36 勇者とZランク (4)
「それを、よこせえええっ!!」
周囲を押しのけ、つかみかかってくるディオス。
「なにしやがる」
しかし、筋骨ハゲもそれを予測していたのか、ひょいとかわした。
つんのめったディオスが、勝手に転び。
ガツンと、顔面を床に打ちつける。
「ブギャッ!?」
端正な顔が、噴き出した鼻血と泥で汚れる
美形が見る影もない。
それでも、鼻をおさえながら立ち上がり。
狂犬のようにがなり始めた。
「き……貴様らあ!! この光の勇者ディオスではなく、あんな卑しいクズ加護とゴミ勇者に肩入れするというのか!?
そんな理由が、道理が! 一体どこにあるというのだ!?」
「なに抜かしてやがる! お前だって命を助けてもらったってのによ!」
「ほんとよ! 卑しいのはどっちだっての、この恩知らず!」
「なにが勇者だ! 今すぐやめちまえ!」
「な、な、なっ……!?」
まあこうなるよ。
そんな予想外みたいな顔されても、こっちが予想外だわ。
「ま、まずいじゃんディオス!?」
「最悪……! ホンット最悪……!」
「だから私はやめようって言ったのよ! こうなって当然なのに!」
ディオスの取り巻きの女どもが、金切声を上げる。
最悪なのはお前らだぞ。
軽蔑の視線に囲まれて、涙ぐんだり、ぷるぷる震えたり。
これ以上ない恥さらしだ。
こいつらのパーティを抜けていて良かった。
心底そう思った。
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」
ディオスは怒りで、顔をどす黒くゆがめている。
いつものこいつなら、もう逆ギレ勇者魔法を乱射していただろう。
しかし、これだけの衆人環視の場。
しかもギルドマスター相手だ。
そんな中での暴力沙汰は、さすがのこいつも踏み切れないようだ。
苦汁をリットル単位で一気飲みしたような、ディオスの顔。
ぶるぶるしながら腕を上げた。
震える指はふらふらと俺を指し、ギルマスを指し、冒険者を指し。
最後に、キツネ目を指して止まった。
「こ……こいつが! こいつが勝手にやったことなのだ!
そうだ、この私はなにも知らん! 全てはそこのドクメントという男に責任がある! この私ではないっ!」
「な、なんだと!?
ふざけるな! 私はお前の要望どおりに動いてやっただけだろうが! 降格寸前だったのに助けてやった恩を忘れたのか!?」
「そんな証拠がどこにある!? ギルド内で権力を持っているのは貴様で、そこの預かり証を書き変えたのも貴様だろうが!
正義に仇なす犯罪者め、言い逃れは見苦しいぞ!」
「き、貴様、どの口が……!」
取っ組みあい。
体を鍛えてないディオスは、みっともなくキツネ目と拮抗。
顔をひっかかれてブチ切れた勇者様は、電撃魔法を流しこむ。
キツネ目がギャーと痙攣し、床に倒れた。
ディオスは嫌らしく笑いながら、何発も追撃。
しかし、反撃にスネを蹴られてもんどりうった。
醜すぎた。
どやどやと、衛兵たちがギルドに入ってくる。
ギルマスがあらかじめ、呼んでおいたんだろう。
キツネ目を手際よく押さえつけ、縄を打つ。
「や、やめろ! 貴様ら、私を誰だと思っているのかね!?
わた、私は、いずれここのギルドマスターになる人間だぞ! その時には、貴様らのクビなど簡単に……」
「ドクメント、お前にそんな未来はない。あきらめるのだな」
ギルマスが、キツネ目を見下ろしてそう告げた。
「そんなバカな! たかが底辺冒険者の書類手続きをミスっただけではないかね!
たかが、たかがそれだけで私のギルドへの貢献が白紙になるなど、そんなバカなことがぁ!!」
「賄賂の授受も公文書偽造も『たかが』などという罪ではないし、古竜の討伐は歴史書に載るほどの大きな功績だ。それこそ、お前の功績とは比べ物にならんほどのな。
それをもみ消そうとしたのだ。立場よりも、その首を物理的に落とされる心配をしたまえ」
「そ、そんな!! そんなぁぁ!!」
怒りは絶望へ。
みっともなくわめきながら、連行されていく。
自業自得だな。
哀れに見えるが、もし今回のことがなければ。
あいつはこれからもギルドの重鎮として、数多くの冒険者を陥れ続けたことだろう。
それを思えば、同情心なんてわかなかった。
さて。
残ったディオスが、今度は俺に指を突きつけてきた。
「フン! クズ加護! 心の広い私が、今回は功を譲ってやる! ありがたく思うんだな!」
ツバを飛ばしてそう言った。
そして、逃げるように去っていく。
取り巻きも、自分は悪くないだの言いながら後を追う。
「いや、なんていうか。相変わらずすごいな」
「光の勇者って、本当にあんなひとだったんですねぇ……」
フェリシアまで呆然としていた。
「ソウマ、ディオスが逃げちゃうよ! 追わないと!」
「いいや、逃げられるわけないだろ。この場から去ったところで、やらかした罪がなくなるわけじゃないからな」
むしろ立場は悪くなる一方だ。
ギルマスも、そのとおりだとうなずく。
「勇者の名にかけた上での偽証は、任命した国王への背信行為となる重罪だ。冒険者ギルドの立場としては、そのような者をみすみす逃がすことはありえない。
勇者の資格を失うか、懲役を科されるか……。いずれにせよ、絶対にこのままでは済まされないだろう」
国の重鎮の太鼓判である。
もちろん、キツネ目以上に同情する気は起こらない。
あんなのが勇者認定されてること自体が、そもそも問題なんだ。
「ソウマ君、申し訳ない。今回のことは、私の監督不行き届きだ」
ギルドマスターはそう言って。
俺に、深く頭を下げた。
「君の冒険者ランクは、本来ならばすぐにでも元のランクに……いや、古竜討伐の功績を考えれば、さらに昇格させるべきなのだが……」
話を聞いてみると。
この支部の権限では、すぐには手続きができないようだ。
キツネ目は賄賂で、本部の職員を抱きこんでいた。
そのせいで、書類上は不備がない。
だからそれを巻き戻す処理が、難航しているとのこと。
「そんな! それじゃ、ソウマはいつまでZランクなんですか!?」
俺が何かを言うより先に、アルメアが怒り始めた。
「あと三ヶ月はかかるだろう……。重ね重ね申し訳ない」
ギルドマスターは罪悪感からか、何度も謝ってくる。
「口で謝ったからって……」
「もちろん、ギルドから慰謝料を払わせてもらう。
2000万ゴルド。せめてもの詫びとして、受け取ってもらえないか」
「2000万ゴルド!!」
俺はギルドマスターの手を、しっかりと握った。
「あんたの誠意はよくわかった。その詫び、ありがたく受け取ろうじゃないか……!」
「おお、そうか!」
「ソウマ! そんな簡単に許すなんてダメだよ!」
「別にいいだろ、怒るほどのことじゃない」
「もー!」
「すまないなアルメア君。だが私も冒険者ギルドの長として、打てる手は打ってみるつもりだ」
ギルマスはそう言って、一枚の封書を取り出した。
「面白かった」
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