31 卑しき黄金、輝く鉄 (3)
「フホ……フホホホホッ!」
黄金竜が、腕を伸ばし。
近くを飛んでいたワイバーンをわしづかむ。
それを――投げつけてきた!
「なっ!?」
ありえない。
アルメアはそう思ったのだろう。
激しく動揺し、行動が遅れた。
人の背丈より大きいワイバーン。
その質量による運動エネルギー。
それが小さなアルメアの体を、【鋼の剣】ごと押し返し。
さらに、衝撃で自爆した。
「うわあああああっ!!」
「フホッ! フホホホホホッ!」
吹き飛ばされ、倒れるアルメア。
そこにワイバーンが、次々と投げつけられる。
アルメアの持ち味である、大質量による重い攻撃。
サンサドールはそれを、あろうことか。
味方の肉体を投擲することで、再現していたのだった。
「ほれほれ、どうした!? 尊貴なる余の優れた機転に、手も足も出ないと見える! まったくゴミごときが、調子に乗りおって!
フホッ! フホッ! フホホホッ!」
配下を殺し続けるサンサドール。
その顔は、うれしそうですらあった。
自分の身を守るために、仲間を平気で犠牲にしていく。
それは。
とても、卑しい姿だった。
「お……お前えええええええッ!!」
アルメアの怒声。
許せないのだろう。
保身のために、仲間を犠牲にすることを。
誇らしいと言ったはずの配下の命を、文字どおり投げ捨てていることを。
しかしアルメアは動けない。
守らなければならないから。
背後にいる、俺と冒険者たちを。
広範囲をカバーするために、強度の高い【鉄の盾】ではなく、【鎖帷子】を展開して。
連続するインパクトが、アルメアをその場へ釘づけにする。
「ピギィィィッ!」
ワイバーンの悲鳴。
投げつけられた一体が、また爆裂した。
人体など消し飛ばせるほどの、すさまじいエネルギー。
度重なる圧力に、鎖の壁が大きくゆがみ、ひしゃげる。
重い爆発と、積み重なる重い肉体とが。
アルメアの守りを、みるみる圧し潰していく。
「ぐ、ぐくっ……」
「フホホホホッ! 後ろのゴミどもを守って、動けぬようだな!?
愚か、愚かぞ! 下等な者を守るために、自らを犠牲とするなど!
余のように卑しき者どもを切り捨てれば、死なずにすむものをなあ!」
「ふざけろ!! ここをどくくらいなら、死んだほうがましだっ!!
ボクは……ボクは、ソウマが信じてくれる勇者なんだっ!!」
「じょ、嬢ちゃん……」
筋骨ハゲと冒険者たち。
自分たちを必死に守るアルメアを。
呆然と、見つめていた。
「くそっ! アルメア!」
俺は駆けだした。
もう魔石はない。
だからといって、じっとしてなんていられなかった。
とうとう、鎖の壁が圧壊する。
死んだ竜たちの死体の山に、うずもれるアルメア。
「うううっ……」
【鎖帷子】のドームで、潰されてはいない。
しかし、身動きもとれなくなってしまった。
邪魔者を封じたサンサドールは、悠々と翼を開く。
空に浮き立った。
「貴様のような面倒な小娘に、これ以上つきあってなどおれぬわ。
次は貴様のいない、どこか遠くの人里を焼いて回るとしようぞ。フホホホホ……」
「ま、待てええっ……!!」
飛び去っていくサンサドール。
守ってくれた配下を、ゴミのように打ち捨てて。
「アルメア! くっ……」
アルメアが埋まる、ワイバーンの山。
そこに取りつこうとして、爆発にあおられた。
これはただの死骸の山じゃない。
いわば不発弾の集積所だ。
危険極まりない。
運悪く至近で爆発すれば、俺の体なんか跡形も残らないだろう。
アルメアが鉄魔法で、自分の身を守れているのは救いだった。
「おい、無理だ! どかす前に死んじまうぞ!」
外野ハゲの声が聞こえた。
が、かまっているヒマはない。
解体用ナイフを取り出した。
剣や盾よりも、よほど手になじんだ感触。
気に入らなかった。
他者を簡単に切り捨てた、あのドラゴンが。
恩を仇で返して、当然というツラをしていたことが。
まっとうに借金を返そうとする俺とは、真逆の選択だ。
その選択を、後悔させてやる。
そう思った。
奴が捨てていった、ワイバーンの死体。
その胸を切り裂く。
ワイバーンの解体は、今までさんざんやらされていた。
手早く魔石を抜き取る。
爆死の緊張の中。
ゴミのように打ち捨てられた、いくつもの魔石を集めて。
呪文を唱える。
「【再利用】!」
魔石が美しく崩れ。
魔力へと、生まれ変わっていく。
そして俺は、今だ埋もれているアルメアに問いかけた。
「どうする? お前を助けるか、あいつを追うか……」
確認だ。
今、アルメアの救出に時間を割けば。
サンサドールはゆうゆうと、逃げのびてしまうだろう。
そうなったら、いずれどこかの町が襲われる。
「ボクよりあいつを!!」
全く迷わずに、そう返してきた。
そう言うと思った。
「まかせろ!」
あふれる魔力のすべてを、両足にこめた。
走り出す。
ちらりと背後を見ると。
筋骨ハゲや冒険者たちの姿が見えた。
アルメアが必死に守っていたため、ほとんど無傷だ。
おっかない古竜が飛び去って。
さぞよろこんでいるだろうと、そう思いきや。
「「「…………」」」
連中は、顔をゆがめて。
申し訳なさそうな、情けなさそうな。
そんな泣きそうな顔で、俺たちのことを見つめていた。
まあ、期待されていると思っておこう。
視線を振り切り、加速する。
我ながら信じがたい速さで、風景が背後に流れる。
体の悲鳴を無視し、駆け抜けていく。
ギラギラ光る下品な背中が見えた。
跳躍。
竜よりも高い空中で。
上半身をひねり、重心を制御し。
右足を振り上げて、狙いすます。
「ホヒョ?」
振り向くバカ面。
その脳天に叩き込む。
全ての魔力をかき集めた一撃。
「食らえクソ竜!!」
――金貨5枚踵落とし!
「ホヒョオオオオオオッ!?」
クソ竜墜落。
森の木々をなぎ倒し。
揺るぐ森から、鳥や獣が飛び出し逃げていった。
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