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37 勇者とZランク (5)

 その封書は、上質な紙と封蝋で作られていた。

 開けた中身を期待させるような、特別なものに見える。


「これはギルドマスターである私の名前で書いた、ソウマ君に関する国王陛下への上申書だ。

 このギルド支部の権限では無理でも、陛下の協力を取りつけられれば、すぐにランクの昇格が可能になるかもしれない。うまくいけば近いうちに、君たちは王都に呼ばれることとなるだろう」


「やけにサービスがいいんだな」


「有望な冒険者を報告するのは、私の職務のうちだよ」


 そしてギルマスは、周囲を見渡した。

 戸惑い顔の、Dランク以下の冒険者たち。

 まだ事態を把握できてないそいつらに向け、口を開く。


「諸君も承知しておけ! このソウマ君は君たちにとって、格下の冒険者などではない! 光の勇者が負けた古竜を、たったふたりで倒してみせた凄腕だ!

 今後彼らに余計なちょっかいをかければ、痛い目を見るのは諸君の方だということでもある! 肝に銘じておくように!」


 この場の全ての者が、一瞬静まった。

 冒険者ギルドのトップの、直々の言葉だ。

 注目しない人間などいない。


 別に、善意だけというわけでもないんだろう。

 冒険者間のもめごとを、ギルドは望んでいない。

 それに先手を打ったわけだ。


「あ、あいつやっぱり本当に、古竜を倒してたのか!?」


「ウソでしょ。信じられない……」


「ありえねえよ! 古竜って、西の帝国が総がかりで倒せなかった伝説の黄金竜なんだろ!?」


「俺だってそう思うが、ギルドマスターがああまで言ってるんだぞ。事実だとしか……」


「さっきの映像じゃ、ディオスだってあっさり負けてたじゃねえか! どんだけ強いんだよあの二人!」


「や、やべえ……。俺、さっきあいつをバカにしちまったぞ!?」


「俺も、古竜を倒せるわけないとか、つい……」


「ひっ! こ、こっち見てるぞ!」


 そりゃまあ見てるが。

 話が聞こえただけで、特に他意もない。


 しかし当人たちは、そう思わなかったのか。

 青くなって冷や汗を流し始めた。

 そそくさと退散していく。


「ははっ。すっかりビビられてるみてえだな、ソウマ!」


 ハゲが筋骨たくましく話しかけてきた。


「あんたは、もうZランクとは言わないのか?」


「かんべんしてくれよ。あの戦いを見てお前を格下扱いすんのは、馬鹿(ディオス)くらいのもんだろ」


「まあ強いのはアルメアであって、俺が大して強くないのは事実だけどな」


「なに抜かしてやがる。あのクソ竜を一発で蹴り飛ばしてただろうが。

 ありゃあ、見てるこっちもスカッとしたぜ!」


 そう言って笑うハゲ。

 俺も、つられて笑った。


「そういえば、さっきの記録水晶は助かったよ。恩に着る」


「ははは! 命の恩を少しでも返せたんなら良かったぜ。

 将来のSランク冒険者に恩を売れたんなら、勇者様にメンチ切ったかいもあったってもんだ」


「Sランクって。そりゃ持ち上げすぎじゃないか?」


「そんなことないですよ!」


 熱っぽい声。


 見れば、ボロボロの冒険者たちだった。

 ワイバーンと戦い、俺の無実を証言してくれた集団だ。

 年若い数人が、ぐいぐい詰めよってくる。


「私たち、ソウマさんとアルメアさんには、本当に感謝してるんです!」


「あんだけヤバい敵だったのに、誰も大したケガせずに帰れたんだ。あんたらが懸命に戦ってくれたからだよ」


「俺なんかあの時、情けねえけど死ぬのが怖くて足が動きませんでした。

 でもソウマさんはSランクのディオスなんかより、よっぽど勇敢に戦ってたじゃないですか!」


「勇者どころか、ただのポーターだってのにな! ホントすごかったですよ!」


「お、おう……そうかな?」


「そうですよ! ソウマさんは仲間のために、古竜とひとりで渡りあった、誰より立派な冒険者です!

 Sランクのギルドカードだって、すぐ手に入りますよ!」


「ああ。不正にランクを上げようとする貴族がわんさかいるこのご時世に、大したやつだぜ」


「なんだ、そんなやつもいるのか? 裏口評価なんて、冒険者として恥ずべき連中だな」


「まったくだ。Sランクカードの相場が8000万ゴルドだっけか」


「8000万……? その話ちょっと詳しく」


 興味を示す俺。


「ま、そんなお前らと肩を並べて戦ったのは、いずれ自慢話にさせてもらうぜ。

 伝説に名を残す冒険者ってのは、きっとお前らみたいなやつらだったんだろうな……」


「そうなんですよぉ! ソウマさんのお名前と記録は、確実に歴史書にも残るんですからぁ!」


 筋骨ハゲのセリフに、興奮気味のフェリシアが続けた。


「なんだ歴史書って」


「だってZランクの冒険者が、伝説の古竜を倒しちゃったんですよぉ!? そんな冒険者は、過去にひとりも存在しないじゃないですかぁ!」


「そりゃそうだろ。Zランクって俺だけじゃないか」


「なのでソウマさんのお名前は、10億ゴルドの借金を背負ったドラゴンスレイヤーとして、未来永劫歴史書へ載り続けちゃうと思いますぅ!」


「おいやめろ」


 低い声で止めた。


「どうかしましたかぁ?」


「借金のことは書かなくていいだろ! 羞恥プレイか!」


「えぇ~。でも、こんなものすごい借金を背負えちゃうのだって、ソウマさんにしかできない偉業ですよぉ」


「それのどこが偉業だ!」


 誰にもできないっていうか、誰もやりたくないだけだ。


「というか俺はそもそも、有名になんてなりたかないんだよ。金看板はアルメアひとりで間に合ってる」


「歴史書に載っちゃうのか~。ま、ソウマならそうなって当然だよね! えへへっ」


 今度はアルメア。

 なぜか得意げである。


「いらんいらん。アルメアだけ書いてもらっとけ」


「えー! イヤだよそんなの!

 ボクがほめられるのは全部ソウマのおかげなんだよ? これでボクだけ偉そうにしてたら、ボクすっごい恥ずかしいヤツになっちゃうよ!」


「勇者のとなりにいるZランクのほうが、寄生っぽくて恥ずかしいだろ」


「じゃあソウマもSランクになってよ! 次に古竜が出た時に、ソウマがひとりきりで倒したらきっと認められるんじゃないかな! それで問題ないよね?」


「問題しかないな!」


「ソウマぁ、一緒に強くなろうよぉ♡ ふたりで魔物をいっぱいくびり殺して、仲良く返り血を浴びながら笑おうよぉ♡」


「上目づかいでねだってくるの、俺の頭がバグるからやめろ」


 ……目まぐるしかった、今日という日が終わる。


 一時はどうなることかと思ったが。

 結果として、多くのものを得ることができた。

 数億ゴルドという大金。

 冒険者やギルドマスターからの好意的な評価。


 それらは一言で表せる。

 希望。

 今までの俺が、持ちえなかったものだ。


 スラムで這いつくばってた頃。

 ディオスのパーティで酷使されていた頃。

 どんなにつらい時でも、誰かに顔向けできない生き方をした覚えはない。

 が、明日に不安がないわけじゃなかった。

 飢えと焦りは、いつだって俺のとなりにあった。


 それが今はどうだ。

 追放された時の絶望が嘘のようだ。

 俺の未来は、これからもどんどん良くなっていく。

 そう、無邪気に信じることができた。


 明日はなにをしようか。

 とりあえずはまた、装備でも買うか。

 せっかく新調したアルメアの服も、戦いでもうボロボロになっている。

 古竜の素材でなにか作るのもありだな。

 マルトーの爺さんに相談してみよう。


 俺は宿へ向かう道を。

 わくわくするような気分で、ゆっくりと進んでいくのだった。

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