33 勇者とZランク (1)
古竜との戦いを終え、俺はギルドに戻ってきた。
負傷で包帯まみれの自分の体。
しかし心は、ウキウキ気分である。
「古竜の魔石か。いくらになるんだろうな……?」
アルメアは別行動。
俺はひとりで、素材の査定を待っていた。
そわそわしていると、ざわめきが聞こえてきた。
周囲の冒険者たち。
「ほ、本当にあいつが倒したのか? 古竜を? ポーターなのに?」
「バカ、指さすな! 俺まで因縁つけられるだろ!」
「金せびられたらお前が払えよ!」
完全にヤクザ扱いされていた。
古竜戦に参加しなかった、Dランク未満の連中だ。
目を向ければ、一斉にサッと目をそらされる。
受けたことのない扱い。
知らない空気。
知らない感触だった。
つい昨日までいたような、イエ~Zランクぅ~Zランクぅ~と笑いながら頭上で手を叩いて囲んでくる手合いは、もはやこのギルドに存在しない。
それとは別種の、居心地の悪さ。
触れたくない腫れ物。
俺はひとりで、そんな空気を味わっていた。
と。
「ソ、ソウマさぁぁぁん!!」
女子が大声で走ってくる。
ここの冒険者ギルドの受付係、フェリシアだった。
目に涙を浮かべている。
「ソウマさんが直接戦ったって聞きましたが、本当ですかぁ!?
……あぁっ!? ホントにケガしちゃってるじゃないですかぁ!! こんなところにいないで、早く治療院に行きましょうよぉ!!」
「断る。報酬の査定が終わるまで、俺は死んでもここを動かん」
「ええぇぇっ!?」
「それより査定はどうなってるんだ? あとどれくらいかかる?」
「うう……ワイバーンですよねぇ。価額基準がしっかり制定してあるはずですから、すぐ終わるはずですけどぉ……」
「でも古竜はそうもいかないだろ。何日か必要なんじゃないのか」
「はぁ……古竜なんて倒したら、そうなりますねぇ。てんやわんやの大騒ぎでしょうねぇ」
「たしかに大騒ぎしてるしな。
……というか、ひょっとして知らないのか?」
「えっ? えっ? えっ?」
じょじょに顔が青くなっていく。
「しょ、少々確認してきますぅ……」
フェリシアは、すすすと後ろ歩き。
バックヤードに入っていく。
すぐに、うきゃーと叫び声。
わたわたともどってくる。
「ソ、ソ、ソ、ソウマさぁぁぁん!? なんですかあのすごい魔石ぃぃぃ!!」
「ああ。いくらの値がつくのか、実に楽しみだ」
「そうじゃなくてぇぇ! もしかして、ほんとに古竜と戦ってきたんですかぁぁぁぁぁっ!?」
「尻尾でびったんびったんされて大変だったぞ」
根掘り葉掘り聴収された。
はわあぁ~とか、ひゃあぁ~とか、しゃべるたびに驚かれる。
リアクションが良くて、正直ちょっと楽しい。
てんやわんや。
最後に、冒険者の誰もたいしたケガはしてないと締めくくったら。
ふぅぅ~……。
と、大きな息を吐かれた。
ジト目。
「……ワイバーンどころか古竜まで討伐してきてびっくり~とか、もうこんな無茶したらダメ~とか、いろいろ言いたいことはありますぅ」
「冒険者が戦うのは普通だろ」
「普通のEランクのポーターは、こんな相手と戦わずに逃げますぅっ!」
「むう」
「けどぉ……」
ぽん、と合掌。
「とにかく、そんなの相手にしたのにちゃんと帰ってきてくれて、本当に良かったですぅ!
わたしはそれが一番、すごいと思いますっ! さすがソウマさんですぅ!」
にぱぁ! と笑った。
ポーズとあわせて、後光が指すようだ。
帰ってきてから初めて、笑いかけてもらったな。
俺の無事を、心からよろこんでくれている。
つくづく善良な娘だ。
エルフだから年上かもしれないが。
「あと、ソウマさんの言うとおり、古竜素材の値付けは時間がかかると思いますぅ。王都の本部と連携して、学者さまをお呼びするだけでも何日かかかりますしぃ」
「う……。そんなにかかるのか」
「大ごとですからねぇ。特に古竜の魔石が、ものすごい価値になるみたいですよぉ」
「そ、そうか!? やっぱり、5000万ゴルドくらいは期待していいのか!?」
ドキドキしながら聞いてみる。
「えぇ……? それはちょっとぉ」
「あっ……。
い、いや、まあそんな都合よくはいかないよな。ははは……」
「そんな額じゃぼったくりですよぉ。オークションにかければ、おそらく12億ゴルドくらいにはなりま」
「はあああああああああっ!?」
俺はのけぞった。
「そそそそ、そんなバカなっ!? 昔見た取引記録じゃ、確かに5000万ってっ!」
「あぁ、それはたぶん戦闘で砕けちゃったやつですねぇ。
一番おっきなかけらが一個5000万ゴルドで査定されて、それでもかけら全部で3億ゴルド以上にはなったって記録されてましたぁ」
「…………………………」
言葉が出ない。
俺はただ、バカみたいに口を開けることしかできなかった。
「えぇとぉ、ソウマさぁん? もしもぉし?」
「あのー、フェリシアさん! すいませんが、こっちを手伝ってください!」
別のギルド員が出てきて、フェリシアを呼ぶ。
「あ、はぁい! ではソウマさん、失礼しますぅ!」
ぺこり。
フェリシアは明るく頭を下げて、席を外した。
ぼんやりと手を振る俺。
マジか。
12億ゴルドて。
マジか。
「………………」
時間とともに、事実がゆっくりと頭に染みこんでくる。
12億ゴルド。
魔石だけで。
最低額で。
他の部位素材やワイバーンをふくめれば、この値段はさらに上がる。
もちろんアルメアと折半するわけだが。
それでも6億以上は確実なんだよな?
借金10億ゴルドの完済。
途方もない話が、一気に現実味を帯びてくる。
「……へっ。
へっへっへっへっへっへっ……!!」
笑いがこみあげてくる。
笑わずにいられない。
かみしめるように笑う。
「借金が……! 俺の借金がごっそりと減っていく……!
浴びるほどの金……溺れるほどの金ッッッ!!」
想像上の俺が、山のような金貨を入れた風呂に漬かっている。
シャワーをひねると、追加の金貨が降ってきて窒息。
アヘ顔ダブルピースの変死体となった。
「ああ、魂が歓喜に満たされていく……。金は麻薬、金こそが永遠……」
夢心地の俺。
その幸せな、ひとときの幻想は。
「クハハハハハハッ! 相変わらず金のことばかりか! 卑しいなクズ加護!」
さんざん聞きなれた、不快な物言いに断たれた。
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