよだれまみれに。

 今やディオス自身が、嫉妬に身を焦がす側だった。


「うわあ……」


「キモッ」


「きったな」


 仲間にもドン引きされていた。


「うぐうううううう……!!」


 ディオスの心を、さらに乱すのは。

 古竜の装備に執着していない、あの態度だ。


 自分だったら、置いて帰るなどと考えもしないだろう。

 大よろこびで身にまとい。

 町中を練り歩いて、見せびらかすに違いない。


 そんな活用をしようともせず。

 あんなふうに店に預けて帰るなどと――


「…………。

 いや、待てよ?」


 がば、と跳ね起きた。

 よだれの糸を窓から引いて、うっわ、とか言われた。


 ディオスの目に、光がもどってくる。

 口元を袖でぬぐいつつ。

 にたぁ、と口を開いた。


「そうだ……。あの装備を、この私が奪ってやればいいではないか! クズ加護どもが去った後で!」


「えー!? 盗んじゃうの!?」


「さすがにそれはヤバくね?」


「そうよ! そんなことしたら、当然おたずね者じゃない!」


「盗む必要などないだろうが! なにしろ我がカーラント家には、金など腐るほどあるのだからな! あれほどの装備が手に入るのならば、相場の10倍出したところで惜しくなどない!

 クハハハハ! さすがはこの私だ……この窮地に、このような起死回生の一手を閃くとはな!」


 自画自賛。

 酔いしれるディオス。


 やがて店から、ソウマたちが出てきた。

 ディオスたちは物陰に隠れ、それをやりすごす。


「ねーソウマ、明日は北の森へ狩りにいこうよ!」


「それもいいが、せっかくのいい装備を試したいな。少し遠出する計画を立ててみないか?」


 ふたりは楽しそうに、次の目的地について話している。

 希望に満ちた、未来の計画。


 ディオスは、その背中を見送りつつ。

 歪んだ笑みを浮かべた。


「クハハハ……せいぜい今は、明日を楽しみに笑っておくがいい!

 あわれなものだ。その明日にはこの私の知性あふれる完璧な計略によって、なにもかも奪われているとも知らずになあ!

 希望を奪われたクズ加護が、また見せてくれるであろう絶望の顔……クハハハハハハ! 実に楽しみだ!」


 ソウマたちが完全に去ったことを確認し。

 ディオスは乱暴に、店の扉を開けた。

 意気揚々と入店。


「おい老いぼれ、よろこぶがいい! この光の勇者ディオス・カーラントが、貴様のしみったれた人生において二度とない商談を持ってきてやったぞ!」


「あん?」


「キャハハハ! せまーい、くらーい! ホントだ、前にきたことある店じゃん!」


「ドレスのひとつも置いてねーとか、マジ終わってるくね?」


「バカね。革だの鉄だの、安物しか扱ってない店なのよ。当然ドレスなんかあるわけないじゃない」


 全員そろって好き勝手。

 マルトーが顔をしかめる。

 不快にさせる才能にあふれていた。


「なんだてめえらは……? 冷やかしなら、今すぐ出てけや」


「そんなことを言っていいのか? 老い先短い貴様にとっては、人生で最大最後となるチャンスなのだぞ?」


 自信満々。

 上から目線。

 ディオスには絶対の自信があった。

 断られるはずのない、完璧で完全無欠の提案に。


 バサッ!

 腕を払い、マントをひるがえす。

 本人は震えるほど格好いいと思っている、必殺ポーズだった。


「いいか! 貴様が手がけた装備を、この歴代最強の光の勇者、ディオス! カーラントッ! が使ってやる栄誉を、慈悲深くも与えてやろうというのだ! 涙を流して感謝するのだな!」


「はあ……?」


「フン、耳が遠くて聞こえなかったか? この私っ! 光の勇者! ディオス! カーラントがだなあ!!」


「うるっせえやボケナス! てめえの名前なんぞ何度も聞きたかねえんだよ!!」


 怒鳴り返すマルトー。

 ディオスの顔を見て、片眉を上げた。


「光の勇者……てめえ、前に来たことありやがるよな?」


「ほう、覚えているとは感心だな。まあこの私相手ならば、それも当然と言えるか」


「そんだけ自己主張が激しけりゃ、ゴブリンだって覚えちまわあ。

 つうかよ、てめえの仕事は受けねえって言ったはずだぜ」


「ああ、あの時の貴様は、風邪だか何だかで死にかけていたようだったな。

 だがその内心では、この光の勇者の役に立ちたくてしかたなかったのだろう? 泣く泣くあきらめた貴様の姿は哀れだったぞ」


「覚えてねえのはてめえのほうじゃねえか! 誰が一言でもそんなこと言ったよ!

 俺はな、武器の目利きもできねえ素人のために剣を打つ気は、これっぽっちもねえんだよ!」


「やれやれ……無礼な老いぼれだな。まあ今日の私は機嫌がいい、許してやろう」


 肩をすくめる。

 余裕の表情。

 イラッとするマルトー。


「で、だな。

 私のために作った古竜の装備。それを今すぐよこすがいい」


「古竜だあ? 素材は持ってきてんだろうな?」


「なにを言っている? そら、そこにあるだろうが」


「……あん?」


 ディオスは当然のように、ソウマたちの装備を指す。

 マルトーの反応は、一瞬遅れた。

 常識で考えて、そのような提案がありうるとは思わなかったのだ。


「……こいつは売りもんじゃねえよ。他の客のもんを預かってるだけだ」


「だからどうした。いいから売れと言っている。

 私は人類のために戦う光の勇者だぞ? 私に協力するのは人類すべての義務だろうが!」


「はん! あいにく、こっちのほうの客も勇者様だ。てめえのほうを優先してやる道理はねえな」


「バカめ! 私はあの田舎娘などよりはるかに優れた、歴代最強の呼び声高いディオス・カーラントなのだぞ!?

 であれば! 私がそれを使ってやることこそが、より大きな人類の幸福につながるというものだろうが!」


「嬢ちゃんを知ってて言ってんのかよ……。

 てめえがソウマたちよりはるかに優れてるってんなら、はるかに優れた素材を自分で持ってくるんだな」


 呆れ顔。

 出てけ出てけ、と手を振った。


 皮肉を言われたディオスは。

 しかし、怒りはしなかった。

 それどころか、訳知り顔でうなずいてやる。


「やれやれ……劣等者というのは、これだから卑しいな。

 わかっている、これが欲しいのだろう?」


 ガシャン……。

 マルトーの足元に、なにかが放られた。

 金貨袋だった。

 重そうなそれには、100枚以上の金貨がつまっている。

 1000万ゴルドは下らない。


 マルトーはつまらなそうな目で、それを見下ろした。


「なんのマネだ?」


「無論それは手付けだ。そうだな……5億ゴルドほど後で届けさせようか。この廃屋のような店には夢のような大金だろう?

 あとは残りの素材で、剣や鎧も作っておけよ! ここにいる全員分をだ!」


「キャハハハ! あたし古竜のローブなんて初めて着るー!」


「あーし戦う気なんかねーけど、イケてる鎧着てっとマウント取れるくね?」


「こんな大金受け取ったんだから、当然装飾もケチらないでよね? ダイヤもついてない装備なんて、恥ずかしくて着られないもの」


 取り巻きたちも、装備更新に盛り上がる。

 すでに受諾されたものとして、注文までつけ始めた。


「クハハハハ……! この私が古竜の装備に身を包めば、最強を超えた最強! 究極を超えた究極の勇者となる!

 この恐ろしいまでの力によって、クズ加護など比較にならん功績をあげさえすれば! ギルドでのささいな一件などは、なかったこととなるに決まっている!

 この光の勇者ディオス・カーラントの未来は明るいぞ! クハハハハハハ!!」


 バサッ!

 またマントをひるがえした。

 毎日鏡の前で練習しているポーズである。

 披露する隙を、常に狙っているディオスだった。


 未来への希望にあふれる、勇者ディオス。

 それに対しての反応は、短かった。


「断る。出てけ」


「……なんだと?」


 本当にわからない。

 そういう顔をするディオス。


「頭だけじゃなく耳までおかしいのか? 断るっつってんだよ」


「……クハハハ! そうか、この額では不満か! まったくつくづく卑しいジジイだ!

 では5億5千万、いや6億ゴルド出そう! これだけあれば、短い余生を楽しむにはありあまる……」


 ガチャン!


 耳障りな金属音が、室内に響きわたった。

 マルトーが思い切り蹴り飛ばした、金貨袋の音だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 俺だったら、「こいつが欲しかったら、3000億位用意するんだな、そうすれば考えてやる。(やるとは言ってない)」って言うね。 伯爵の家なら精々1000億位だろうし、もし仮に3000億用意して…
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