34 勇者とZランク (2)
「…………」
俺が、イヤイヤ振り向くと。
「フン!」
案の定、ディオスだった。
取り巻きの女どももいる。
というか元気だな、ディオス。
アルメアに目いっぱい煽られて、再起不能になったと思ったが。
人様を見下したことで、元気が出たんだろうか。
「おい、ドクメント! さっさと出てこい!」
突然怒鳴るディオス。
するとギルドの奥から、見覚えのあるキツネ目が出てきた。
「これはこれはこれは! ディオス様!」
カウンター越しに、満面の笑顔を見せた。
平伏せんばかりの媚びた声音。
もみ手もしまくりだった。
このキツネ目は確か、副ギルド長だったはず。
それがなんでディオスに、こんなにへつらっているんだ?
貴族だからか?
「遅いぞドクメント。この私を待たせるな」
「いやはや、申し訳もございませんね。
ですがどうにも部下どもが無能でして、魔物が多すぎて解体の手が足りないなどと泣き言をいっておりましてね、ええ」
「ほう。私がこの町のために魔物を討伐してやったのが、迷惑だとでも?」
「いえいえいえ! 滅相もない!」
「いや、お前なにもしてなかっただろ」
古竜に一発不意打ちしただけだ。
その後は延々とブレスで転がされ続けただけ。
結局、ワイバーンの一匹も倒してない。
「ところでお約束の、例のアレの報酬をいただきたいのですがね……」
「さて、なんだったかな」
ちらり。
こっちを見るディオス。
キツネ目も。
取り巻き連中まで。
「キャハハハハ……」
「クスクス……」
「アハハハハ……」
俺を横目に見ながら、含み笑い。
感じ悪い連中だな。
いつものことだが。
「ディオス様もお人が悪いですね。先日提案していただいた、新ランク創設の件でございましてね。
なにしろ前例がないことですので、根回しにも相当自腹を切ってしまっておりましてね」
「フン、冗談だ。俺はそこにいるクズ加護などとはちがって、金は惜しまん」
革袋を、カウンターに放る。
金属が重くこすれる音。
銀貨や銅貨の音ではない。
金貨がたっぷりつまっていることが、容易に想像できた。
キツネ目はそれを、とてもうれしそうに受け取って。
事務机ではなく、私物だろうカバンに入れた。
こいつら……。
「だが実にいい働きだったぞ。てっきりGランク程度になるかと思いきや、Zランクとはな! この国で最も劣ったクズ加護の冒険者にふさわしい格付けだ!
このディオス・カーラントが、この功績を覚えておいてやろう! クハハハハハハハハ!」
「いえいえいえ。国を深く憂う者として、当然のことをしたまででございますからね! ハハハハハハハ!」
しまいには高笑いを始めた。
Zランクって、こいつの手回しだったのかよ。
呆れ半分、嫌悪半分。
ていうか、わざわざ俺の前でこんなやり取りする意味あるか?
どうにかして俺に嫌な思いをさせてやろう。
そんな無駄な情熱を感じる。
俺はディオスに怒りよりも、嫌悪を抱いた。
理解できなすぎて、ぶっちゃけキモい。
「どうしたクズ加護? なにか文句でもあるのか?」
「くだらない金の使い方だな」
「クハハハハ! 訴えたければ、どこへでも訴えるといい!
だが歴代最強の光の勇者にして伯爵であるこの私と、無能により追放された貧民上がりのZランク! 果たして世間は、どちらの言葉を信用するかな!?」
「古竜に手も足も出なかった勇者様の信用が、今までどおりだとは思えないけどな」
「何を言っているかわからんな! 古竜を倒したのは他でもない、このディオス・カーラントだろうに!」
「まったくそのとおりですね! やはりZランクは加護どころか記憶力まで悪いようですね!」
「はぁ?」
なにを言い出すんだこいつは。
ブレスで吹っ飛ばされた時、頭でも打ったのか?
「古竜の首をはねたのはアルメアだろうが」
「そこだ! 本当にうまくやったものだな、貴様らは!
この私の超強力な攻撃魔法で瀕死にしたところを、横からハイエナのようにトドメだけ盗んでいったのだからな!」
「キャハハハ! 本当、最低なクズ加護どもじゃん!」
「てかマジ恥知らず? こいつら面の皮厚すぎくね?」
「そうよそうよ! さんざんディオスの世話になってきて、感謝して当然なのに!」
「ええ……」
ドン引きした。
こいつら、本気で言ってるのか?
ディオスのバカが、女どもにまで感染したんだろうか。
「あの田舎臭い小娘も、よくよくの恥知らずだな! 私の功績をかすめ盗るなど、勇者の名にふさわしくない恥ずべき振る舞いだろうが!」
「つくづくブーメランが得意な勇者だよな、お前」
「は? どういう意味だ?」
俺はため息をついて、もうなにも言わなかった。
つきあってられないな。
古竜の査定はまだかかるらしいし。
魔物素材の預かり票をもらったら、さっさと帰るか。
それまで、あとどれくらいかかるんだろうか……。
「それではディオス様、こちらが魔物素材の預かり票です」
キツネ目は、俺を見てニタリと笑うと。
一枚の書類を取り出して。
ペンでぐしゃぐしゃと、一部を消し潰した。
そのかわりに、ディオスの名前を書き入れる。
下品な笑顔を浮かべるディオス。
追加の金貨袋を、カウンターに置いた。
「ああ。そら、今回の手間賃だ」
「これはこれは! ありがたくいただきます!」
その預かり票の、潰された箇所には。
俺とアルメアの名が、記されていた。
「いや……待て。
お前ら、まさか」
「クハハハハハ! どうした、顔色が変わっているぞ?」
「ふっ……ざけんな、てめえら!!
それは俺とアルメアのもんだろうが!!」
思わず、声を荒げた。
周囲の注目が集まるのがわかる。
だからどうした?
怒りに支配されるのを自覚しつつも、止められない。
「おいおい、妙な言いがかりをするものだな。
常識的に考えろ。Zランクのクズ加護とゴミ勇者ごときが、伝説の古竜を倒せるわけがないだろうが。
そんなことが可能なのは、この歴代最強の勇者である私だけに決まっているよなあ?」
こいつら……こいつら。
この金まで、盗もうとしやがるのか。
俺をZランクに貶めただけに飽き足らず。
アルメアといっしょに命がけで戦い、手に入れた報酬まで。
キツネ目の胸倉をつかむ。
傷だらけの身体が悲鳴を上げるが、無視した。
声を低め、親切に忠告をしてやる。
「おいクソ野郎……今すぐその名前を元どおりに書き直せ。てめえの身が可愛いならな」
「な、な、なにをするのだね!? ギルドの人間に手を出すなど、ゆゆゆる、許されるわけが……」
「てめえのやってることなら許されるって言うのか!?」
「見苦しいぞクズ加護!」
ガッ!
不意に、横からぶん殴られる。
俺はイスやテーブルを派手になぎ倒し。
肩から床に転がった。
「ぐっ……」
「フン、クズ加護のポーターが勇者とギルドの決定に逆らおうとは。まさしく身の程を知れというやつだ」
「た、助かりましたディオス様!」
「なぁに。卑しき者を誅し正義を成すのも、勇者の務めだからな。クハハハハハ!」
俺は、傷ついた体をよろよろ起こす。
床を転がったせいで、泥まみれだ。
そんな俺を、まわりの冒険者たちは。
遠巻きに見て、うわさし始めた。
「おいおい、Zランクがディオスに殴られたぞ?」
「ディオスが功績を盗んだとか聞こえたが……」
「何言ってんだ、逆に決まってんだろ。Zランクが光の勇者の戦果を横取りしようとしたんだろうよ」
「なんだ。やっぱり古竜を倒したなんてウソだったんじゃねえか」
「Zランクが古竜を倒せるわけねえよな」
「そんなハッタリ、通るわけねえのにな! バカなやつだぜ!」
的外れな憶測。
面白がるような笑い声。
俺を助けようとする者は見当たらない。
昔そうだったように。
「キャハハハ! ねえディオス、あたし新しい指輪がほし~い!」
「あーしもあーしも! この前買ってもらったドレス、いつの間にか破れてたくね!」
「おいおい、装備でもないものに金を出させるつもりか?」
「当然じゃない、臨時収入がたっぷり入ったんだもの! みんなでパーッと使っちゃいましょうよ!」
ああ、こいつらもそうだったのか。
スラムに住んでた頃、いつもからんできた連中。
俺から理不尽に奪おうとするクソども。
唾棄すべき人種。
こんなのを仲間だと思っていたかつての俺は、本当にバカだった。
かみしめる。
……だから。
こいつらがどうなろうと、もう俺の心は痛まないだろう。
ギルドの奥の扉を開け、現れる人影。
「ソウマ!」
「ソウマさん!」
見知ったふたりの姿。
アルメアとフェリシア。
ふたりして、駆け寄ってくる。
カウンターを飛び越え、他人を押しのけ。
あわてすぎて転びかけたりしながら。
俺を助け起こし、ディオスたちをにらみつける。
あともうひとり。
初老だが威厳のある人物が、進み出てきた。
「なんの騒ぎだ」
「ギ、ギルドマスター!?」
キツネ目が、驚きの声を上げた。
「面白かった」
「続きを読みたい」
などなど思ってもらえましたら、
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