35 勇者とZランク (3)
ギルドの制服を着た初老の男。
他のギルド員より華美な装飾だ。
その人物の登場に、キツネ目はうろたえていた。
「ギルドマスター……い、いらしていたのですね……」
「ドクメント副長。なにやらもめているようだが」
「え……ええ! はい、はい、そうなのですね!
このZランクの冒険者がですね、恥知らずにも他人の功績を横取りしようとしておりましてね! いやこれはもう、大変に問題なことだと! 義憤に駆られて叱りつけていたところでしてね!」
「ほう」
まくしたてるキツネ目。
勢いで押そうとしている。
ギルマスの予想外な登場。
それを、危機ではなく好機に変えようと考えたのだろう。
愚者の選択だった。
「しかも横取りしようとした相手が、なんと光の勇者様でしてね!
私はそんな言いがかりを通してはならないと、このZランクに振るわれた暴力にも屈することなく、毅然として立ち向かっていたところなのでしてね!」
「なるほど。ではこの預かり票は、君が手ずから名前を書き換えたと、そういうことかな」
「ハイ! おっしゃるとおりでしてね!
私があらためてこちらのディオス様に綿密な聞き取りをした結果、呆れ果てるような虚偽報告が明るみに出たと、そういうわけでしてね!」
「ギルド長、そこのドクメントのいうとおりだ! この光の勇者ディオス・カーラントの功績を……しかも古竜討伐などという歴史的な偉業を盗もうとは、実にハレンチ極まりないと言わざるをえない悪行!
これほどまでに卑しいクズ加護を、この私の輝かしいパーティに在籍させていたとはな! まったくこの私の生涯唯一の汚点と言えるな! クハハハハハハハハッ!」
バカ笑いするディオス。
ギルマスは静かに答えた。
「そうか、それは奇遇だな。
こちらもつい先ほど、古竜討伐についての聴取を終えたところだ」
「ち、聴取とは……誰になさったのですか?」
「それはもちろん、そこにいる鉄の勇者。アルメア・シュタル君にだよ」
「…………」
ギルマスの視線が、こちらへ向けられる。
アルメアは鋭利な眼光を、ディオスに突き刺していた。
隣のフェリシアも涙ぐみながら、ひどいです、とつぶやく。
勝手に書き変えられた預かり票を、ぎゅっと握りしめている。
青くなるキツネ目。
「だが私が直々に聞いた話とは、ずいぶんと食い違いがあるようだ。
ドクメント副長、これは一体どういうことなのだろうな?」
「そ、それは、どういうことだと申されましてもですね……」
「そんなもの決まっているだろうが! その小娘が嘘をついたというだけの話だ!」
ディオスが割って入った。
大声でがなりたてる。
「その小娘は、クズ加護と同じパーティの人間だろう!? この私の武勲をかすめ盗るために、そいつらが口裏を合わせているだけだ!
実に卑しい、実に見下げ果てた行為だ!」
「しかしそちらも、あなた自身の証言しかないようですが?」
「この私は伯爵だろうが! 貴族の証言よりも、どこからわいたとも知れん田舎娘のたわ言を取るとでも言うつもりか!?」
「冒険者ギルドは国王直轄の組織です。貴族という立場に忖度などしませんし、判断は明確な証拠をもって客観的になされなければ……」
「うだうだと能書きばかり並べるな! この歴代最強の勇者であるディオス・カーラントが、そこのクズ加護の卑しさを証言しているのだぞ!? これ以上の真実など存在するわけがないだろうが!!」
ギルマスの冷静な言葉と、ディオスのアホな言い分の落差がひどい。
ため息をつくギルマス。
「では、勇者の名にかけて正義を主張すると?」
「ああそうだ! 勇者の名にかけて、私は嘘などつかない! つくわけがない!」
ディオスは、実に堂々と言い放った。
腕を振り、上品なシルクのマントをひるがえしながら。
知らない人間が見れば、まさか嘘つきはこいつのほうだとは思わないだろう。
それほどの堂々っぷり。
真正と言えた。
「ディオス伯爵。実は、他にも証人がいましてね」
その言葉を受けて、扉から証人が追加登場。
ぞろぞろと。
古竜と一緒に戦った、Cランク以上の冒険者たち。
当たり前だった。
証言を取るのに、たったひとりの証人で良しとするはずがない。
そこのアホどもじゃあるまいし、
「これほど多くの冒険者が、アルメア君は皆を守りながら古竜を倒してくれた、と口をそろえて証言しているのですよ」
「…………」
キツネ目の顔色は、青を通りこして土気色。
不屈のディオスが食ってかかる。
「で、でたらめだ! 買収されたに決まっている! 古竜討伐で得られる金額を考えれば、その程度の人数に金を握らせることなど簡単だろうが!」
「買収ね……」
ギルマスの呆れた声音。
ちらりとカウンターを見る。
その視線は、ディオスが置いた金貨袋に注がれていた。
「おい、ディオスさんよ」
低い声。
ふりむけば筋骨ハゲ。
証人となった冒険者たち全員が、ディオスを見つめていた。
これ以上ないほど冷ややかに。
「なんだ貴様! 低級冒険者ふぜいが、この光の勇者の名を気安く呼ぶな!」
「いやな。俺たちが嬢ちゃんたちの素材運びを手伝ってる時に、こんなもんを拾ったんだけどよ」
ごつい手が、何かを差し出した。
ガラスのような材質の、丸い玉。
記録水晶。
映像を記録・再生する魔道具だった。
「そ、それは……!!」
そばにいた魔法使いの冒険者が、手をかざした。
魔力を注いで起動させる。
内部に記憶された光景が、球面に浮かび上がった。
『その身で味わい果てるがいい! 【限界突破……増幅爆轟電】ッッッ!!』
『フ、フホホホホ……! 多少は驚いたが、所詮はゴミどもの魔法よな!』
自信満々なディオスの攻撃。
無傷の古竜。
光の勇者が敗北するまでの一連の流れが、バッチリ記録されていた。
『ぐ、ぐぎぎ……あぎゃあああああああっ!?』
『あぎゃあああっ! あぎゃあああああああっ!!』
映像の中で、転がされるディオス。
ブザマな悲鳴が響きわたった。
恥か怒りか、当人の顔が赤黒くなっていく。
『ぎゃああああああああああっ!!』
『のおおおおおおお……! 金貨が……! 金貨がぁ……!!』
関係ない俺の悲鳴も響きわたった。
流れ弾やめてほしい。
恥で顔を赤くしたアルメアが、ぺしりと叩いてきた。
震えるディオスは、目をむいて。
亡者のように、その手を伸ばしてきた。
記録水晶を奪い、叩き割ろうというのだろう。
「それを、よこせえええっ!!」
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