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32 卑しき黄金、輝く鉄 (4)

 陥没した地面にめりこんだ、サンサドール。

 メッキが半分はがれた顔を振り。

 ゆっくりと、起き上がってきた。


「き、貴様……!

 このカスがぁっ!!」


 怒声とともに、尻尾が振り下ろされる。

 必死に横へ跳んだ。

 すぐ隣で、地震のような打撃。

 風にあおられるが、止まっているひまなどない。


 激しく薙ぎ払われる尻尾。

 魔力を使い果たした俺は、振り返る余裕すらなく。

 木陰にまぎれ、視界を切って走り抜ける。


 アルメアが自力で脱出するまで、あと何分だろうか。

 格好よく啖呵を切った以上は、なんとしても持たせないと。

 つかず離れず。

 逃げられないよう、気を引き続ける。


 木々の枝の間をくぐり。

 サンサドールの足元へと、円を描きつつ回りこむ。

 俺を小虫のように潰そうとする、尻尾や踏みつけ。

 木陰と死角を駆け回り、狙わせない。


「そこかぁっ!!」


「ぐっ!!」


 尻尾、至近。

 当たってはいない。


 しかし、樹木もろとも吹き飛ばされる。

 木片やらなにやらが、激しく体を打った。

 飛び起きようとして。


 ……動けない!

 倒木に、足をはさまれている……!


「くそっ!」


 思わず悪態をついた俺を、見つけたサンサドール。

 嫌らしく笑った。


「勇者ならばともかく。貴様のような下男が、尊貴なる余の頭を足蹴にしてくれるとはな。

 その命をもって、余に詫びるがよいぞ……!!」


 黄金の燐光が、口から洩れ始める。

 ブレスの予備動作。


 くそ……しくじったな。

 まだ、ろくに時間を稼げてないのに。


「卑しいゴミ虫め、これで……」


「卑しいのはお前のほうだっ!」


 少女の声。


「【鋼の剣(スティールソード)】!!」


「なああああッ!?」


 完全に不意を突いた一撃。

 サンサドールが、再び地に伏す。

 その輝く鉄剣は、また俺を助けてくれた。


 目を疑う俺。

 どうして。

 早すぎる。


 見ると、ワイバーンの山は崩され、なくなっていた。

 かわりに冒険者たちが集まっている。

 みんな鎧や服が焦げ、ボロボロになっていた。

 ワイバーンの自爆を浴びたのだろう。


「あいつらが、助けてくれたのか……」


 筋骨ハゲも火傷でぶっ倒れている。

 その笑顔は、頭頂部に負けないくらい輝いていた。


 あるいは、当然の結果なのかもしれない。

 アルメアはずっと、誰かを助けるために戦っていた。

 だから助けられたほうだって。

 助け返したいと、そう思うに決まっているのだ。


「く、来るなぁっ!」


 無防備に横たわるサンサドール。

 苦し紛れに、ブレスでアルメアを迎撃しようとする。


 が、間に合わない。

 それより先に、アルメアの新しい魔法が発動する。


「【大鋏(ビッグシザース)】!!」


 大地から出現したのは。

 古竜すら超えるほどに長大な、輝くハサミ。


 サンサドールの喉元をすくい取るように、はさみこむ。

 ギリギリと閉まる両刃。

 鱗の虹色が消え、黄金がはがれ。

 鉛の表皮に、激しい火花が散る。

 固定された刃は、受け流すこともできない。


「ひいいいっ! ひ、飛竜ども、余を助けよ!!」


 ピィィィィッ! ピィィィィッ!

 笛の音のような鳴き声が、何度も響きわたる。


 ワイバーンが助けに入ったならば。

 あるいはサンサドールは、逆転できたかもしれない。

 アルメアが冒険者たちに助けられたように。


 しかしワイバーンたちの姿は、もはや影も形もなく。

 とっくに逃げ去ってしまっていた。

 それもまた、当然の結果だった。


 食いこむ刃が、とうとう鱗を切り裂いて。

 肉に到達し。


 ジャギィン!


 断頭台のごとき音を立てて。

 輝く刃が、交差した。


「ギョオオオオオオオオオッ……」


 断末魔を上げて。

 首が地に落ちた。

 地響きとともに、倒れ伏す黄金竜。


 死して魔力を失った、その金色の身体。

 それが、見る間に色あせて縮み始め。

 やがて老いさらばえた、鉛色のワイバーンの死体となった。

 これが黄金竜サンサドールの正体……。


「あんだけ苦労させられたのに! 詐欺だろこれ!」


 大きな体で大きな素材。

 そういうもんじゃないのかよ。

 これならガルーダのほうが、よっぽど金になったぞ。

 本日3回目の脱力。

 あとは魔石の査定に期待するしかない。


「はー……」


 がっくりと息を吐く俺。


「ソウマ!」


 アルメアが、輝く笑顔で駆けてきて。

 勢いよく、ぎゅっと抱きついてきた。


「……お疲れ、アルメア」


「やっぱりソウマはすごいや!

 ううん、今までもずっとすごいって思ってたけど、それよりもっとすごかった! ソウマといっしょに戦えて、ボクはホントにうれしいっ!

 どうかこれからもずっと、ずっとボクといっしょに……」


 と、人影が集まってくる。

 冒険者たち。


「お、お前ら……本当にたったふたりで、伝説の古竜を仕留めちまったのか……!」


「すごいわ! こんなの聞いたことないわよ!」


「あんた半端ねえな! ひとりであんなのに向かっていくなんてよ!」


「ポーターどころか、一流の武闘家みてえな動きしてたよな!」


「きっとあれくらいじゃなきゃ、勇者の仲間は務まんねえんだろうぜ!」


 口々に、俺をほめたたえる。

 そしてもちろん、アルメアのことも。


「勇者だとは聞いてたけど、まさかこんなに強かったとはな!」


「あ、あの! 助けてくれて、ありがとうございました!」


「アルメアさんがいなかったら、今ごろ俺たち……」


「本当にありがとうございます、勇者様!」


「アルメア様!」


「ア、アルメア様だなんて、そんな……」


 アルメア照れ照れ。

 ほんとに恥ずかしいのか、両手で顔を隠す。


 でも、ちゃんとまわりの顔を見てみろよ。

 笑顔と、感謝と、尊敬。

 お前のことを悪く言う冒険者なんて、もうどこにもいない。


 俺の見こんだ通りの評価を、こいつはようやく得られたのだ。

 それが誇らしくもあり、うれしくもあった。

 気がつけば俺も、思わず笑っている。


「ははは。帰るぞ勇者様」


「ソ、ソウマまで! もう……バカ!」


 アルメアは、可愛らしく俺をののしると。

 早足で周囲を追いこしつつ、先頭を歩いていった。


 誰よりも速く、誰よりも前へ。

 吹く向かい風にひるがえるマント。

 その小さいはずの背中の、青いマントが。

 まるでどこまでも広がる青空のように、大きなものに見えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 光の勇者(笑)と、副ギルド長の断罪がそろそろ起きそうですね。 鉄の勇者がここまで活躍したのに、光の勇者(笑)は、活躍すら出来なかったんだからね。 ソウマのZランクにも、Cランク以上の冒険…
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