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38 装備更新 [三人称視点] (1)

 その男の顔には、不満がありありと浮かんでいた。

 ディオス・カーラント。


 取り巻きの女たちを引き連れて。

 町中をうろつきながら。

 吐き捨てるように、愚痴をこぼす。


「くそっ……! なぜこのディオス・カーラントが、こんなみすぼらしい鎧を……!」


 安物の革鎧。

 駆け出しの冒険者が身に着けるような装備だ。

 ミスリル製でもなければ、魔法障壁を張ってもくれない。

 この前まで使っていた一級品とは、比べるべくもない代物だった。


「キャハハハ! 前の鎧は、古竜にぶっ壊されちゃったんじゃん!」


「つかあの鎧がなきゃ、ディオス死んでたくね?」


「当然よ、人間が古竜のブレスに何度も耐えられるわけないじゃない。鎧に感謝したら?」


「誰が感謝など! むしろあれだけ金を払ったにもかかわらず、あの程度で壊れる粗悪品を売りつけられたのだぞ! 必ず賠償を請求してやる!」


 いら立ちを吐き続けるディオス。

 その姿は悪目立ちしていた。

 3人の仲間たちが高級な装備をしているぶん、なおさらだ。

 それがまた、いっそうディオスの自尊心を傷つける。


「しかしお前ら、買い物ひとつロクにできないのか!? 金は渡してやっただろう!」


「だから言ったじゃん! それしか売ってなかったの!」


「最初はもっとよさげなの買ったし。中古がイヤだって返品させたのはディオスじゃね?」


「ふざけるな! 私に他人の払い下げを着ろというのか!?

 そのような姿をさらして愚民どもに見下されるなど、考えただけで虫唾が走る!」


「考えすぎでしょ。それに王都ならともかく、こんな田舎町でいい鎧が買えないのは当然よ」


「うるさい! 見ろ!」


 ディオスは前方を指さした。

 町の入り口。

 そこでは、ふたりの衛兵が立番していた。


「あんな衛兵どもですら、ワイバーン革で作った鎧に身を包んでいるのだぞ!?

 この光の勇者たる私には、せめてあの程度の装備があってしかるべきだろうが!」


 怒りを声ににじませ、そう言った。

 当の衛兵たちも、心なしかうれしそうな顔である。


「だーかーらー、それも言ったじゃん!」


「つかワイバーンの素材、そこらの店に全然なかったくね?」


「買えなかったのは当然よ。どうやらあのクズ加護が、全部町長に売り渡したらしいわよ。

 魔物が町を襲わないように装備を見せつけてやれ、とかなんとか」


「くそがっ! 卑しいクズ加護の分際で、どこまでも私の邪魔を……!」


 ダン! ダン!

 地団太。

 そんなディオスの耳に、衛兵たちの会話が聞こえてくる。


「こんないい装備が支給されるなんて、本当にありがたいなあ」


「ああ。ソウマとかいう冒険者には感謝しないとな」


「ぐぐぐ……」


 なぜあのクズ加護が称賛される?

 そしてなぜ、この私がこんなひどい目にあわされる?

 私がなにをしたというんだ。

 理不尽だ。不公平だ。

 ディオスは心から、そう思っていた。


「あ、あそこ。クズ加護いるくね?」


「なんだと!? どこだ!?」


「ほら、アレっしょ」


 ヘルメが指した先。

 言葉のとおり、ソウマとアルメアが歩いていた。

 談笑などしながら、どこかへ向かっている。


 やがて、一軒の店に入るのが見えた。

 軒先には鍛冶屋の看板。


「キャハハ、あんなボロい店に入るなんてビンボっぽーい! カワイソー!」


「あ? あの店、あーしらの装備作んの断りやがったとこくね? あのマジ最悪なジジイの」


「有名な鍛冶師だっていうから依頼してあげたのに……本当に最低な店だったわね。勇者パーティの依頼なんだから、平伏して引き受けるのが当然なのに」


「だが、クズ加護が入ったということは……やつらの注文を受けたというのか?

 下賤の輩め、この歴代最強の勇者ディオスが足を運んでやった恩も忘れて、よりにもよってあんなクズ加護どもを優先するとは……!」


 好き勝手なことを言いながら、ディオスたちは店に近づいていく。

 ソウマたちの弱みでも握れないか、などと期待して。


 窓際に張りつく4人。

 コソ泥のように身を屈める。


「やだ、なにあの4人組……」


「不審者かしら、いやねえ」


 ご近所の奥様方が、率直な感想を言いあった。

 それが聞こえなかった幸せなディオスは、窓から店内をのぞきこむ。


 ソウマ、アルメア。

 それと店主のドワーフ。

 みな笑顔で、楽しそうだった。


『おう! 来たか嬢ちゃん、待ってたぜ!』


『来ました! こんにちはマルトーさん!』


『なんだ、ソウマもいたのか。もうタダでくれてやるもんはねえぞ?』


『開幕からどういう接客だよ』


『がはははは! 特急で仕上げてやったんだ、軽口くれえ叩かせろや!』


『そっちが勝手にやったことだからな。特急料金は払わんぞ』


『もー、ソウマ!』


『アルメアもギルドで聞いたろ? この爺さん、この国一番の鍛冶師だったんだぞ。

 目ん玉飛び出るような特急料金だったらヤバいからな』


『んなもん、てめえから取れるわけねえだろが!

 こちとら右腕の恩人を忘れちまうほど、落ちぶれちゃいねえっつの!』


 マルトーは笑いながら、木箱を持ってきた。


 中身は服らしきもの。

 他にもマントやブーツ、それに手袋など。


『ほらよ、あんたらの注文の品だ。

 古竜の硬革で作ったチュニック。さしずめ竜鱗のチュニックってところだな』


『わあ……!』


 アルメアがうれしそうに、チュニックを取り出す。

 自分の肩に、うきうきと合わせた。

 ソウマも自分の分を取り出し、大きさを確かめている。


『本来だったら剣だの鎧だのと、鍛冶師の夢がガンガンふくらむとこなんだが……。

 ま、嬢ちゃんにゃ合わんわな』


『うん。ボク、装備は自前で出すから。

 なるべく身軽なほうがいいって、ソウマも言ってたしね』


『ただの服に見えても、古竜なんつう極上の素材だ。そこらの鎧よか、よっぽど頑丈なデキだぜ』


『えへへ……。こんなにいい装備、ボクなんかが着ちゃっていいのかなあ』


『なに言ってやがる、古竜を倒した勇者様がよ!

 おめえがふさわしくねえってんなら、どこの誰がふさわしいのか教えてほしいくらいだぜ!』


「こ、古竜の装備だと……!?

 それほどの品がふさわしいのは、このディオス・カーラントに決まっているだろうが……!」


 ワイバーンなどとは比べ物にならない高級品だった。

 ミスリルの鎧よりも貴重で、強力な防具。

 ディオスは顔を、べったりと窓に張りつけた。


『そうだぞアルメア。正当な働きに正当な報酬が発生しただけだ』


「なにが正当だ……! クズ加護め、私のものとなるはずだった功績を不当に盗んでおきながら、よくよく言えたものだ!」


 本当に盗もうとした人間の言葉ではなかった。


『まあ、嬢ちゃんは武器なしでいいとして、ソウマは剣がいるんじゃねえのか? 現状丸腰だろ」


『いらん。金がもったいない』


『『ハア……』』


『おいなんだその目は。魔石で筋力を強化すると、ヘタな剣じゃ折れちまうんだよ。金が減る!』


『だからそこに古竜の骨があんだろ』


『それで折れたら損害がでかすぎるだろ!? 俺の心も一緒に折れるわ!』


『ボクとしては、古竜の魔石でソウマの武器を作ってもいいと思うんだけど』


『おおお恐ろしいことを言うなっ!?』


『竜の魔石か……。出力が高すぎて、使い勝手わりぃんだよなアレ。

 昔は上級竜の魔石で、王族を入れる(おり)とか作ったらしいけどよ』


「ギギギギギギ……」


 歯ぎしり。

 いつの間にか、ディオスの口からもれていた。


 卑しい人間だと見下し、そして追放したクズ加護の冒険者。

 不幸になるはずだった彼が、楽しそうに笑っている。

 自分が決して手に入れられないものを、手にしながら。


 うらやましかった。

 妬ましくて、しょうがなかった。

 衛兵たちへのそれに数倍する感情。

 それが、ディオスの胸の奥底に溜まっていく。

 どろどろと粘つきながら。

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